アトリエのある家、あるいは母について
思うところがあり、母が作ったものを見せるためのInstagramのアカウントを開設しました(宜しければフォローしてください!)。
https://www.instagram.com/tomo_heikinritsu/
このnoteに書かれているのは、どうしてこのアカウントを作ろうと思ったかというメモ、そして、母の紹介文であります。
ものを作り続けるひと
母は1943年生まれの77歳、今はひとり暮らしをしています。彼女は昔から独特のセンスと技術によって誰に見せるわけでもなく淡々と作品(と呼べるのかはわかりませんが、僕にはそうとしか思えない)を作り続けてきた人でした。僕はいま、映像やデザイン表現に関わる仕事をしていますが——いささか安直なストーリーに聞こえそうではありますが、そんな母の影響が大きくあったことは間違いありません。例えばですが……
リビングにある布ものの多くが本人の手作りです。タッセルやクッションカバーにあるタグは、着なくなった洋服から取り外したもの。生地も洋服を分解裁断し、作り替えているそうです。
ダイニングの丸テーブルには、古物市で買ってきた古い和書の紙をテーブルに合わせ、上からガラスを載せていました。
玄関にある黒いタペストリには、原子構造から宇宙に至るスケールの図が手刺繍されていました。以前、作っている途中のものを見た僕が「すごく格好良い!」といったことを覚えていて、良い場所に飾ってくれたそうです。
近所で虫食いのある「綺麗な葉っぱ」を拾い、アルバムにファイリングしたもの。
家の中は万事こういった具合の工夫された何かに溢れています。僕が住んでいた子供のころとはいくぶん雰囲気は変わっていますが、パーソナルな存在感はずっとこのままです。
そんな母ですが、ここ最近気分がすぐれず、食欲も出ないことが少なくないらしく、心配しています。話を聞くと、判断力の衰えを感じて車の免許を返上したことに加えて、新型コロナウイルスの影響で出歩くことが極端に減り、人と話すことや関わりを持つ機会が減ったことが原因のひとつと感じました。
そこで、多少なりとも社会とのつながりを維持するための場所として、SNSを使ってはどうかと思いました。とはいえ、母にTwitterで何か書いてみてよ、と言ってもどうして良いか困ってしまいそうです。でも、身の回りのこの作品たちをアップする場所なら作れるかもと思い、Instagramのアカウントを取得することにしました。
まずは、数年前に作ったという、この「ぬりえ72候」から始めてみます。モレスキンのノートに、72候=1年を72に分けて季節を表現した言葉をレタリング的に表現したものです。以前見せてもらってすごく気に入ったので、お願いして持ち帰らせてもらっていました。数日に1度、実時間の季節に合わせてアップしていこうと思います。
ふたつの「平均律」
以下は全くの余談になってしまうのですが。
僕は20年ほど前から個人的にイラストレーションの同人誌を作っています。初めてイベントに参加する際、申し込むのに出展者として「サークル名」をつける必要があるのですが、迷った末に“平均律”という名前にしました。
サークル平均律として出した本「意味からの解放宣言」
実はこの名前、母が30年ほど前に開いた個展のタイトルからきています。当時母は、自分の部屋で小さな抽象画を作っていました。特に発表を目的としたものではなかったようですが、人づてに近所のギャラリーオーナーと知り合い、「折角の機会なので」個展を開くことになったそうです。好んで聴いていたバッハの「平均律」にちなみ、各作品に楽譜の一小節をつけてタイトルの代わりとしたのだとか。
自宅の2階にある母の部屋。今思えばまるでアトリエのようです。
画材がたくさんあって子供的には楽しい場所でした。
僕の同人活動は結局だらだらと続けられ、今まで20ちょっとの本やグッズを作ってきましたが、そのたび欠かさず母に送っています。名前を借りた敬意の表れと思って、勝手に決めたルールです。2020年は結局1冊も作れなかったのですが、今年はまた何か気楽な本を作りたいところです。
平均律:「鏡と雨のヴィネットカード」
Instagramのアカウントを作るとき、名前だけだと被りが多すぎて取れないので、うしろに「平均律」をつけることにしました。もはや自分の屋号として愛着と思い入れのある名前ですが、もう一度発案者に使えてもらえて、嬉しいです。
そんなわけで、もう一度貼っておきます。よろしければフォローお願いします。→ https://www.instagram.com/tomo_heikinritsu/
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