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2 児童の過去の裸体写真を素材として当該児童が18歳以上になった時点で作成されたCGは、児童ポルノに該当するか(最高裁令和2年1月27日第一小法廷決定)

【結論】
 
前提として、実在しない児童(架空のキャラクター)の性的画像は児童ポルノには含まれない。
 しかし、実在する児童の性的画像を作成すれば児童ポルノ製造罪は成立し、製造時点において当該児童が18歳未満である必要はない。

【関連条文】
児童ポルノ法
第2条
1 この法律において「児童」とは、十八歳に満たない者をいう。
3 この法律において「児童ポルノ」とは、写真、電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)に係る記録媒体その他の物であって、次の各号のいずれかに掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写したものをいう。
③ 衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって、殊更に児童の性的な部分(性器等若しくはその周辺部、臀部又は胸部をいう。)が露出され又は強調されているものであり、かつ、性欲を興奮させ又は刺激するもの
第7条
6 児童ポルノを不特定若しくは多数の者に提供し、又は公然と陳列した者は、五年以下の懲役若しくは五百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。電気通信回線を通じて第二条第三項各号のいずれかに掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写した情報を記録した電磁的記録その他の記録を不特定又は多数の者に提供した者も、同様とする。
7 前項に掲げる行為の目的で、児童ポルノを製造し、所持し、運搬し、本邦に輸入し、又は本邦から輸出した者も、同項と同様とする。同項に掲げる行為の目的で、同項の電磁的記録を保管した者も、同様とする。

【主要登場人物】
CG作成者X(被告人)

【事案の概要】
① 児童ポルノ法が施行される前の1980年頃、児童の裸体を撮影した写真集が発売された。

② 児童ポルノ法の施行後、Xは、この児童の裸体写真を忠実に再現したリアルなCGを作成し、インターネット上で販売した。

③ CG作成時点において、当該児童はすでに18歳以上になっていた。

④ Xは、上記CGの作成及び販売について、児童ポルノ法違反の罪で起訴された。

【判決要旨】
上告棄却(職権で以下のとおり判断した)。

 児童ポルノ法2条1項は、「児童」とは、18歳に満たない者をいうとしているところ、同条3項にいう「児童ポルノ」とは、写真、電磁的記録に係る記録媒体その他の物であって、同項各号のいずれかに掲げる実在する児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写したものをいい、実在しない児童の姿態を描写したものは含まないものと解すべきである。

 児童ポルノ法7条5項(現7項)の児童ポルノ製造罪が成立するためには、同条4項(現6項)に掲げる行為の目的で、同法2条3項各号のいずれかに掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写した物を製造すれば足り、当該物に描写されている人物がその製造時点において18歳未満であることを要しないというべきである。

山口厚裁判官の補足意見

 児童ポルノ法2条3項に定める児童ポルノであるためには、視覚により認識することができる方法で描写されたものが、実在する児童の同項各号所定の姿態であれば足りる。

 児童ポルノ法7条が規制する児童ポルノの製造行為は、児童の心身に有害な影響を与えるものとして処罰の対象とされているものであるが、実在する児童の性的な姿態を記録化すること自体が性的搾取であるのみならず、このように記録化された性的な姿態が他人の目にさらされることによって、更なる性的搾取が生じ得ることとなる。

 児童ポルノ製造罪は、このような性的搾取の対象とされないという利益の侵害を処罰の直接の根拠としており、上記利益は、描写された児童本人が児童である間にだけ認められるものではなく、本人がたとえ18歳になったとしても、引き続き、同等の保護に値するものである。
 児童ポルノ法は、このような利益を現実に侵害する児童ポルノの製造行為を処罰の対象とすること等を通じて、児童の権利の擁護を図ろうとするものである。

【ノート】

1 争点の整理

 ① 児童ポルノの規制対象には架空のキャラクター(成人雑誌のロリキャラや女性向けBL等)まで含まれるのか、それとも実在する児童に限られるのか。
 ② 実在する児童に限られると考えた場合、児童ポルノ製造時点において被写体の児童は18歳未満である必要はあるのか。具体的にいうと、児童の過去の裸体写真を素材として当該児童が18歳以上になった時点で作成されたCGは、児童ポルノに該当するのか。

 以上の2点が本件の主要な争点であり、児童ポルノ法の保護法益の理解が結論に大きな影響を及ぼす。

2 児童ポルノ法の保護法益

 児童ポルノ法の保護法益について大きく分類すると、①被写体とされる児童の心身の健全な成長を守るという個人的法益説、②児童を性欲の対象とする社会的風潮が広がることを防ぐという社会的法益説、③個人的法益と社会的法益の両方が含まれるとする折衷説がある。

 個人的法益を強調すれば、児童ポルノの規制対象は実在する児童に限定され、被写体児童が18歳以上になった時点で作成されたCGは、すでに守るべき法益主体が存在しないとして児童ポルノには該当しないことになるだろう。
 反対に社会的法益を強調すると、規制対象には架空のキャラクターまで含まれ、被写体児童が18歳以上になった時点で作成されたCGも風紀を害するものであるとして規制対象になるだろう。

 本件の第一審及び控訴審は、個人的法益を大前提としながらも社会的法益も含まれると判示して、折衷説を採用した。
 その上で、児童ポルノの規制対象は実在する児童に限定されるとしつつ(個人的法益)、被写体児童が18歳以上になった時点で作成されたCGも児童を性欲の対象とする風潮を助長するものであるとして規制対象になるとした(社会的法益)。

3 結論のみを示した最高裁

 ところが、本件の最高裁判決は、保護法益論に一切言及することなく、第一審及び控訴審の結論のみを肯定した。
 被写体児童が18歳以上になってから作成されたCGも規制対象とするという結論を是認する以上、おそらくは社会的法益も含まれると考えているように思われるが、現時点でこれを最高裁として明言することを躊躇したため保護法益論への言及を避けたのではないかと思われる。

 この点について、山口厚裁判官の補足意見は個人的法益のみで説明しようと試みている。
 たしかに本件の事案については説明できているようにも思える。しかし、例えば、本件の事案に、18歳以上になった被写体児童がCGの作成及び販売に同意していたというような事情が加わった場合、はたして被写体児童の個人的法益だけで処罰を説明することができるのか、疑問が残る。

4 まとめ

 児童ポルノ法の保護法益を最高裁としてどのように考えているかが明らかにされなかったことは残念である。
 しかし、架空のキャラクターは児童ポルノには該当しないということを最高裁として明言した点には重要な先例的価値があり、いわゆるアダルト系の創作活動に携わる人々にとっては大きな指針となる判決であろう。

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