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老舗雑貨店のV字回復劇:「買いに来れないなら売りに行く」で勝ち取った未来

1.はじめに


 少子高齢化が進む現代社会において、多くの企業が生き残りの道を模索しています。今回取り上げた創業180年を超える雑貨店も例外ではありませんでした。しかし、同店は地域の高齢者向け事業に活路を見出し、見事に業績をV字回復させました。

 本記事では、同店の成功事例を深く掘り下げ、高齢化社会を生き抜くヒントを探っていきます。

2.人口の増加がもたらす苦境

 同店は首都圏のベットタウンに立地し、衣料品をメインとして、文具・食料品・日用品など多岐にわたる商品の小売販売をしています。

 そして、人口減少社会の中、同店が立地する地域の人口は増加していました。このような魅力的なマーケットを大手企業が放っておくはずもなく、商圏内にはチェーン展開するスーパーマーケットやドラッグストアの進出が相次ぎ、同店は苦戦を強いられていました。

「どんどん進出してくるんやで」

 さらに、同店から車で10分弱の場所に国内最大規模のショッピングセンターが開店し、同店の業績低下に追い打ちをかけました。

 このような逆風にさらされた同店は、今後の事業展開を模索する中で事業ドメインを策定することにしました。

3.事業ドメインの再定義:高齢者向け事業への挑戦

 事業ドメインとは、企業が事業展開をする領域であり、「誰に」「何を」「どのように」提供するのかで表すことが可能です。これを明確化することによって、事業展開の方針が定まっていくことが期待できます。

 当時の同店における事業ドメインは以下の内容でした。

「まず現在のドメインを明らかにするんやで」

誰に:高齢の女性に
何を:婦人服メインの雑貨を
どのように:店頭の安売りで

 「誰に」の部分は「高齢の女性」となっていますが、これは、同店を利用していた若年層が、競合へ流出してしまっており、昔からの常連客である高齢の女性という顧客層だけが残ったことを示しています。

 そしてこの事業ドメインのままでは、事業が先細りになることは自明の理でした。つまり、現在の常連客がお年を召して、買い物に来られなくなると、その予備軍が極端に少ないため、同社は行き詰まってしまうということです。

 そこで、高齢者予備軍の集客をする必要がありますが、その前に買い物に行きたくてもいけないようなお年を召した方々が入居する介護施設に、出張販売に行くことにしました。これは以下の事業ドメインとなります。

「誰に」:介護施設の入居者に
「何を」:買い物を楽しむことを
「どのように」:出張販売で模擬店を使って

 この取組を行うにあたり、同社は以下で示す行政の支援策を活用しました。

「どんな支援策を使ったのかな?」

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4.行政支援策の活用:飛躍の原動力

(1)経営革新計画とは

 行政の中小企業支援策のひとつに「経営革新計画の承認制度」があります。「経営革新計画」は、中小企業が実施する新規事業の計画です。新規事業とは、新製品や新サービスの提供や、製品やサービスの新たな提供の方式などが該当します。

 そのようなテーマの事業計画書を経営革新計画として作成し、都道府県の審査を通過すると承認書がもらえます。この承認を得ることによって様々な特典がありますが、以下はその一部です。

  • 補助金審査時の加点:補助金によっては、経営革新計画の承認があると審査時に加点となります。

  • 特別利率融資:日本政策金融公庫から融資を受ける場合、経営革新計画の承認があると、通常よりも低金利の融資制度において審査の対象となります。

  • 信用保証制度の特例:より有利な条件で信用保証を受けられる審査の対象となります。

「ありがたい特典もそうでない特典もあるんやで」

 商工会や商工会議所の会員になっていれば、専門家派遣制度を活用して、経営革新計画を作成することも可能です。これは、会員の金銭的な負担はゼロで、中小企業診断士などの専門家から支援を受けることのできる制度です。

(2)経営革新計画をマーケティングに活かす方法

 同店は、介護施設への出張販売というテーマで、地元の商工会を通じ、経営革新計画の策定をすることにしましたが、作成した経営革新計画が承認された後、11の新聞社に経営革新計画の内容、経営革新計画の承認を受けたこと、今後も地域の高齢者のサポートをしていきたいということを述べた文書を送付しました。

 これにより、ある新聞社から取材を受けることになり、同社の取組みが新聞で紹介されました。結果として、同社の取組みを多くの方に知ってもらうことができ、介護施設から出張販売に来て欲しいという要請が相次ぎました。

「初めて取材を受けて緊張したんやで」

5.まとめ

 本事例は、創業180年を超える老舗雑貨店の、高齢者向け事業の成功事例です。周辺の大手スーパーやショッピングモールの進出、高齢化による顧客数の減少という課題を乗り越え、介護施設への出張販売という新たな事業ドメインを確立することで、業績を大幅に向上させました。

 この成功事例から、以下の3つのポイントが導き出されます。

(1)事業ドメインの明確化と再定義

 競合との差別化を図るために、自社の強みや顧客ニーズに基づいた事業ドメインを明確化することが重要です。また、市場環境の変化や顧客ニーズの変化に合わせて、定期的に事業ドメインを見直し、必要に応じて再定義を行うことも重要です。

(2)行政支援策の活用

 経営革新計画の承認制度をはじめ、中小企業向けには様々な行政支援策があります。これらの支援策を積極的に活用することで、資金調達や販路開拓などの面で大きな支援を受けることができます。

(3)地域貢献と広報活動

 地域の高齢者向けのサービスを提供することで、地域貢献を果たすと同時に、企業イメージの向上にもつながります。また、新聞やSNSなどを活用した広報活動により、自社の取り組みを広く知ってもらうことも重要です。

 これらのポイントを参考に、自社の事業戦略を見直し、新たな事業機会の創出を目指しましょう。

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