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ドイツ旅行2016:ヴッパータールの空中鉄道


2016.09.19

ヴッパータールへ

ルール地方の東の方にヴッパータールという都市がある。ドイツ語で地名の語尾に付くタールは谷の意味だから、ヴッパー谷の町だ。人口は35万人いるから日本の県庁所在地ぐらいの規模はある。
この都市、知る人ぞ知るといった都市で、コンテンポラリーダンスが好きな人にはヴッパタール舞踊団の本拠地として知られているし、製薬会社のバイエルの創業の地として豆知識的に知っている人もいるだろう。そして、ヴッパータールには現役で営業している世界最古の懸垂式モノレールが走っている。私は今回、このモノレールに乗るためにヴッパータールまでやって来た。

きっかけはこれ。ANA機内誌『翼の王国』2015年2月号の記事「空中鉄道で行こう」を読んだのが発端だった。機内誌は持ち帰る派で、気に入った記事は切り抜いて保存する派だ。念願かなってのヴッパータール訪問と言ってもいいかもしれない。

というわけで、やって来たヴッパータール。
駐車場の位置は詳しくは覚えていないのだけど、どうやらピナ・バウシュ劇場 (Pina Bausch Zentrum) 付近に車を停めたようだ。ピナ・バウシュとは冒頭に書いたヴッパタール舞踊団の芸術監督を務めたコンテンポラリーダンスの第一人者で、その名を冠した劇場というぐらいだから舞踏団の本拠地、その界隈の「聖地」だと思うけど、残念ながらそこまで教養がなかったので写真すら撮ってなかった。

それはさておき、私の方はモノレールだ。
逆U字形の柱で大きく道路を跨いでいる。探すまでもなく、目に飛び込んできた。

少し待っていると、モノレールがやって来た。
上に線路(モノレール)があり、そこからぶら下がる(懸垂)構造になっているので懸垂式モノレールという形式になる。
ドイツ語ではschwebebahnと言うらしい。schwebeは宙に浮かんでいるとか宙吊りになっているという意味で、そのまま直訳すると「宙吊り路線」とでもなろうか。訳語としては「空中鉄道」という呼び方が定着しているようだ。ANAの機内誌の記事も「空中鉄道」を使っていた。schwebebahnの語感を生きていて良い訳だと思う。

ここで撮った写真を全部載せていたらキリがないので載せないけど、それなりの時間はモノレールを眺めていた。

見ているだけじゃなくて実際に乗ってみようと駅を探して歩き出す。線路沿い(=川沿い)に歩いていけば良い話で、すぐにLandgericht という駅が見つかった。
Landgericht はドイツ語で地方裁判所の意味で、地名ではなく、駅のそばに地方裁判所があることにちなむ駅名だ。近くには地方裁判所の建物があって、これはこれで、1908年に建てられたネオバロック様式の重厚な建物で、ドイツの裁判所の建物の中でも最も古い部類になるものらしいのだが、これもリサーチ不足で全然気が付かなかった。
そもそもLandgerichtが地方裁判所の意味というのも今この記事を書くために調べ始めて知ったことなので、現地にいた時は本当にモノレールのことしか頭になかったのだろう。今回のヴッパータールはそれだけ、全くの観光抜きでモノレール三昧だったわけだ。

モノレールに乗ってVohwinkel駅へ

Landgericht駅から乗ってまずは西側の終端のVohwinkel駅へ行く。路線はシンプルに1本だけなので、まずは1往復して全線乗り潰すところから始める。

車内の様子はこんな感じ。なんとなくドバイのらくださんが見られている気がするが、気にしないことにする。

Vohwinkel駅についてもすぐにプラットホームを出てはいけない。ここにも見どころがある。
普通の鉄道なら、終着駅に付くと逆方向が先頭になって折り返してく。鉄道ならと書いたが、東京モノレールだって浜松町駅と羽田空港第2ビル駅でそれぞれ折り返して往復している。ところが、ヴッパータールのモノレールはこの先でぐるっと一回転して向きを変える。つまり、列車にとっては環状になっているレールをぐるぐる回っていることになる。

Vohwinkel駅に到着後、回転のために発車するモノレール

Vohwinkel駅の回転場にはアトラクション的な要素まである。写真に白く湯気のようなものが写っているが、これは実は霧状した水。回転場のカーブがあまりにも急なので、水を吹きかけて滑りを良くしているのである。
奥には整備工場もある。

Vohwinkel駅の外に出てみる。うわっ、交差点を斜めに跨ぐように支柱が立てられている。

そして、この光景。この通りの名称はカイザー(皇帝)通り。カイザーと言うからには当然街一番の目抜き通りだ。その直線の通りの上にモノレールの線路が覆いかぶさっている。逆U字形の支柱がどこまでも続いている。通りに面した建物が漆喰塗のオールドファッションなのもいい。
モノレールができた当時は、さぞ近未来的な乗り物が出現したとして驚きを持って迎えられたことだろう。

折り返してOberbarmen Bf駅へ-全線乗車

今は西の端のVohwinkel駅にいるので、これからモノレールに乗って一気に東の終端のOberbarmen Bf駅まで行く。
Oberbarmen Bf駅にBf(Bahnhof)=駅と付いているのはDB/ライン地域Sバーンのオーバーバルメン駅に隣接しているからだ。鉄道が趣味の人なら、かつて、京成電鉄に国鉄千葉という駅があったことを思い出すかもしれないが、ニュアンスとしてはそんな感じだ。
Oberbarmen Bf駅は終端の駅なので、先程のVohwinkel駅と同じく、駅に着いた後の列車は回転場へとそのまま進んでいく。ただしここは大きな通りを挟んでその先に車両基地があるので、狭くて薄暗い感じのVohwinkel駅とは違って、明るい場所で回転場へ向かう列車を見ることができる。車両の上、懸垂式モノレールの車輪がレールに載っかっている様子もよく観察できる。

ちなみにこの列車、最初にLandgericht駅からVohwinkel駅まで乗った車両と同じカラーリングだが、先程のは18号編成で、こちらは15号編成なので、別の列車だった。この青とオレンジが標準的なカラーリングのようだ。

駅舎は川の上にあって、こんなふうに鉄骨が足を開いて踏ん張っている。

Oberbarmen Bf駅近くのヴッパー川の中は、日本でいう親水公園になっていて、水辺まで行ける。
緑あふれる公園の頭上にモノレールの線路が走っているのは、異質のようでいて、なんとなくなじんでいる気もする。これも世界最古の現役モノレールの所以だろうか。

駅舎コレクション

Vohwinkel駅とOberbarmen Bf駅の間、13.3kmを全線乗り通すことができたので、鉄道趣味的にやるべきことはやり終えた。あとは好きなように空中鉄道を楽しめばいい。今が18:30だが、日が暮れるまではもう少し余裕があるだろう。
というわけで、気になった駅で適当に乗り降りしてみることにしてみた。
実は気になっていたのだが、ヴッパータールのモノレールの駅舎が面白い。古いタイプのものもあれば、リニューアルされてガラス張りになっているものもある。
(駅の並びは順不同)

Vohwinkel駅

右手に回転場と整備工場があって、駅との間がアーケードみたいになっている。近くにはDB/ライン地域のSバーンの駅もある。

Landgericht

これが、最初に乗った「地方裁判所」駅の駅舎。鋼材で縞模様を作って見せている。

ヴッパータール中央駅

中央駅。看板が出ているようにDB/ライン地域のSバーンの駅に隣接している。古いモルタル壁の建物だが、丸窓がいいアクセントになっている。

Bruch

通りの上にラーメン構造の鉄骨を跨がせて、なんとか収めた感がある。

駅への出入りは隣のビルから。まるで地下鉄の出入り口みたいだ。

Ohligsmühle

駅名は「油を搾るための水車」から来ていて、ヴッパー川の水力を利用した水車が1870年まではあったらしい。
リニューアルされたガラス張りの駅。川の上に架設してある。

乗客が行き来する通路を保護するためのカバーがしてあるのだが、これがカタパルトみたいな感じでカッコいい。

Kluse/Schauspielhaus

こちらもリニューアルされてガラス張りの駅。三角形の大屋根を被せているが、よく観察すると線路を支える支柱を構造材としてそこにガラス張りの屋根を取り付けていることがわかる。モノレールの構造自体を活用して駅舎をデザインしようとする面白い試みだ。

Werther Brücke

鋼材で縦のラインを強調していてLandgerichtと同じスタイルの駅だが、駅名標が凝っている。Brückeは橋のことでワーサー橋駅。ヴッパータールのモノレールは川の上を通しているので、川に架かる橋とはこのように立体交差することがある。

Oberbarmen Bf

最後にもう一度Oberbarmen Bf駅に登場してもらう。踏ん張っている鋼材が魅力的だ。



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