男の哀しみ溢れる”同棲ソング”
先日ラジオを聞いていたら流れてきた曲が、布施明の「積木の部屋」。パーソナリティはこの曲を「同棲ソング」と呼んでいた。
布施明「積木の部屋」(1974)
限りないもめごとも嘘も 別れだとなればなつかしい
もしもどちらか もっと強い気持ちでいたら
愛は続いていたのか
うーん、さわやかなのかウェットなのか。
同棲という響きからは薄暗くて幸薄い印象を受けてしまうが、男女の間に起こることは昔も今もあまり変わらないのだろう。
また、そのラジオでは「同棲ソング」としてこちらの曲も紹介していた。
野口五郎「甘い生活」(1974)
今では二人からだ
寄せても愛は哀しい
何かがこわれ去った
ひとときの甘い生活よ
「甘い生活」という言葉とは裏腹の冷めた関係。
これを歌い上げる野口五郎、この時18歳。もう酸いも甘いも嚙み分けたオトナのよう。
それにしても1974年は後世に残る同棲ソングが2曲も発売されたとは。
当時、はやった漫画(劇画と言われていたが)に「同棲時代」という作品があり、これがテレビドラマ化もしてブームとなっていたという。
これは1973年に公開された映画版の映像。なおテレビドラマも同年に放送されたということだから、その人気は大変なものだったのだろう。ちょっと前でいう「世界の中心で愛を叫ぶ」も同じようなブームだった記憶がある。
しかし、結婚前の男女が同じ部屋に住むというモチーフは、これまでにもあったわけで、その最高峰の曲がこちら。「また逢う日まで」だ。歌謡曲の原点たる名曲。
尾崎紀世彦「また逢う日まで」(1971)
ふたりでドアを閉めて
ふたりで名前消して
その時心は何かを話すだろう
1974年の曲と同じ別れの曲なのだが、この爽快感は何だろう。
1971年という時代のせいか。
爽快な別れという点では、こちらの曲もある。
キャンディーズ「微笑みがえし」(1978)
お引っ越しのお祝い返しも
今度は二人別々ね
引っ越し祝いのお返しをする頃にはもう、別れてしまっていたということなのか。。といいつつ、トランプが「忘れたころに見つかる」と言っているし、昔から聞いていてよく分からない曲ではあったが。
とはいえこの曲は、解散が決まって最後に1位を取らせようと制作陣が満を持して送り出した曲なのだ。それまでの彼女らの曲のタイトルが歌詞に散りばめられているということで、そんな詮索は野暮というもの。
「微笑みがえし」から約10年後、時はバブルではある。
歌詞の中に、「薔薇」や「マニキュア」「写真立て」など小物も少し高価になっている?感じがするものの、やはり別れに際して部屋に独り残された男の慟哭を、当時を代表する美男子が歌い上げている。
チェッカーズ「Room」(1989)
何も変わらない部屋で
君の香りが消えてく
そして初めて悲しみ知ったよ HeartBreak Room
野口五郎といい、ハンサム男は別れとなるとなんと弱弱しいものなのか。
さて、ここまでは同棲のおわりを歌った曲ばかりであったが、当然はじまりもある訳で。あまり印象に残っている歌は多くないのだが、これもちょうど同じ日に聞いたもので、最後に紹介したい。
松任谷由実「一緒に暮らそう」(1984)
ねえ さっき思いついた
粉雪が舞って来たとき
さよならを云わなくてもいい方法
(中略)
部屋のドアを開けたら 一緒に暮らそう
時代はチェッカーズから少しさかのぼる。
なんかこういうセリフを女性側から発するという、それが新しかったのだと思う。年末のせわしなくも心が浮き立つ感じと、好きな人と一緒に暮らすというドキドキした感じとが、うまい具合にミックスされた実に多幸感あふれる曲である。
この映像もなんとも楽しそうでよいね。
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