【過去選#1】命をかけて
今日もぐーたら。昨日もぐーたら。一昨日も一昨々日もその前もその前も。ぐーたらぐーたら。勉強しなきゃ。準備しなきゃ。計画立てなきゃ。よーし…ぐーたらぐーたら。しょうがないので久しぶりに祖父母に会いに行った。
元気だった。息子家族がやってくると言って寿司の出前を取る最高のテンプレート。「苦いお茶が好き」という発言が約十七年前、僕の口からこぼれた日から来るたび必ず出てくる苦いお茶。一息つきながら二人は息子と、自分たちの葬式のことを相談している。
「どっちかが先に逝ってどっちかがボケたとき用にここに書類が入ってるから笑」
終活と呼ばれるもので、最近は生きてるうちに自分の葬式、遺産のことを詳しく決めておいて、いざ【コト】が起こったときに周囲の人間が困らないようにするという配慮である。それにしても僕には分からなかった。自分の葬式を笑いながら説明する二人が。六十年一緒に寄り添ってきた人が、ある日突然いなくなる未来が見えてしまったときの気持ちが。自分が死ぬことが。
祖父は学者だった。戦前に商業学校を出て、ひどい苦学の末、研究者になった。真面目に、真面目に本を読み、論文を書き、仕事をこなし、叙勲ももらった。大学闘争の時は教員として先頭に立った。
「学生諸君が大挙して大学に押しかけてきた。そこでそこのリーダーやっとる君が『大橋出せ大橋出せ』と言うもんだから出てかなくちゃならん。そんでその君とあれやこれや言い争いをしとったら、大変なもみ合いの中で誰かが僕の足を蹴ったんだ。その時その学生諸君は『自分達は絶対暴力は振るわん』と言ってたから、僕は『君ら暴力は振るっちゃいかんだろ!』と言ったんだ。そしたら『嘘言うな俺はやってない』とこう言う。『なんでや今僕を蹴ったろう』と言うと、その君が『やってないと言ってるだろ!』と言いながら僕の顔をぶったんだ。」
「大学の壁に『労働者を守れ』という落書きをした学生に『大学教員という僕ら労働者がそれを消すんだからやめてくれ』と言ったら謝って逃げていった。」
僕らが豪語している波乱万丈なんて一体何なんだろう。惚れた腫れたで一喜一憂してる場合じゃない。
「上の人間は下の人間を見てる。どんな上の人間だって下の人間の気持ちが分かる。そうだろう。君のサークルだって二年生は一年生が今の時期どんな気持ちでいるか分かるだろう。上の人間は下の人間が本当に頑張ってるか、いい加減に仕事してるか一目で分かる。下の人間は上の人間につり上げてもらってチャンスをつかんでいくんだ」
「僕が普通の教授たちより若いのに偉い先生からすごく良くしてもらっていることで、周りの人間がつっかかってくることもあった。でもそういう人には『じゃああなたは一生懸命仕事してるんですか?こっちは命かけてやってるんだぞ。あなたは命かけて、コレやっとるのかね!』と言ってやったんだ。そしたら君、向こう何も言い返せない。」
そういや親父は二浪目の秋から死ぬ気で勉強を始めたらしいけど、その時もやっぱり父に『一生懸命やりなさい』って言われたんだとか。なんだか、命かけてやる、とか一生懸命やる。とかって言葉は小さい頃からどこでも聞かされていたことだけど、最近はそれこそが結局は全ての答えなのではないか、なんて。でも問題は、そういう風に熱意を持って出来ることを見つけられるか、ってことだとも。僕にとって命をかけて、一生懸命出来ることって何なんだろう。いい加減とハッタリで生きてきた僕にそんなものあるのだろうか。もし見つけたらその時は命をかけてやろう。
いや、それって、もしかしたらもう近くにあるのかも。どうだろう。分からないけどとりあえず、ベッドから起き上がる。
※この記事は2017年9月8日に、はてなブログ「隔日おおはしゃぎ」に掲載されたものに加筆、修正したものです
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