見出し画像

ジェイク・リーの一日

画像1


毎朝地下鉄駅を出てくるところから、ジェイク・リーの一日は始まる
人の群れに続いて地上に上がる
入り口を出るとすぐに、四角い澄んだ青空が顔を出す
十一月の早朝は肌寒い
彼は身をすくめる
そして、すでに上げられたジャケットのファスナーを今一度上げる


ジェイク・リーはまっすぐ早足で歩いていく
向かう先は小さなレンガ造りのアパートだ
その部屋は、小説を書くためだけに借りている
まるで彼が救世主か何かのように、新作を待つ人間たちがいるのだ
「家では集中して書けないから」、それが彼の小さな誇りだ
だがそろそろ、そこも引き払うときが来たような気もする……


ジェイク・リーはふと足元に目を留める
枯れ葉と、踏みつぶされた空き缶とが落ちて転がっている
「自分は一体どちらに似ているのか」と彼は考えてみる
そして、「いやいや、そんな馬鹿な」と首を振る
「そんなことを考えるのは、おれがもう半世紀も生きたからだ」
「でも、まだまだだ、これからのはずだ」


通り過ぎる小さな商店の、入り口を見遣る
その窓ガラスに自分の姿を見て ― ぎょっとする
「これがおれなのか?」
「しわが増え、目の下には黒々としたくまをつくった男が?」
「いつからこんなになったんだ?」
「どこで何を、こんなに間違ったんだ……?」


商店を何軒か過ぎたところに、小さな空き地がある
空き地には家と食べ物を持たぬ者が一人うずくまっている
汚れた服が、まるでその唯一の要塞であるかのようだ
裸足の足が何とも寒々しい
「おれだって、こいつよりはよほどましなのだ」
「そうだ、きっとましなのだ」


昼食代に持っていた五ドル札を投げてやる
何だか自分が救われたような気持ちだ
乞食はズボンの上にひらりと乗った五ドル札を認めるが、うんでもすんでもない
「そんなものか」とジェイク・リーは考える
少し理不尽だとも思うが、しょうがないのだ……
そういうものなのだ


アパートに着く
一面のレンガの壁でできた、小さなアパートだ
ジェイク・リーは淡々と鍵を開けて、一直線に机に向かう
さあ、仕事開始だ!
彼は真面目に、しかし情熱たっぷりに頭の中を言葉という絵筆で描いていく
彼が一日で一番生き生きとしている瞬間だ


ジェイク・リーはしばらくはものすごい勢いでペンを飛ばす
しかし、今日は何だか調子が変だ
お昼を過ぎたところで、彼は頭をひねる
「おかしいぞ、今日はちっとも筆が進まない」
「考えても考えても、『ひらめきの一言』が浮かんでこないぞ」
彼はしばらくその理由を考えてみる


ジェイク・リーは突然、大きな音で手を叩く
そうだ、今日は昼飯を食べていないのだ
腹が減っているから仕事にならないのだ
あいにく、昼食の金はあいつに全部やってしまった
「ああ、何ということだ!」
「忌々しい、全く忌々しい……」


それでも何とかその日の仕事をやり遂げ、ジェイク・リーはアパートを出てくる
晩秋は日が暮れるのが早い
夕暮れ時の寒さは一際身に沁みる
誰も待たない家に帰る彼にとっては


街には少しずつ明かりが灯り始めている
しかし、もうほとんど暗くなろうとしている空の向こうに、
真っ赤な夕焼けの消えかかりが残っている
あたかも、翼を広げた大鳥のようだ


それを見て、ジェイク・リーは一つ大きく深呼吸する
やはり寒い、でも、何だかすがすがしい気持ちだ
「まだ、おれはやれるのかもしれない」
ジェイク・リーはおそるおそる駆け足をしてみる
息が少しずつ弾んでくる
「まだまだ、おれはやれるはずだ……」


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?