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ギャンブル依存症

これまで時事ネタ的な解説はしてこなかったのですが、重要なテーマですし、ギャンブル依存症および行動依存症という概念を知っていただきたく、解説させて頂きます。

依存症とは、ある行動や物質に対して、心理的または身体的に強い欲求を感じ、その使用または行為をコントロールできなくなる状態を指します。依存症は大きく分けて、「物質依存症」「行動依存症」の二つに分類されます。


物質依存症

物質依存症の代表として、合法的なものであれば、アルコールやタバコ(ニコチン)、睡眠薬や抗不安薬、違法なものは麻薬覚せい剤となってきます。このタイプの依存症は、物質を定期的に摂取することで、身体的または心理的な欲求が高まることに特徴付けられます。物質依存症は以下の症状を伴います:

  • 物質を摂取しないと、身体的な離脱症状(禁断症状)が出現する。

  • 物質を求めて極度に時間を費やすようになる。

  • 物質の使用をコントロールできなくなる。

  • 使用量を徐々に増やしていく(耐性の形成)。

行動依存症

行動依存症は、特定の行動(ギャンブル、セックス、食べ物、インターネットの使用など)に対する過度の関与が原因で生じる依存症です。物質を直接使用しないため、物質依存症とは異なるが、類似した心理的な欲求やコントロールの喪失が見られます。行動依存症の主な特徴は以下の通りです:

  • 特定の行動を繰り返し行う衝動を抑えられない。

  • 行動によって得られる一時的な快感や逃避を求める。

  • 行動を続けることによる負の影響(人間関係の問題、経済的な問題など)にも関わらず、その行動を止められない。

今回とりあげる、ギャンブル依存症は行動依存症の1つとして、多くの先進国で課題となっているものです。私は2010年にシンガポール国立病院の精神科医療センターに見学に行きましたが、シンガポールという土地柄、カジノ等でのギャンブル依存症に陥り、日々の行動を立て直すべく入院治療を受けられている患者さんともお会いしました。なぜ、「自制」できないのかと思われる方々も多いでしょうが、そもそも「自制」できないことが、依存症の定義ですし、時には入院治療を行うことからも、「自制」の困難さを知っていただけると良いかと思います。

ギャンブル依存症

生涯有病率は、DSM-5(アメリカ精神医学会の診断基準)では、0.4~1.0%とされています。国や文化によって有病率は異なりますが、100人に1人近くがギャンブルによって、日常生活や社会生活に深刻な影響を受けているということになります。

診断基準

実際にDSM-5の診断基準を見てみましょう。
A. 臨床的に意味のある機能障害または苦痛を引き起こすに至る持続的かつ反復性の問題ギャンブル行動で、その人が過去12か月間(原文は「in a 12-month period」なので、「ある12か月間」であることに注意)に以下のうち4つ(またはそれ以上)を示している。

  1. 興奮を得たいがために、掛け金の額を増やして賭博をする欲求

  2. ギャンブルをするのを中断したり、または中止したりすると落ち着かなくなる、またはいらだつ

  3. ギャンブルをするのを制限する、減らす、または中止するなどの努力を繰り返し成功しなかったことがある

  4. しばしばギャンブルに心を奪われている(例:次の賭けの計画を立てること、ギャンブルをするための金銭を得る方法を考えること、を絶えず考えている)

  5. 苦痛の気分(例:無気力、罪悪感、不安、抑うつ)のときに、ギャンブルをすることが多い

  6. ギャンブルで金をすった後、別の日にそれを取り戻しに帰ってくることが多い(失った金を“深追いする”)

  7. ギャンブルへののめり込みを隠すために、嘘をつく

  8. ギャンブルのために、重要な人間関係、仕事、教育、または職業上の機会を危険にさらし、または失ったことがある

  9. ギャンブルによって引き起こされた絶望的な経済状況を免れるために、他人に金を出してくれるよう頼む

B.そのギャンブル行動は、躁病エピソードではうまく説明されない。

▶該当すれば特定せよ・・・挿話性(数か月は軽快する)、持続性(何年も当てはまる)

▶該当すれば特定せよ・・・寛解早期(3か月以上12か月未満基準を満たさない)、寛解持続(12か月以上基準を満たさない)

▶現在の重症度を特定せよ・・・軽度(4,5項目)、中等度(6,7項目)、重度(8,9項目)

診断基準で重症度にまで、言及しているのは、比較的珍しいケースです。
3項目までであれば、一応、ギャンブル依存症予備軍に留まる、といえます。

各項目の詳細開設

A-1はエスカレートしていく事、これはどの依存症でもみられることです。
A-2は薬物の離脱症状に類似した症状といえます。行動依存症でも同様。
A-3~4は気持ちがとらわれていること。
A-5は、嫌な出来事や気分をまぎらわす、中和する目的で、ギャンブルをするということで、依存症に多くみられる特徴的な症状です。
A-6:ギャンブルは中長期的に見れば、必ず負ける仕組みになっているので、それを取り戻そうとのめりこむ、没入してしまうところです。これを、醍醐味だと語る、ギャンブル依存症者もいらっしゃいますが、当然よろしいことではありません。
A-7:嘘をつくことが診断基準に入っていると知ってください。それも計画されて一貫性のある嘘ではなく、その場しのぎのケースが多いように思われます。
A-8:なぜ、今の立場やキャリをふいにしてまで、、、、と思われるかもしれませんが、それが、定義そのものなのです。
A-9:助けてほしい、二度としない、と言いながら家族や友人に借金を重ねることも典型例でしょう。また、その理由も、A-7によって、虚偽で塗り固められることが多いです。

ギャンブル依存症の重症度

▶現在の重症度を特定せよ・・・軽度(4,5項目)、中等度(6,7項目)、重度(8,9項目)
となっていますので、大谷翔平選手の通訳を長年務められていた水原一平さんのケースにあてはめてみます。報道に出ている言動は全て診断基準そのものであることがわかると思います。おそらくA1~9すべてを満たす重度のギャンブル依存症であるといえるでしょう。

回復と対策

今後、彼がどのように回復を目指していくかはわかりませんが、まずは寛解(症状をコントロールできている状態)を目指すことになります。私自身の診療経験でも、事件が発覚した後は、病的窃盗症や窃視症などの行動依存症においても、通常は月単位で行動が制御できるケースが多いように、見受けられます。重要なのは、1年以上制御できるかです。DSM-5でも12カ月以上ギャンブルをしないことを寛解持続(12か月以上基準を満たさない)と定義しています。

ギャンブル依存症は、ギャンブルに触れる年齢が若年であるほど、リスクが高いこと、若年から中年層が比較的陥りやすいとされています。

依存症は一旦陥ると、生涯にわたって、闘い続けないといけない課題です。
だからこそ、私たちは、安易に近づかない、そして自分が制御を失いつつある、と感じたら、速やかに離れるべきでしょう

症状が進行してから、回復に取り組むのは、非常に困難な道のりになります。どの病気も早期発見早期治療です。

日本は駅前や大きな通り沿いにはパチンコ店が多数ありますし、最近はオンラインによるスポーツ興行の喧伝がたくさんのインフルエンサーによって、行われています。以上からも、若年層含めて、広く啓蒙が必要と考えます。

行動依存症に陥ると、大切な友人や家族の信頼を失い、人間関係も破綻するので、まずます孤立化します。
早期にプロフェッショナルの支援を受けることをお勧めします。
マイシェルパでも、各カウンセラーが力になってくれるでしょう。
そして、七転び八起きの道のりを共にしてくれると思います。

ギャンブル依存症のみならず、依存症は傾向が出た時点で、とにかく距離を取ることが鉄則です。
そして、陥ってしまった場合は、自分一人で解決しようとせずに、周囲のサポートを受ける事、プロフェッショナルなカウンセリングサービスも有効なオプションになります。

皆さんの理解と対策の参考になればと思います。

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