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デンマークvsチュニジア~綺麗すぎたデンマーク~[カタールW杯アーカイブ化計画]

W杯楽しいね、ということでデンマークvsチュニジアです。

遂に開幕したカタールW杯。4年に1度行われる世界最高のお祭りです。そんなW杯をアーカイブとして残していこう!というのが、今回の企画「カタールワールドカップ・アーカイブ化計画」です。

グループリーグ全48試合を48名のメンバーでレビューとして記録していきます。参加する方はぼくのようなただのサッカー好き一般大学生から、プロの指導者や分析官など様々。ぜひいろいろな方のレビューを見て楽しんでください!試合のレビューはこちらにまとまっています。

ということで自分の担当する試合はグループD第1節デンマークvsチュニジアの一戦。ドラフト外れ1位指名です。坂本勇人です。

試合概要

メンバー

・デンマーク
EUROでベスト4まで進んだデンマーク。その勢いのままに欧州予選を9勝1敗で突破した。特に9節までは9連勝31得点1失点と圧倒的。6月~9月のネーションズリーグでも4勝2敗と好調を継続。W杯でも同組のフランスにも2勝している。
システムはEUROでエリクセンが離脱した影響で採用し始めた3バック。エリクセンが復帰後もこの3バックがメインとなっている。エリクセンは割と自由に動くので3-5-2というか、3-4-1-2というか、3-4-3というか。
ベンチにも欧州のトップリーグでプレーする選手が並ぶ豪華な陣容。そしてクリステンセンが3人もいるややこしい陣容。

・チュニジア
アフリカ予選を4勝1分1敗で突破したチュニジア。このチームの武器は堅い守備。直近9試合の内、ブラジル戦を除いた8試合でクリーンシート。6月には日本も0-3で敗れている。
予選から4バックで通してきたが、この試合は5バックでスタート。デンマークに合わせてきた形?

(1)外回りのビルドアップ

キックオフ。立ち上がりはお互いボールを保持しあう展開。まずデンマークの保持。

保持時のデンマークはWBが高い位置を取って3-2-5の配置。トップ下のエリクセンは左のハーフスペース辺りから低めの位置に降りて行って、CBからパスを引き出す。前と後ろを繋ぐ感じ。また、右サイドではWBのR.クリステンセンが内側に絞って、CFのオルセンがサイドに開いていた。

デンマークの保持

デンマークの保持に対してチュニジアは5-2-3の守備ブロックを作ってミドルサードで待ち構える。3トップはCBまであまりプレスをかけず、CHとの2-3でCHのディレイニーとホイビュアを囲む感じ。これで中央を封鎖してデンマークの前進を外回りに。そしてサイドのところでWB、CHなどで圧縮して攻撃をせき止めていく。

チュニジアの被保持

チュニジアがCBまでプレスに出て来ないため、デンマークとしては保持は安定する。しかし、中央封鎖によって外回りにされてからサイドで止められてゴール前まではなかなか侵入できなかった。

(2)後方では優位だが、、、

次にチュニジアの保持。被保持では相手にボールを持たせて5バックで構えるチュニジア。しかし、自分たちのボール保持になれば、しっかり後方から繋いでビルドアップしていく。

チュニジアの保持に対して、前からプレスをかけに行くデンマーク。エリクセンが3枚目のプレス隊として2トップに加わり5-2-3の形。チュニジアの3バックに前線3枚でプレスをかける。

対してチュニジアの保持時には右CBのメリアフがサイドに開く。CHはライドゥニが広範囲に動き回り、スキリがアンカー役になるように低めの位置取り。このアンカー役スキリとCBのブロンとタルビ、GKのダーメンの4枚でビルドアップしていく。

GKがビルドアップに参加することでデンマークのプレスは嵌り切らない。また、前線3枚のプレスにCHがついてきておらず、チュニジアのCHを抑えられない場面が目立った。そのため、チュニジアはGKと3バック、CHで後方で優位を作り、しっかり保持することができた。

前半10分10秒の場面

20分20秒のオフサイドで取り消されたジェバリの得点もこの形。CBからフリーのCHに渡してエリクセンを引き付ける。これで前を向けたメリアフから背後にパスが出た。

前半20分20秒の場面

このように後方では優位な状態でボールを保持できていたチュニジア。しかし、この優位を前に送っていくことはできなかった。GKのダーメンは足元が上手いとは言えず、フリーのCBやCHに渡せる状況でも、サイドのWBに長いボールを蹴ってしまう場面が目立った。

また、CHは余裕のある状態でボールを持っても、すぐにマークにつかれて厳しい状態の前線の選手の足元に渡してしまうことが多かった。ここで例えば、自分で運んで相手を動かしたり、背後を狙う選手を使ったり、逆の広いサイドまで展開などができていれば、優位を前に送ってより高い位置まで進めたと思う。

このように序盤は両チームとも後方ではしっかり保持ができるが、デンマークは外回りにされてサイドで詰まる、チュニジアは優位を前に送れないといった感じでラスト1/3までは進めない展開。その結果、中盤でのぶつかり合いが増えていく。そんな中でチュニジアの熱男ことライドゥニの活躍なんかは特に目立っていた。

(3)保持を安定させた中盤トリオ

序盤は両チームがボールを保持しあう展開だったが、20分過ぎからはデンマークが保持する時間が長くなっていく。より保持を安定させたのが、中盤3枚の列を降りる動き。

20分辺りからCHのホイビュアとディレイニー、トップ下のエリクセンが降りてボールを受けるようになる。これにより、後ろの枚数を増やして保持をより安定させつつ、前進の手掛かりをつかみ始める。CHの降り方は主に2パターン。

1つはサイドの低い位置に降りる形。開くと言った方が正しいかもだけど。場面としては26分10秒。CHのディレイニーがサイドの低い位置へ。後方4枚のようになり3トップでは管理しきれなくなる。

そしてこの時、中央のCHがいた位置へ降りる。これでチュニジアのCHの意識は中央に引き付けられて、サイドのCHに出ていけない。つまり、チュニジアの中央封鎖からのサイドで圧縮ができない。ここからCHと押し上げたWBでサイドを攻略していく。

前半26分10秒の場面

もう1つは3バックの中に降りる形。場面としては29分30秒。CHのホイビュアが列を降りて最終ラインを4枚に。3トップに対して4対3を作り、ズレを生み出す。そしてこの時、エリクセンはサイドに低い位置へ開いて、CHを引き付ける。これで縦パスを刺すコースが作り出された。

前半29分30秒の場面

このようにCHとエリクセンの絶妙に綺麗で連動した動きによって保持の時間を増やしていったデンマーク。しかし、ラスト1/3でチュニジアの5バックを攻略しきれなかった。

ボール保持においてCHやエリクセンが降りるため、デンマークは後ろに重い。試合開始時から若干の重さがあったのに、そこから更に重くしたのだから尚更だ。

そのため、高い位置まで進んでいっても、1人か2人と少ない人数でサイドを攻略しなければならなかった。左サイドではメーレが1人で突破していく場面もあったが、右サイドのオルセンとR.クリステンセンは完全にチュニジアに抑え込まれていた。

よりゴールに近づいていくにはサイドの攻略に3人目となる選手が現れてほしいと感じたデンマークの前半の攻撃だった。

(4)変化をつけるダムスゴー

後半。両チームとも選手交代はなし。ただ、デンマークは前半ATに負傷したディレイニーに代わりダムスゴーが入り、エリクセンがCHに下がっている。

後半も引き続きデンマークが主導権を握る。前半から変わったのが高い位置からのプレス。

前半はチュニジアのCHをフリーにしてしまう場面が目立ち、前線3枚のプレスは嵌っていなかった。そのため、後半はアンカー役のスキリまでCHになったエリクセンが出ていきマークについた。この修正により、チュニジアは前半のように保持が安定しなくなる。

これで後半はデンマークが圧倒的にボールを保持する展開。その中で攻撃を活性化させていたのが途中出場のダムスゴーだった。

左のシャドーに入ったダムスゴーは低めの位置に降りてボールを引き取る。この動きは前半もエリクセンがやっていたが、異なるのがここから前に進む力。低い位置で前を向いたダムスゴーは、そのままドリブルでゴリゴリ運んだり、一度メーレに預けてハーフスペースを駆け抜けていく。この推進力はエリクセンにはない部分。

前半の左サイドはエリクセンがゲームメイクに関わっていたため、メーレが単独で仕掛けることが多かった。しかし、ダムスゴーが入ったことでメーレと2人での仕掛けになり、より左サイドを活性化させて崩していく。

後半11分20秒の場面

また、9分20秒の場面では右サイドのまで移動して攻撃に参加し、ポケットに侵入、クロスのこぼれ球をオルセンが押し込む。パスのタイミングが合わずにオフサイドで取り消しとなったが、ここまで足りなかった崩しに関わる3人目の選手としてダムスゴーが攻撃に変化を加えた。

後半9分20秒の場面

試合を支配しながら得点を奪えないデンマークは20分に3枚替え。交代したイェンセンとエリクセンがIHの4-3-3に変更する。

IHのイェンセンは保持時には左サイドの低い位置に降りてビルドアップに参加する。交代前はこの位置で受けるメーレにWBが出てきて蓋をしていた。しかし、イェンセンが降りて、メーレを高い位置に押し上げることでWBをピン止め。これでイェンセンが前向きで起点となった。

後半20分40秒の場面

WBが出て来れないため、代わりにCHがイェンセンに対応する。このようにチュニジアのCHを動かしつつ、ダムスゴーとエリクセンがCH脇を取り、中央に侵入していった。

後半23分10秒の場面

CH脇で受けたエリクセンがミドルシュート!惜しい!

後半は終始チュニジアを押し込んだデンマーク。多くのセットプレーを獲得するなどチャンスを作ったが、得点を奪えずスコアレスで試合終了となった。

おわりに

0-0で引き分け発進となった。

チュニジアは5-2-3で強度高く粘り強い守備を見せながらも、ボール保持もできますよ!というところを見せた。個々のプレー精度やら判断やらが上がれば、デンマーク相手でもチャンスをもっと作れたかなという印象。初めて見たけど普通に良いチームでした。

一方デンマークは勝ちたかった試合。3-2-5の形からエリクセンやホイビュアなど中盤の質を活かして綺麗なボール保持ができるチーム。ただ、ちょっと綺麗すぎた感じ。綺麗すぎる組織にズレを作るような、変化を加えるような、不協和音になるような選手がいた方がチュニジアは対応しづらいのでは?って思った。

そういう意味では途中から入ったダムスゴーやイェンセンは不協和音になっていたと思う。もちろん良い意味でね。

試合結果
2022.11.22
FIFAワールドカップ カタール2022
グループD第1節
デンマーク 0-0 チュニジア
エデュケーション・シティ・スタジアム



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