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ソーシャリー・ヒットマン外伝5「蒼き真実は目の前に」

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俺は根来内ねらいうち だん。殺し屋だ。

殺し屋といっても、人を殺めるなんてマネはしないのさ。

俺が殺めるのは……そうだな、「社会的地位」とでも言っておこうか。


すぬ婆に財布をスられた俺は、御八堂のきんつばに後ろ髪を引かれながらワールド・ブルー株式会社の本社ビルへUターンした。

あのクソババアめ、奇薬:肛門括約筋過弛緩誘発剤Odd Medicine of Over Relaxing Anus Sphincter InducerOMORASIオモラシ』の犠牲者第一号にしてやる。根来内弾の力をなめるなよ。

本社ビルの前まで戻ってくると、入口付近に一人の男がいた。
50代くらいのダンディなイケオジ。ダークブルーのスリーピーススーツをピシッと着こなすその姿は、見覚えがある。名前は確か……

「すぬたさんの知り合いというのは君かね? 私はこの会社ワールド・ブルーでお先します部の部長をしている、蒼木だ。すぬたさんにこれを渡すよう頼まれてね」

蒼木の手には、俺の財布――アニメ「ピーチパイン・ポーキュパイン」の主人公・もも 桃萌ももものイラストが描かれた限定グッズ――があった。

「あっ、はい、ども」

財布を受け取りそそくさと帰ろうとしたが、蒼木に呼び止められた。

「ところで、仕事の進捗はいかがかな。社会的殺し屋ソーシャリー・ヒットマンさん?」

「な、に……?」



カランコロン……

なんとも言えない懐かしい音が響く。

俺は蒼木とともに「喫茶 花」へやってきた。夕方だからかほかに客はおらず、麗しいマスターのワンマン営業だ。

「いらっしゃいませ~。あら、蒼木部長! お久しぶりですね!」

「元気にしていたかい、小花しょうかくん」

「ええ、おかげさまで。蒼木部長もお元気そうで良かったです。でも、めずらしいですねぇ、蒼木部長がいらっしゃるなんて。お仕事ですか?」

「まぁ、そんなところだ」

なんだ、マスターと知り合いだったのか。ワールド・ブルー本社の近くだから、知っていたとしてもなんらおかしくはない。前から思っていたが、小花さんという名前、なんかかわいい。

「コーヒーを頼むよ。割合は……」

「ふふ、砂糖7、ミルク2、コーヒー1、ですよね?」

「よく覚えていたなぁ! こちらの彼もそれでOKだそうだから、2つで」

「はい、かしこまりました。すぐにお持ちしますね!」

マスターは店の奥へ消えていった。

わからん。
なぜこの男が、俺の正体を知っているのか。
なぜこの男が、俺のコーヒーの黄金比を知っているのか。

この男は、一体何者なのだ。

「なぜこの男が……って顔をしているね」

エスパーか。

困惑していると、コーヒーが運ばれてきた。もはやコーヒーというより茶色い砂糖のかたまりなのだが、小花さんはなにもツッコまずにっこり笑顔で持ってきてくれた。かわいい。

「まずは、私の話を聞いてほしい。君は聞く必要がある。少し、いやかなり突拍子もない話ではあるのだが」

「……聞かせてもらおう」

「ああ」

蒼木は話し始めた。

「今、我が社ワールド・ブルーでは、極秘に進めているプロジェクトがある。『愛殺文』という兵器を作り、この世界をリセット、つまり滅ぼそうとするものだ」

「世界を、滅ぼす?」

「そうだ。しかし、これは蒼社長の意思とは無関係。社内に潜む、一部の悪い人間が企んでいることだ。私は愛殺文の発動を阻止するため、部下や協力者とともに策動している。君の知り合いのすぬたさん、彼女も私の協力者の一人だ」

すぬ婆が蒼木の協力者?

「蒼社長は挨拶を大切にする素晴らしいお方だ。その人柄に多くの人間が集まり、ワールド・ブルーは世界屈指の大企業となった。しかしその一方で、それを利用する人間も現れるようになった」

「要するに、味方も増えたが敵も増えた、ってことか」

「その通り」

蒼木はコーヒーを啜った。

「蒼社長をよく思わない連中が、愛殺文なんてものを開発したのだ。私はその反乱分子をあぶり出すために、社会的殺し屋ソーシャリー・ヒットマンを活用することを考えた。すぬたさんには食堂のおばちゃんとして潜入してもらい、怪しい人間を見かけたら報告するよう頼んでいる」

「それで? その怪しい人間ってのが俺だって言いたいのか?」

「まさか。君に蒼社長とゆに秘書の社会的抹殺を依頼したのは、この私なんだから」

「なんだって?」

「彼らは有名になりすぎた。彼らが社会の表舞台から姿を消せば、反乱分子が明るみになる。そこを一網打尽にしようと考えた。肉を切らせて骨を切る、ってやつだ」

「じゃあ、あの依頼人は……」

「私の部下である蒼林の変装だ。君の依頼人・木茂尾きもお たくになりすまし、君に依頼するよう命じた」

あれはキモオタじゃなかったのか。変装も演技もまんまキモオタだったから、まったく気がつかなかった。

「お前が俺に依頼したのはわかった。でも、なぜそれを今?」

「蒼社長の孫のことは、知っているだろうか」

「ああ、確かマイトンとかいったか?」

「そうだ。マイトンもまた愛殺文を阻止すべく暗躍している人間の一人だ。しかし、彼は暴走している。彼は反乱分子をなかったことにしようとしているのだ」

「なかったことにする?」

「言葉そのままで説明すると、愛殺文が投下される前に反乱分子を消すことで、失われた未来を取り戻そうとしているのだ。彼の暴走によって、罪なき人々が消されかねない。君も含めてな。君の情報は、すぬたさんを通してすでにマイトンに伝わっている」

「ちょっと待て。俺がすぬ婆と再会したのは、ついさっきだぞ?」

「すぬたさんの情報は、リアルタイムで『はよ開けんかい委員会』――秘密裏に反乱分子を探る我々のチームのことだ――に伝わっている。当然、君が潜入したことも、財布をスられたことも、飴で嘔吐したこともな」

くそっ、あんな姿まで知られていたとは。

「すぬたさんは、君を助けるために私を呼んだのだ。君が忠告を聞かないと確信したのだろう。彼女が不味い飴やスリで時間を稼いでくれたので、その間に私は準備を済ませることができた。そして私は、君にすべてを打ち明けることにした」

すぬ婆め、余計なことを。

「生憎だが、俺は愛殺文やら反乱分子やらに興味はない。自分の仕事をまっとうするだけだ」

「そう言うと思ったよ。だから、依頼はキャンセルだ。もちろんキャンセル料の62,900円は追加で支払う」

「はぁ?」

依頼をキャンセル? どういうことだ?

「君がマイトンに消されるわけにはいかないのだ。そうなれば、私まで消えてしまう」

「……言ってる意味がわからないんだが」

「これを見ればわかってくれると思う」

そう言って蒼木は、急にネクタイをはずし、ワイシャツのボタンをはずし、左の肩を露わにした。そこには、生々しい大きな銃傷があった。

俺は絶句した。その傷痕に見覚えがあったからだ。見覚えもなにも、まったく同じものを毎日見ている。

言葉を失った俺に、蒼木は信じられない言葉を発した。

「私……いや、俺の本当の名は、根来内 弾だ」




社会的殺し屋ソーシャリー・ヒットマン・根来内 弾。

彼が出会ったのは、ほかならぬ自分であった。

(続く?)





【あとがき】
どうも、ワールドブルー物語のアウトローことアルロンです。「アウトロー」と「アルロン」てなんか似てるね。そうでもない? ま、どっちでもいっか。
今回は、文字数多め、シリアス多めでお送りしました。蒼木部長の正体が……!
少量ですが、おふざけも忘れずに。

【参考記事】

↓「喫茶 花」

↓蒼木部長、マイトン


【#ワールドブルー物語】


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