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ノグ・アルド戦記外伝①【#ファンタジー小説部門】

【あらすじ】
ノグ・アルド暦618年、後に「ラピスの変」と呼ばれる大陸全土を巻き込んだ動乱が起きた。この動乱では南のユベル聖王国内のクーデターも発生したが、ユベル聖王国のラピス王子率いるユベル解放軍により平定された。

クーデターが起きた頃、ユベル聖王国南東部にあるセルリアン領では、悪政を敷く領主ベレンスに反抗する気運が高まっていた。同領に属するダナハ村からも、多くの者が反乱軍に加勢した。

その中で、故郷ダナハの自由を勝ち取るために奮闘する少年たちがいたことを、人々は知らない。

この物語は、人知れずセルリアンの平和を取り戻した少年たちの、名もなき英雄譚である。

ノグ・アルド戦記外伝 あらすじ



プロローグ「少年たちの戦い」

 ノグ・アルド大陸で最も栄えているユベル聖王国といえども、国内全域が満たされているわけではなかった。王都から離れた田舎では、領主による理不尽な圧政に苦しむ集落も少なくない。ここダナハ村も同様だ。

 豊かな作物に恵まれた牧歌的なダナハ村で、住民たちは過酷な生活を営んでいた。収穫の9割は領主へ貢がなければならず、常に貧困状態。かといって、村が山賊や野犬に襲われても、流行り病におかされても、なに一つ援助しない。それどころか、自分の食べる分が減ることに対し糾弾する。それが、領主であるセルリアン公爵ベレンスという男だった。

 セルリアン家は、ユベル貴族の中でも名門と呼ばれている。ユベル南東部を広く治めており、ダナハ村を含め数多くの集落がセルリアン領に属している。昔は「セルリアンに暮らす者は心が豊かである」とまで謳われていた。しかし、20年ほど前にベレンスが領主となってからというもの、過酷な搾取によって、住民は心身ともに痩せ細っている。

 もちろん、聖王サファーやラズリ王子がまったくなにもしていないわけではない。年に一度、ユベル全域で聖王の定期視察が行われ、各集落の様子を聖王自ら見に来ていた。しかし、その日だけはベレンスも住民に優しく接し、良き為政者を取り繕っていた。普段の様子を密告しようものなら家族もろとも処刑されるため、住民は恐怖でなにもできなかった。

 そんなダナハ村に吉報が舞い込んできた。「王弟ターコイズがクーデターを起こした」という報せが届いたのだ。村は歓喜に包まれた。そして、若い男衆は武器を手に、ベレンスのいるセルリアン城を目指し飛び出していった。

 しかし、この好機を待っていたといわんばかりに、山賊たちが現れた。残された老人や女子供だけでは、太刀打ちできないと踏んだのだろう。

 ところが、その目論見はあえなく失敗に終わる。一人の少年が、大剣を軽々と振り回し、十数人の屈強な山賊たちをねじ伏せた。無造作に伸びた銀髪、大人顔負けの体格と剣技、そしてなにより屈託のない笑顔が特徴的な少年だった。

「さっすがギャリー! 山賊どもをのしちまった!」

 舌足らずな声が、ギャリーの耳に入ってきた。ギャリーが振り返ると、まだ10歳くらいの少年が目をキラキラさせて近づいてくる。

「デニ、危ないから隠れてろっつったろ?」

「へーきへーき! ギャリーがみーんなやっつけてくれたし」

「うーん、そういう問題じゃないと思うんだけどなぁ。ま、いっか」

 ギャリーがニカッと笑った。

 物陰から様子を見ていた二人の子供も、ギャリーの周りに集まってきた。二人とも、デニと同じくらいの年齢だ。

 ギャリーを含め、この村にいる子供のほとんどは孤児である。ベレンスの悪政が始まってからというもの、ダナハの住民は十分な栄養が摂れず、とても子供を生み育てられる環境ではない。そのため、労働力を確保するという名目で、山に捨てられた子供を引き取っていた。といっても、今はギャリーを含め4人しかいないが。

 17歳のギャリーは、この村では一番お兄さんだ。前は2つ年上の幼馴染がいたが、ユベル聖王国に仕官するためにダナハ村を出ていった。そのため、残りのチビたちの面倒をギャリーが見ている。

 しかし、今回は追い払えたとはいえ、毎度毎度ならず者に襲われては子供たちが危ない。残った村の大人たちと話し合った結果、ギャリーは幼い子供たちを連れて村を離れることにした。

 旅立ちのとき、村長や婦人らがギャリーたちを見送りに来た。

「じゃ、行ってくるね。でも、俺がいなくてほんとに大丈夫?」

「なに、山賊どもが来たら、このフライパンで頭をかち割ってやるさ! こっちはなんとかするから安心しな!」

 心配するギャリーに、牛飼いのおばさんが元気よく答えた。ギャリーと目を合わせ、優しく微笑む。

「すまんのう、ギャリー。お前さん一人に子供らを任せてしまって……」

 老いた村長が、申し訳なさそうな声を出した。返答は、ギャリーではなくデニがした。

「だいじょうぶ! ギャリーの面倒は、おいらたちがちゃあんと見るからね!」

「おい、逆だろ」

 寂れた村に、明るい笑い声がこだました。

 歩き出した少年たち。目的地は、隣国のウォレー王国。そこには、大きな商会が営んでいる孤児院があるらしい。そこに辿り着くまで逃げおおせなければ。

 四人の少年たちの戦いは、ここから始まった。



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