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[小説・ユウとカオリの物語]カミングアウト

アクティでの仕事の帰り、いつものように『Bar ROSE』へ。
そして、いつものようにマスターが言う。
「いらっしゃいませ。何になさいますか?」

「アーリータイムズのブラウン、まだあります?」
「この瓶で最後です。ダブル2杯分くらいですね。」

うわっ、ラッキー!「じゃあ、ダブルで!」
マスターが差し出したグラスを見て、吹き出した。これ、、ダブルじゃないよね?なみなみ入ってるんですけど?!そう思ってマスターを見ると、彼は軽く会釈して微笑んだので、わたしはグラスを持ち上げて会釈した。

いやいやいや、、ここでごまかされちゃいけない。
「マスター、ナナちゃんにどんな話したんです?なんだかユウと付き合ってるみたいになってたんだけど。わたしはいいけど、彼女には迷惑よ。10歳も下なんだし。」
恨みがましそうに言うと、マスターはしれっとしたもので
「見たまんま、感じたまんま伝えただけですよ。」

ほんとに困った人だわ。。
「いやぁ、ありえないでしょ。恋愛はもういいしさ、、ユウにはカムアウトすらしてないのよ、わざわざ言うことじゃないし。」
すると、マスターはひとりごとのように言った。
「カオリさんは言わないことを選んでる感じがします。隠すことでもないのに、どうしてでしょうねぇ。」

マスターは言葉数は少ないのだけれど、時々核心をついてくる。確かに、わたしは言わないことを選んでいる。「わざわざ言うことじゃない」というのは言い訳だ。なぜ?なみなみと注がれたアーリータイムズブラウンを飲みながら、そんなことを考えていると、ユウからLINEがきた。

ユウは日記のようにLINEしてくる。「隣の家で花が咲いた」だとか「仕事がこうこうで面白い」だとか「夕方で疲れてきた」とか、一番笑ったのは「怖い夢をみたんです(T_T)」っていう早朝のLINE。わたし専用のTwitterか?ってくらい。

このとき来たLINEは、美味しい紅茶を見つけたというものだった。
「今度持っていきます。カオリさんも気に入ると思うんです、味覚似てますもんね!共通点多くて楽しいです!!」

「それは楽しみ!」と返信したのだけれど、共通点という言葉がわたしの中で反響していた。ちょっと待って! さっきのマスターの言葉といい、混乱してきたぞ。こういうときは飲み過ぎちゃいけない。早々に引き上げよう。

『ROZE』を出て歩いていると、またユウからLINEがきて、他愛のないやりとりをしていた。どんな流れだったのか、いや、流れなんてなかったかもしれない。ふと言ってみたくなった。

「実はわたし、LGBTQ当事者なの。パンセクシャルってやつかな。」
ユウの返事に、わたしはとても驚いた。
「知ってました」

そうか、知ってたんだ。。

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