見出し画像

千葉大学発の起業家の告白|第五章|神崎陸

再出発

一人議論ができる人が入ってきた組織は、違った。自分も一人の会社ではなく、二人でやる会社だとサービスに対する議論や推進が前向きに捗った。
自分は一人だと何もできない。多くの人に支えられてる。
そう思うことができた瞬間だった。
まずは、なんのサービスをやるか決めないと。
その時も通販の経験があるから通販事業やろう。中国ではソーシャルネットワークと通販を組み合わせたようなサービスが伸びている。日本も伸びるかも知れない。
中国を中心に海外で調べたサービスを列挙していった。中国語検索をして、できるだけ現地の一次情報を調べるようにした。
そんな中、会員制の通販サイトを中国で見つけた。安いと話題になり、伸びていたサービスだった。会員費用を払うと卸値で商品が買えるサービスだ。小売業は普通、仕入れ値と定価の差額で利益を出す商売だが、会員制通販サイトは、仕入れ値と定価の粗利では利益をできるだけ抑え、会員費用で売上を上げるビジネスモデルだった。日本ではコストコがオフラインで倉庫型スーパーとして展開していた。コストコは企業価値が20兆円あり、小売の中でも世界屈指の流通量を誇り世界展開をしていた。
そういった、色々な情報を集めていくと、とても魅力的だった。
私は、この時、前回のサービスの反省もしていた。何が悪くて伸びなかったのか。どういう意思決定だったらよかったのか。
何が悪かったのかは、大きく2つあった。
一つは、小売業の重要な3要素のどれもなかったこと。3要素とは、価格・商品・利便性だ。スーパーなどは商品の質が良く、家の近くにあり、価格もできるだけその周辺で安く、行きたくなるスーパーだ。コストコの場合、価格もそれなりに安いものが多く、アメリカの商品が多い。郊外にあって遠く利便性は悪い。小売はこの3要素のうち少なくとも2要素を満たしているもしくは特化している必要があるといわれていた。
考えてみれば、前職のギフト通販にも商品の質もあり、なんにせよ利便性というギフトの梱包があった。普通の通販ではこだわってやれない、梱包をこだわってやってくれるという利便性の価値を提供していた。
なぜここのサービスを使うのか、なぜここで買うのかという当たり前のことができてなかった。最初に決めたサービスは本当にいけるのか、振り返ることをせずに考えていた。
二つ目は、競合との差異がなかったことだ。前回のサービスでソーシャル通販のコスメ領域には、ソーシャルネットワークの方にも通販の方にも競合がいた。しかし、ソーシャルと通販を繋ぎ、それを足し合わせると、そこにスムースレスにソーシャルネットワークから通販で購入ができること、ソーシャル側にもお金が入ってくること、そのデータ基盤はどこにもないことに価値があると考えていた。
一つ目のなぜここで買わなければいけないかという理由がないことが、前のサービスの大きな欠点であった。その欠点に半ば気づいていたにもかかわらず、サービスの開発を進め続けていた自分というものがあった。だが、後者の方に関してはあまり当時は考えることもしなかった。
だから、この価格/商品/利便性の三つのうち、どれか二つを満たすビジネスモデルを考えることが重要だと思っていた。その中で見つけた会員制通販サイトは、一つにサプライチェーンを短くして、スマートにして、購入者に卸値に近い価格で変えることができるという安さの点で担保されていたサービスであった。
私は、小売は定価厳守というものではなく、価格の自由競争があるべきと考えていた。独占禁止法によって、価格は定価で売ることを強制するということは、本来であれば禁止されていることであった。一方、メーカーとしては、ブランド力や大きく販売店で価格が違うという状況になり値崩れを起こしたくなく、定価で売るように暗黙の了解で強制をしていた。
昨今D2Cと呼ばれるメーカーがお客さんに直販するビジネスモデルが数年前に盛り上がったが、それをマーケットプレイスとして展開することによって、より楽天やアマゾンなどより安い価格で商品を提供できるかつ、安く買いたいユーザーが、お客さんが会費を月額年額で払って買うというビジネスモデルは、価格という強みを確固たるものにすると考えた。
一方で、利便性というものに関しては、より早く、商品を届けることが重要だ。しかし、これは莫大なコストがかかるのと同時に、Amazonのような既に初期投資をされているプラットフォームに勝つ術というものはなかったため、利便性は捨てようと思った。
では次に商品というところに関しては、持ち前の営業力と商品の開拓力というところで、独自の商品を仕入れることができるのではないかと考えていた。かつ長期的に見れば莫大なコストがかかるが、商品を製造するOEM会社と提携してオリジナル商品を作ることを戦略として考えていた。
そのため、価格に特化しつつ、商品の質を普通に担保できると踏み、小売業において大切な三つの要素のうち二つを占めることができる。このビジネスモデルは、いいのではないかと思った2021年の正月であった。
「このサービスでいこう」

出会いと検証

早速着手することにしたが、前のサービスの失敗もあり、本当にこのサービスがユーザーに買われるのかというところをしっかりと確認しようと思っていた。
だから、まず始めたのはカートシステムを使い、卸値で商品が本当に変われるのかどうかという検証だ。今となっては馬鹿らしいなと思う検証だが、当時は前のサービスの失敗もあり、不安に駆られて、自信がなくなっていたのかもしれない。
当然、安く商品を買いたいのは当たり前だと思いつつ、当時は大量にまとめ買いをして安く買ってもらえるのかどうかという検証をしたかった。
当然、他の人に相談したときは、まだないサービスであったため反対意見が多かったのも自分の不安を駆り立てた。
例えば、トイレットペーパーを12個とか、水を12本セットとかで売った。
一方で、Amazonには既にそういう商品を出している業者がいて、少しは買われているのがレビューからは分かったが、本当に買われるのかどうか手に取るように把握したいと考えた。商品が買われたらAmazonや近くのドラッグストアから買い出しに行って梱包して送る。
そんな地道なことをしていた。出してみてすぐに売り上げは立った。当然、まとめ買いで安く商品を買いたいユーザーは、世の中には一定数いるし、コストコには600万人以上の会員がいる。そのうちの数%はまとめ買いで安く買いたいというユーザーはいるだろうというのは確実であった。検証期間は2週間に及ばないぐらいの期間であったが、確かに自分がこれは伸びると思えるサービスを作る上で一つの大きな自信になった。当時トイレットペーパー12個を6セットなど、当然ダンボールでは入りきらない量の数の注文を受けていた。
「これ20kg以上あるのでうちだと宅配できないです。」
そう宅配業者に言われた。
その荷物は結局レンタカーを借りて、自分で家まで届けた。
お客さんに喜んでもらいたくて、できることすべてをした。
5月ごろにその検証は終わり本格的にサービスの開発を始めようと思った。
SNSでエンジニアを探し始めた。
自分のビジョンは、一人でも多くの人に価値提供ができる人間になること。
高校生の時に、親が離婚し母親はつらい思いをしているのを、何か些細なことをしてあげることだけで、喜んでもらえる。それが自分自身の価値や喜びに繋がっていた。
その際に、著名な経営者を見て、多くの人に影響を与えていて、より良い生活に導いている人たちを見て、そういう人になりたい。身近な人だけではなく、多くの人に影響力を与えられる人になりたいっと思うようになっていた。
ビジョンを伝えて何人にもメッセージを送った中から、高橋という人にあった。
彼は声をかける前はSNSのプロフィールが非常に陽気で、まるで薬をやっているかのような、不真面目に見えるプロフィール写真であった。そのため、声をかけるのが少し腰がひけた。自分と相性が合うのか、という疑念があった。何にせよ、連絡するだけはタダだ。ためらっていたが勇気を持って連絡をしてみた。だけど、連絡をした中では、最後の方に連絡した。
返事が来た時は嬉しかった。日程調整をして、いざ初めて会うととても落ち着いていて、柔らかな雰囲気を感じた。コミュニケーション能力という意味では、尖りもなく人を不快にさせない。
すぐさま一緒にエンジニアとして参画してくださっていた働いていた渡邉さんに報告した。
「彼と面談してみてください。いい人がいます」
渡邉さんと、高橋との面談も終わり、あの人はめちゃくちゃいい人だといわれた。渡邉さんは、人格者で頼りになる方だった。そんな方がそう言うからには間違いない。すぐさま一緒に働こうと声をかけ、一緒に働くことを承諾してくれた。そこからは、格段に開発力と、ビジネス両方のスピードが上がっていった。僕は、まず本当にこのサービスに需要があるのか事前登録で検証しようと思っていた。前とは変わり、今度は本当に安いからという理由で会費を払うのかを検証したいと思い、事前登録をしようと考えた。
石橋を叩いて渡る慎重さで、確実に伸びるかどうか知りたかった。
今となっては、会費を払って安く買うというのは、当然、会費を払った以上にユーザーにとって利益があるのであれば、ユーザーはサービスを利用するのは分かる。当時は、周りからの本当に会費を払うのかという懐疑的な疑問に自分の思い込みや検証というものを、前回と同じように検証を飛ばしてリリースするということに不安を感じていた。海外の事前登録でバズったサービスを深く調べていた。
それと同時に、資金調達にも動いていた。このサービスをやるのに、さらに資金が必要だと思っていた。
「会員制の通販をやろうと思っています。デジタル版のコストコです。」
まだサービスの形もない中で行った。資金調達のピッチは受けがよく、苦労はしなかった。2000万円ほどの資金が集まり、無事に資金調達も終わった。
「こんな自分に資金が集まるなんて本当に感謝しないといけない」
あとは、ひたすら事前登録の開始を粛々と進めていた。もちろん足元で通販サイトの開発も同時並行で開発も行っていた。
既に時は7月になっていった。コロナが始まってからすでに1年ちょっとが過ぎようとしていた。組織が崩壊していたあの時から、人もサービスもガラりとすべてが変わり、順調に進んでいた。
事前登録の要件定義が完成し、デザインも開発の実装もできていた。しかし、時間がかかったのは、事前登録時のインセンティブや、設計を複雑に考えていたことが、開始を送らせた。
当時は1人招待すると、ランクが上がるというシステムであったり、ランクごとにもらえる特典というものが違う設計であった。そういった事前登録に結構時間をかけすぎていたせいで、リリースは10月ぐらいになった。
事前登録を開始した後、すぐに数百人は集まった。
数千人を集める予定であったので期待値よりかは、はるかに下だったが、数百人事前登録だけで集まったという希望をもとに、このサービスはいけると思っていた。反応もよかった。こういう反応は前のサービスではなかったんで、とてもわくわくしていた。ある経営者からは、2桁億円ぐらいの年商はいくのではないかといわれた。
当時、少しでも2桁億円も売り上げ立てられるんだ。と思っていた自分はすごく希望を持っていた。


この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?