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日本マクドナルドが今、指名キーワードでリスティング広告を出稿する本当の理由についての仮説

川手@RKawtrです。

先日以下のようなツイートをしたところ、意外とリアクションがあり驚きました。

そしてそのツイートに対して、以下のようなリプライを多くの方から頂きました。

もちろん皆さんがおしゃる通り、非常にうまい使い方だと自分も思うのですが、本日は「日本マクドナルドが今、指名キーワードでリスティング広告を出稿する本当の理由」について、自分なりに色々と考えてみたので、お話しできればと思います。

そもそもなぜ指名キーワードで広告配信すべきなのか

まず自分は以前にもツイートした通り、基本的に指名キーワード(今回の例である「マクドナルド」に限らず)で広告配信すべきであると考えています。

ではなぜ、指名キーワードで広告配信すべきなのでしょうか。以下の図は以前に「指名キーワードで広告配信した方が良い?6つのメリットとたった1つのデメリットについて解説」という記事を執筆した際に作成した図になります。

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これを見ていただくとお分かりの通り、指名キーワードの広告配信は、金銭面のデメリット1点を除き、メリットしかありません。また指名キーワードの多くは一般キーワードを含まない語句で形成されている場合、クリック単価は低い傾向にあり、そのためかかってくる費用もそこまで大きな負担とならないのが特徴です。

ではなぜ今までマクドナルドは配信してこなかったのか?

ではなぜ、今までマクドナルドは指名キーワードで広告配信をしてこなかったのでしょうか。

まず、グループ企業、または誰もが知っている大企業の場合は発生する費用が膨大です。完全一致だけで広告出稿したとしても莫大な費用が発生する可能性があります

支出に対して、目に見える成果はごくわずかです。また実店舗ビジネス、特にフランチャイズシステムを導入している場合、配信するメリットは薄まります。そして現在のテクノロジーでは、実際に来店し、どのような商品をどのぐらい購入したのかという広告効果計測を厳密に行うことが困難です。

もちろん位置情報を駆使したり、クーポンなどを活用し、実来店の有無や費用対効果をざっくりとではあるものの、確認することは可能です。

しかし当然全てのユーザーの動きを計測できる訳ではなく、また広告をタップしたとしても、クーポンを活用しなかったり、何もアクションをせずに来店する人も多く存在します。そういった人がどのぐらいいるのか、 Web 広告に限らず、様々な広告媒体に投資する日本マクドナルドが正常に計測することは非常に困難です。当然効果があやふやなものには投資が困難ですから、「オーガニックで1位に出るし、出す価値ないのでは?」という判断がなされるのも自然の理かと考えられます。

今指名キーワード検索で広告出稿するのは「究極の投資」だから

自分は今現在、日本マクドナルドが展開している指名キーワードへの広告出稿は、究極の広告投資ではないかと考えています。

例えば今現在「マクドナルド」と検索した際に、検索結果画面上はリスティング広告と自然検索結果で、それぞれ導線が存在します。

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リスティング広告では宅配の公式に、オーガニック検索は旧来の公式に遷移するように設定されています。

単純にオーガニック検索とリスティング広告を比較した際、オーガニック検索結果画面上で宅配を上位表示させられるようにするには時間がかかる他、おそらく様々な社内決済が必要となるのではないかと考えられます。もしかすると本国決済も必要かもしれません。

リスティング広告を出稿すれば、その手間をショートカットし、最短で宅配コンテンツを上位掲載することが可能です。また公式サイトへの導線も検索結果画面上に残すことができるため、公式のコンテンツを閲覧したいユーザーのニーズを抑えつつ、宅配の公式サイトへの流入を促すことが可能となります。これにより、来店をためらう顧客の獲得し損ねるといった機会損失を最小化させることが可能となります。また来店と異なり、サイト上での決済となるため正確な費用対効果計測、広告効果の把握なども可能となります。

しかし、最大の投資理由はそこではありません。

最大の広告出稿の理由は、長期的に見た際の Uber Eatsからの撤退のための先行投資ではないでしょうか。

まずおそらく今回の騒動は専門家の方も発言されている通り、世界規模で1年から1年半は続くと言われています。その間、宅配サービスの需要は急速に高まることが予想されます。

マクドナルドは現在、Uber Eatsに対して手数料を支払いサービスを利用しています。手数料については下記の記事に詳しく記載されています。

お店側がUber Eatsを利用すると、Uber Eatsに35%の手数料を支払わなければなりません。そのため通常の料金だと利益がほとんどなくなってしまうので、大半のお店が値上げを行っています。

Uber Eats(ウーバーイーツ)でマクドナルドを体験!1000円クーポンが熱い【マックデリバリーと比較】」より引用

マクドナルドは全国で2020年3月時点で2,906店舗存在します。手数料だけ計算してもバカになりません。また Uber Eats の配達員は、マクドナルドの教育を受けたクルーではないため人によってはトラブルの原因にもなり得ます。その結果、ブランド毀損の要因にもなりかねません。トラブルがあった際も、責任のよりどころも曖昧です。

またマクドナルドは Web 以外のメディアでも大々的に広告展開をしていますが、今デリバリーを主軸とした広告を大々的に打てない背景があります。

単純に「広告」を作って流したとしても、来店客数が増えてしまう可能性がまず考えられます。そして今の時節を踏まえて、デリバリーに特化した広告を制作する場合、広告代理店への制作依頼をする必要性があります。当然、平時とは異なり対応に時間がかかります。モデルの手配や撮影環境の確保の難易度も平時とは比べ物になりません。また撮影現場は基本3密です。そのため、如何にデリバリーを推奨する広告を制作したとしても、視聴者から批判される可能性は十分に考えられます。

しかし、指名キーワードへの広告出稿であれば、コツコツと地道ではあるものの、時間もお金もセーブしながら展開を強めていくことが可能です。

以下はオーガニック検索結果の公式サイト内「マックデリバリー」のページです。

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以下はリスティング広告経由でリンク先に設定されている「マックデリバリー」のページです。

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リスティング広告のリンク先内部には、 Uber eats へのリンクは存在しません。

長期的に「マックデリバリー」の顧客を増やしていくことは、最終的にはUber eats へ支払わなければならない手数料減、コストカットにも繋がります。前述した通り、マクドナルドは日本だけで3,000店舗存在します。長期的に見るまでもなく、確実に完全内製化に踏み切った方がコストカットできるに決まっています。しかし、今はまだ Uber eats の利用客も多く、完全に切り替えることで機会損失が発生する可能性があります。そのため今は「今すぐできて効果が出ること」を実施しているのではないかと思われます。その1つが、指名キーワードでの宅配公式サイトをリンク先としたリスティング広告の配信なのではないでしょうか。

最後に

マクドナルドは自社人材教育のための専門機関(ハンバーガー大学)を各国に有していることからも言われる通り、そして様々な書籍でも言及されている通り、本業は「人材教育業」です。そして店舗ビジネスである以上、「不動産業」という性質も持ち合わせています。

両者の共通点は「長期投資」「リターンの最大化」です。今回日本マクドナルドが展開している指名キーワードへの広告投資はこの2点にも関連する、非常に一貫性のある施策のように考えられます。

映画「ファウンダー」を見た方はご存知の通り、「マクドナルド」という名前はそもそも、創業者・レイクロックがマクドナルド兄弟から270万ドルで購入したものです。

前述した通り、マクドナルドの基本は「長期投資」「リターンの最大化」です。レイクロックは後年、マクドナルド成功の最大の要因は「マクドナルドという輝かしい名前を手にしたことである」と語っています。そしてマクドナルドはその名前の力を今もフル活用して、事業の基本に沿った施策を一貫して展開しているのです。

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