少女は花を飾るように。
深緑、幾千の時降りつむ常盤の森。神域、屋久島の白谷雲水峡に行った。友人が選んでくれた、緑と橙の髪どめを正装がわりにつけて。
光の帯漂う清流。竜の通り道のような苔の大空間。踏みしめるたび感じた。神はいるのだ、と。
慈悲深い自然に包まれ《ありがとう》と声をかけながらの行軍。
(御守が欲しいな)
──小石をひとついただけないだろうか?
神に問う。
こういうのは神域から無断で持ち帰ってはダメだ。“呼びあう石”を探した。最後までわたしを呼ぶ小石はなく、太鼓岩までの険しいルートから、霧に包まれての下山。やっと現世に戻ってきた。
「あれっ?髪どめは?」いつの間にか消えていた。
──何故だか髪の長い少女が髪どめをつけ、嬉しそうな幻影が視えた。
「多分…」落としたのではなく、これは…。
わたしのブーツのソールには、小石がひとつ、きらり。
《すてきだったから》
永遠の森が手を振る。小さな神がいたずらっこみたいに笑った気がした。
了