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ProcreateとAdobe Frescoでアクリルガッシュ調のビジュアルをつくる

こんにちは。ビビビットでデザイナーをしている落合です。
ビビビットでは毎月「新人賞」という学生対象のアワードを開催しています。今回、もうすぐ応募締め切りである2020年9月度新人賞の募集メインビジュアルを担当しました。

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今回メインビジュアルに使用しているイラストは、iPadを用いて、Adobe FrescoとProcreateの合わせ技で描いています。

iPadでの手描きイラストによるビジュアル制作はこれまでも取り組んできたのですが、今回の制作でこれまではどうしても超えられないと思っていた「アナログとデジタルの壁」を超えられたような、iPadというツールをアナログ画材と同じように扱えたような感覚がありました。

アクリルガッシュで画板に思いっきり描いていた美大時代のような制作をiPadでもできるようになったと感じているのですが、その要因は次のような事だったなと思っています。

・ iPadでの制作環境をアナログでの制作環境と全く同じにしたこと
・ 1レイヤーのみで描き進めたこと
・ ツールでの筆の選び方が上手くいったこと

この壁を超えられた感覚は私のなかでとても大きなことだったので、制作過程をnoteに記してみようと思います。

▼メイキング動画はこちらのツイートからどうぞ


「新人賞」というテーマを考える

「新人賞」は、ビビビットが毎月学生を対象として開催しており、ViViViTに登録して一ヶ月以内の"新人"の方に応募いただく賞です。賞からのテーマは出題されずジャンルも自由なので、普段制作している・すでに持っている作品で応募ができ、気軽で、アワード初挑戦の方も応募しやすいものとなっています。

最初は、自分自身が学生だったころ・また"クリエイター"として新人だった頃の初心を思い出して当時のアナログな手法で制作しようと考え、実際に絵の具やインクを取り出しパネル張りした紙に描きながら試行錯誤しました。しかし、最終的にはiPadでProcreateとAdobe Frescoを使用するという当時にはなかった新しい技術を使用しての制作になりました。

iPadでの制作環境をアナログでの制作環境と全く同じに

今回一番、壁を超えさせてくれた要因となったのが、このことだったと思います。

▼今回の制作現場はこんな感じ。リモートワークなので自宅です。

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アナログな手法を試していた勢いのまま、画板にiPadを重ね筆を握る感覚でApple pencilを握って描き始めたのが今作です。色味に悩めばアクリルガッシュで色を考える時のようにカラーカードを取り出しました。
そのような環境にすることで、手に覚えているプロセスで、良い意味で手癖を活かしながら自然に筆をすすめることができました。

▼今回モチーフにしたのは、「新人」だった私の造形力を鍛えてくれた制作の相棒たち

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制作過程1 :Adobe Frescoでの下地づくり

マイドキュメント (11)

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鉛筆であたりを取り、背景とするベースのマチエルを作るところまではAdobe Frescoで制作しました。
Adobe Frescoは特に背景マチエルを作る際の感覚がアナログでの感覚に似ていて、大雑把な筆運びをする上での絵の具の混ざり具合や色同士の影響の仕方が、アナログ育ちの身としてはコントロールしやすいと感じたためです。

Adobe Frescoには「油彩」というカテゴリのブラシがいくつかあるのですが、この油彩ブラシの量感や水分の含み方の感覚がアクリルガッシュのそれと似ていると感じています。ピンクをベタっと塗った後に黄色や薄緑を重ねていくと、ピンクに吸収されすぐにその色がキャンバスに強く現れることはないのですが、それでも色を入れてゆくと混ざり合いながら複雑な色味が出来上がっていく感覚。単純ではないマチエルを作ることに、油彩ブラシはとても適していると感じます。

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制作過程2 :Procreateでの描き込み

モチーフのあたりをとり、背景マチエルをつくった後は、その状態で書き出したものをProcreateで開き、そのまま同じレイヤーで描き進めました。
1レイヤーで制作をすすめると、後から位置を調整することが大変になるリスクがあるので、デジタルでの制作ではレイヤーを分けた方が効率的ではあります。しかし今回はそれよりも手跡の残る制作を目指すことを優先したので、もし位置を調整することになればその時についてしまう跡も「人が描いている」リアリティに繋がると考えました。
Procreateでは、ブラシのライブラリ"アーティスティック"の「ララプナ」、ライブラリ"ペイント"の「スタッコ」を多用しています。ベタっとした存在感と色の混ざりにくい感じが、アクリルガッシュでモノを描く時の、水を含みすぎずに進める感覚に似ていると感じたためです。
「スタッコ」は細くするとパステルや色鉛筆のような感覚で使うこともできます。

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モチーフ同士の色の影響のしあい方・陰面に現れる微妙な色合いを感じ取りながら描き進めました。

▼大雑把ベースの雰囲気となるピンク・水色で色をおいてから

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▼固有色も入れこみつつ、ひとつひとつのモチーフを描き込んで

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▼これでこの過程はひと段落。この時点では描いていない鉛筆は過程3のレイアウト調整中に描き足しました。

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制作過程3 :Photoshopで文字を入れつつツールを行き来しながらの仕上げ

イラストレーションが大方完成したら、ProcreateからPSD形式で書き出してPhotoshopで文字を入れたのち、Procreate / Adobe Frescoを行ったり来たりしながら調整をしてバランスを整えていきました。
やはりレイアウトを調整する上でモチーフの移動が必要になり、最後にこまごまとした作業が発生しましたが、1レイヤーからの切り貼りも想像していたほど難しくはなく、遜色なく仕上げられたと思います。

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▼サイズ違いのバナー

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この収穫を活かして

今回は、アナログのような描き手の手跡が残るイラストレーションを目指すためにアナログでの制作感覚をデジタルツールでも再現することにもっとも重きを置いて制作しました。これまでどうしてもデジタルツールはデジタルツール、アナログツールはアナログツールという壁を感じ、アナログが基盤となっている私にはデジタルでのイラストレーションに少し限界を感じていたのですが、今回の制作でその壁を壊せたような感覚がありました。

もちろん、デジタルでアナログのような描画を再現することは目的ではなく、ツールが何であっても表現したいこと、伝えたいことを実現できることが重要であり、そのためのツール選択です。どちらか一方で他方の方法を再現することが一概に良いわけではないではないのですが、デジタルツールであってもアナログで培ってきた表現力を発揮できるのであれば、普段UX/UIのデザインをしていて常にアナログ画材と触れていることが難しい私にとって、手軽にさまざまなテイストのビジュアル表現にチャレンジすることができ、アウトプットの幅を広げる大きな大きな一歩となります。

壁を超えられたと感じている今、さらにその先の進化を目指して柔軟にツールを使いこなしながら、表現を追求していきたいと思います。



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