真夏のお散歩 熱中症対策編

はじめに

 健康のためには毎日3500歩程度の散歩が有用とされています。しかし、最近の夏は暑く、散歩に出かけただけでも熱中症になる可能性が高い日すらあります。この文書では、いかにして熱中症になることを避けて安全に散歩するかについて説明します。
 熱中症には、1) 一過性低血圧による熱失神、2) 脱水・脱塩による熱疲労、3) 深部体温の上昇による脳機能不全を経た熱射病、の3種類が存在します。ここでは、3の熱射病をターゲットとし、熱射病にならないための手法を説明します。
 熱射病は前述のように脳機能不全です。深部体温が上がりすぎて、脳の体温コントロール能力が壊れ暴走するのが問題となります。そのため、深部体温を下げることにより熱射病を避けることができます。

1. 散歩に出かける判断をする

 最も重要なのは、今日が散歩に出かけても安全な日かどうかの判断です。あまりに熱中症になりやすそうな日は諦めて空調の効いた家で涼んでいましょう。
 散歩に出かけて安全な日かどうかの判断は、暑さ指数(WBGT, Wet Bulb Globe Temperature)を確認することで行います。WBGTが28を超えると熱中症にかかる人が急に増えます。そのため、今日のWBGTを調べ、28以下であることを確認してください。
 確認は下記サイトで行えます。お住まいの地域のWBGTと3日先の予報をみることができます。

 暑さ指数は湿度も含めて計算されています。単純に気温を見るのではなく、WBGTを参照するようにしましょう。
 毎日の習慣として散歩している人も居ると思います。機械的に出かけることも多いと思いますが、その前にぜひWBGTを確認する習慣をつけてください。
 また、単なる私の想像ですが、気温が36℃を超える場合や、それより気温が低めでも無風の場合なども散歩を控えた方が良いかもしれません。風により身体を冷やす能力が失われてしまうからです。扇風機があるのと無いのとでは涼しさが段違いであるのと同じことです。これは一部未検証なのでどなたか検討して頂けると助かります。

2. 事前に身体を冷やす(プレクーリング)

 事前に身体冷却で深部体温を下げておくことで、深部体温上昇が遅れて起こり、有酸素系のスポーツではパフォーマンスの向上が報告されています。私の体験としても、散歩に出かける前に十分身体を冷房で冷やすことにより、あまり発汗せずに快適に散歩することができました。ここでは、プレクーリングの手法をいくつか説明します。全部行わなくても大丈夫です。自分の気に入った手法を取り入れてください。

2.1 アイススラリーを飲む

 アイススラリーとは、小さな氷と液体が混合した流動性のある飲み物です。これを4℃ほどに冷やして飲むことにより、運動による深部体温の上昇を抑制することができます。
 ポカリスエットのアイススラリーが販売されています。たぶん(田舎住まいなので見たことがないマン)。冷蔵庫で冷やしたこれを運動前に飲むと良いでしょう。

2.2 扇風機などで身体を冷やす

 扇風機などで身体を冷やすと、体表面は冷えますが、深部体温はそのままです。しかし、冷やした後に深部体温の低下がみられます。そのため、深部体温を下げるためにも体表面を冷やすことは有効です。
 下着姿で扇風機に対面して座り身体を冷やします。スプレーなどで水を身体にかけながら行うと効果的です。私個人の体験では、服を着ながら寒いエアコンの風にあたり身体を冷やすことも効果的でした。30分程度の散歩ならほとんど汗をかかずに行えました。
 冷やす時間は15分より30分、30分より45分と、長ければ長いほどよいです。風邪をひかない程度にひやしてください。

2.3 15℃程度の水で手のひら(可能であれば足の裏も) を5分以上冷やす

 手のひらや足の裏には体温調節の役割を担う動静脈吻合(AVA)という血管が多く分布しています。AVAを冷却することで、深部体温を効率的に冷やすことができます。
 15℃程度の物体、例えば冷えたペットボトル飲料などを握って手のひらを冷やしてください。ことのき、10℃を下回る冷たすぎるものは逆効果になります。
 冷やす時間は5分以上で、15分、30分と続ける事により効果は上がっていきます。

2.4 20℃程度の水風呂に浸かる

 スポーツの現場では使われているようです。普通の温水プールが30℃くらいなので、かなり冷たい水につかることになります。あまり現実的ではありませんが、いちばん効果はあるようです。

3. 適切な服装に着替える(1) 肌着

 これからは真夏の散歩に適した服装のお話をします。真夏の散歩、と書きましたが、具体的には、屋外で汗をかくシチュエーションに適した格好のことです。汗がにじむ程度にしかかかない場合は、このお話通りの格好をしても逆効果で暑いだけです。汗をかかない場合は日陰で全裸でいるのがいちばん涼しいです。そういうときはできるだけ薄着でいましょう。
 さて、安全で快適に散歩をするには、1)衣服内湿度を下げ皮膚をサラサラに保つ、2 )深部体温の上昇をできるだけ避け37℃程度に保つ、の二点が必要になります。
 深部体温をあげる原因は二つあります。太陽と自分の身体です。そのため、1) 直射日光を遮る、2) 体温を効率的に大気に逃がす、の二点が必要になります。
 散歩などの運動をすると、どうしても体温が高くなります。体温が高くなった場合、汗が出て蒸発する時の気化熱で体温を下げます。
 汗が出すぎると、汗が蒸発せずに皮膚に残ったりしたたりおちたりします。このような発汗を無効発汗と呼びます。
 無効発汗は体温を下げる効果はなく、単に体内の水分を消費するだけです。また、汗が皮膚に残っていると不快に感じます。安全で快適に散歩するには、無効発汗を減らす必要があります。
 無効発汗を減らすため、肌着には汗を吸い取りすぐに乾かす機能が必要です。そのため、肌着は吸水速乾性のあるものをえらびます。
 吸水速乾性のある肌着は汗により冷え、伝導により皮膚を冷やします。汗を効率よく肌着に吸わせ、身体の熱を効率よく肌着に奪わせるために、肌着はできるだけ肌に密着するものを利用します。
 人間の身体で汗をかきやすい部分は、胸や背中などの体幹部と、額や頭です。額や頭は真っ先に汗をかきはじめますし、脊柱付近では汗の量が多くなります。そのため、肌着はタンクトップや半袖を選ぶのが良いでしょう。腕や脚の発汗が気になるかたは長袖の肌着やアームカバー、タイツを併用してください。
 肌着の生地の厚さはそのまま吸水能力に比例します。ただ、厚い肌着は着ると暑く感じます。そのため、自分の汗のかく量を把握し、必要最低限の薄さの肌着を身につけると良いでしょう。
 ぼくは身体にはそこまで大量の汗はかかなかったため、肌着は速乾性がある上で極力薄いものを選びました。ユニクロのエアリズムデオドラントメッシュVネックTと、エアリズムメッシュロングボクサーブリーフです。どちらもナイロンのメッシュでできていて、たぶん吸水機能はたいしてないと思います。ぼくにはこの程度で十分でした。

 もう少し汗のかく人は、おたふく手袋のBody Toughness 3D FIRST LAYERシリーズのクルーネックシャツJW-521 白と、ボクサーブリーフJW-519を利用すると良いかもしれません。ぼくはこれらの実力を発揮するほど汗はかきませんでしたが、薄くてそこそこ涼しい肌着です。

 頭や額の汗を吸水速乾するためには、ヘッドキャップやヘッドバンドの利用をお勧めします。
 ぼくはおたふく手袋のヘッドキャップJW-611 白を使っています。額から汗が垂れずに快適に過ごせますし、頭に熱がたまるということもありません。帽子をかぶれば外見も気にならなくなります。

 身体を冷却するためにぴちぴちの肌着を着ますが、ぴちぴちの下着には汗のベタつきをなくし心地よさを持続させる機能も併せて持ちます。汗の気持ち悪さがなくなるので、そういう意味でもおすすめです。

4. 適切な服装に着替える(2) 上着

 上着(シャツやズボンなど)の主な目的は二つあります。ひとつは厳しい直射日光を遮ること、もうひとつは肌着の乾燥を促すことです。
 まず、厳しい直射日光を遮るために、上着は長袖長ズボンが良いでしょう。紫外線対策にもなります。ただ、くもりの日で湿度が高い場合は、手足にまとわりつく湿気をできるだけ減らすため、ぼくは半袖・半ズボンを選んで着ています。
 また、直射日光をできるだけ反射して生地に熱を持たせないようにするため、色は白を基調として選びます。黒は白の2.5倍太陽光を吸収して熱に変わりますので、暗い色はさけてください。ちょっとくらいなら大丈夫だろ、と油断して濃いめの色を選ぶと無茶苦茶生地が熱くなります。ぼくは油断して大失敗しました。油断せずに白系を選んでください。
 さらに、これは独自研究ですが、生地に熱を多く持たせないため、できるだけ薄手の上着を選びます。熱容量が大きいと、それだけ直射日光からの熱を溜めてしまい、生地が身体に触れた時に身体をより熱してしまうからです。
 次に、熱く湿った空気を外に逃がし、肌着の乾燥を促すために、上着は通気性の良いものを選びます。リネンやメッシュ構造のものが良いでしょう。
 また、身体の冷却と肌着の乾燥を促すために、上着はゆったりとしたサイズのものを選びます。肌着と上着の間に空気が流れる隙間があると身体が冷えやすく、また肌着の乾燥も早くなるからです。いくら生地に通気性があっても、上着がぴちぴちで肌着に触れている状態は、肌着への空気の流れを邪魔し肌着の冷却や乾燥を妨げます。
 これは独自研究ですが、ゆったりとしたサイズの上着はほかにも、直射日光で熱せられた上着をできるだけ肌から離し、身体が加熱しないようにする役割もあります。上着が肌に直接触れていると、伝導により容易に上着の熱が肌に伝わってしまいます。上着が肌から離れていると、放射・対流を介して熱が間接的にしか伝わらないため、直接伝わるより涼しく感じます。日傘が涼しいのと同じ原理です。 
 裾から首元への空気の流れを促すため、シャツはタックインせず、首元は開いたものを使いましょう。
 ぼくはユニクロのプレミアムリネンシャツと無印良品の風を通す UVカット汚れが落ちやすいパンツを使っています。通気性が良いパンツはこれしかありませんでした。プレミアムリネンシャツもかなり生地に隙間が多く風通し抜群です。

 半袖半ズボンは、同じく無印良品の風を通すシリーズを使っています。ただ、半袖短パンはもともと風通しが良い気がするので、他のものでも良いかもしれません。

5. 適切な服装に着替える(3) 帽子などのアイテム

 晴天時には、頭にあたる直射日光を遮るために帽子をかぶるか日傘をさすかします。脳は人間の器官の中でも重要な器官で、熱くならないように特別に注意が必要だからです。
 帽子は白くつばの広いものを利用してください。また、通気性がないと帽子の中が体温で加熱して熱くなります。必ず通気性のあるメッシュなどが存在する帽子を利用してください。
 ぼくはモンベルのWIC.UVテクトハットを使っています。ハットストラップも買ってつけ、顎に引っ掛けて使っているので、強風下でも帽子が飛ばされることもなく安心できます。

 日傘もとても有用なアイテムです。頭だけでなく身体全体を直射日光から守ってくれます。紫外線も赤外線も熱も完全にカットしてくれて、圧倒的に涼しそうです。いくら白い服を着たとはいえ、いまのところ日傘にまさるのは難しいでしょう。ぼくの地元は風が強めなためぼく自身はつかったことはありませんが、近年注目を浴びていて使う人も増えているようですので、気になるかたはいろいろと探してみると楽しいかもしれません。
 AVAを冷やして深部体温の上昇を防ぐため、手袋はしないようにしてください。また、できればつま先も露出させていると良いそうです。そうは言われても靴下や靴はくし……となりますが、アウトソールに穴があいて通気性を確保した靴があるようで、それなら少しは涼しいかもしれません。私は試せていませんので紹介にとどめておきます。

 靴に覆われているのでどの程度効果があるかはわかりませんが、靴下もメッシュで薄手のものにすることで通気性を確保することができます。ぼくはTabioのメッシュスニーカー丈ソックスを利用していますが、靴の通気性がないので気休め程度の効果です。

6. 身体を冷却する

 散歩中でも身体を冷やすことができれば、より熱中症になりにくいでしょう。全身を冷やすことは無理でも、局部を冷やして効果的に放熱することは可能です。
 AVAのある手のひらと足の裏のほか、首元(頸動脈)、脇の下、鼠径部を冷やすことが効果的です。これら三箇所には体表近くに太い血管があり、血液を冷やすことにより効果的に体内を冷やすことができるからです。
 首元を冷やすにはネッククーラーが使えそうです。保冷剤を使うものやファンで風をあてて冷やすもの、ペルチェ素子で冷やすものなど、様々な種類のものが存在します。1時間程度の散歩でよければ、保冷剤を首に巻きつけて冷やすことができます。ぼくはアイスノンの首元ひんやり氷結ベルトを購入してみました。効果があれば報告します。

 1時間程度の散歩で良ければ、脇の下を冷やすためにアイスベストを利用することができます。ただ、簡単なものを使ってみましたが、効果はともかくとして、脇に挟むのが大変で散歩には向いてなさそうでした。使うなら本格的なものが必要そうです。
 個人的な印象ですが、わりと背中が熱くなりやすい気がしています。背中を冷やすものを使うのも良いかもしれません。ぼくは試せていませんので、紹介だけにとどめておきます。

  • ケンユー マイアイス 背中クーラー

https://www.kenyuu.co.jp/products/snc-24/

 そのほか有名な熱中症対策品として、空気を上着に循環させてて身体を冷やす、空調服があります。下着に吸水した汗も速乾してくれそうです。しかし高い……たぶん一式で3万くらいします。ぼくは試せていませんので、紹介にとどめておきます。

 1時間程度の散歩で良ければ、水冷式のベストも良いかもしれません。水冷式のベストの価格は1万円弱と空調服よりも安価ですが、冷却は1〜2時間しか持ちません。こちらも、ぼくは試せていませんので紹介にとどめておきます。

7. 30分程度散歩したら休憩を入れる

 深部体温を定期的に冷やすため、連続した散歩は20〜30分程度にとどめましょう。できれば日陰や涼しい場所で休憩すると良いでしょう。水分を摂ったりアイススラリーを飲んだり、手足を冷やしたりして深部体温を下げる努力をすると良いでしょう。水分はいつの間にか失われています。喉が渇いた時点ですでに脱水状態にあります。そのため、喉が渇く前に意識的に水を摂取するようにしてください。

おわりに

 ぼくもまだ調査途中だったり効果を検証途中だったりするものが多いのですが、今年の夏の暑さがヤバいことになってるため、中途半端ですが今判っていることをまとめました。みなさんの参考になれば幸いです。また、何か追加でわかったことがあれば追記していきます。

参考文献


https://www.wbgt.env.go.jp/pdf/library/library_12.pdf

https://www.jpnsport.go.jp/hpsc/Portals/0/resources/jiss/jigyou/pdf/shonetsu2.pdf

  • 生活のなかの熱物性

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjtp1987/8/1/8_1_31/_pdf


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