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SF素人が『三体』に挑戦するよぉ⑧ ~死神永生(上)~


圧縮ロフトです。この記事は三体感想記「SF素人が『三体』に挑戦するよぉ⑦」の続きで、同じく三巻(上)の感想を記述していっています。





執剣者ソードホルダー


階梯計画を未来でもコントロールするためコールドスリープで未来へ送られた程心は、
実は地球人型生命の居住に適していそうな事が分かったDX3906星の権利関係で目覚めさせられることとなった。


残念ながら階梯計画は歴史の流れで忘れられてしまったが、この程心が目覚めた未来は「三体」2巻より後の時代で、羅輯に地球は救われた後である。地球と三体星は輝かしい協力関係となり、
地球は三体星から科学技術を、三体側は地球から芸術と、またそこから人間心理を学び取り
互いの技術向上が続き特に地球は今こそ最高の時代と信じてやまない栄耀栄華の時代のようだ。

また羅輯によって2巻のラストでゼロから構築された暗黒森林抑止機能は
更に進歩した未来のテクノロジーで高度かつ確実な形へ姿を変えたが、三体星の座標公開という役目は変わらず羅輯が担っていた。

羅輯ルオジー生きとったんかワレ!!


この役目は執剣者ソードホルダーという微妙にダサい名前で地球文明に呼び倣わされており
暗黒森林攻撃の物理トリガーを常にその利き腕に携え、敵が攻撃の意思を少しでも見せれば直ちに三体星の座標を公開し、全宇宙の狩人にその位置を晒す役割を帯びている。

全地球の生命と全三体星の生命が載った天秤の支点に座し、傾いた瞬間どちらかの絶滅の決定を下すまともな精神では勤まらない仕事だ。


『三体 Ⅲ(上)』では2巻ラストから4~50年ほど経っていて、
羅輯ルオジー、いやルオじぃの老齢に伴い執剣者ソードホルダーの交代が世論で高まっており、人類唯一の惑星ほしの所有者で、西暦時代出身の決断力を持ち、見た目が美形な程心チェンシンがトップ候補者に躍り出るのだった。



程心チェンシン、日和る


全地球人の投票など何やかんやあって程心は羅輯を継承する暗黒森林抑止の二代目執剣者ソードホルダーに選ばれ
羅輯から直接暗黒森林抑止スイッチを受け取るが、直後、程心が執剣者となった瞬間と言えるタイミングに三体文明は攻撃を仕掛けてきた。


特攻(ぶっこ)んでくる三体人


羅輯と違って程心には執剣者としての決断力がないと見ての攻撃である。

オゥ地球人ナメてんじゃねぇぞ!!暦も作れねえクセしやがって!!!やってやれ!!!やってやれ程心チェンシン!!!!!!!


ちなみにこの時代の未来地球人は美形化が進んでおり、容姿の良さというのが人を評価するかなり大事な判断基準となっている。
そこらの市長のおっさんであっても女性と見まごうような容姿のよさを持ち、反面メンタルが弱々しくなっているが、
統率判断力に長けてそうなリーダーゴリラおっさんより美女である程心チェンシンに国民投票が集まるのは当然の帰結と言える。


しかしこれは三体人がかつて持っていなかった欺瞞戦術である可能性もある。抑止紀元から三体人は地球の芸術や文化を学び、創作という嘘を学び取っているためだ。
審美力を文化交流の起点とし、見かけの美という戦争では役に立ちにくい判断基準の優先度を地球人の意識に植付け、執剣者としての力がない者に投票させる。

三体文明のバトルシップ「水滴」も人類から見れば美の極地の造形をしている。三体人おっさんが作った取って出しの軍用品でも芸術作品扱いだ。
地球人おとこのこって、こういうのが好きなんでしょ?



そして三体文明側は「水滴」を使って地球圏にある抑止機能の三体星宇宙座標送信アンテナをすべて同時に破壊成功してしまう。

この時程心は執剣者としてルオじぃから渡されたスイッチを押す事ができず、三体文明の地球侵略の算段が完全に整ってしまうが、
2巻で地球圏から脱出し、オールトの雲を越える辺りに達していた星艦地球≪藍色空間≫ブルースペース
これの地球から追跡者の航宙船であり宇宙電波送信アンテナでもあった≪万有引力≫グラヴィテイションは、
何やかんやあって故郷の危機に互いに協力し合い、≪万有引力≫から三体星の座標を全宇宙に向け送信し暗黒森林攻撃は発動、地球は救われるのだった。



宇宙安全宣言



座標をさらされた三体星は3年10か月後に暗黒森林攻撃を受け崩壊した。地球文明は有史以来初めて他の星系文明が消え去るところを目の当たりにした訳だが、ここで一つ地球人はある問題に気付く。
前回羅輯が実験として星を破壊した時には「呪文」の送信から効果が出るまで250年という月日が掛かっていたはずが、三体星に対する攻撃が早すぎるのだ。

ここから分かるのは暗黒森林攻撃を行っている超上位種宇宙文明は明らかに母体としている惑星から攻撃しているのではなく、どこか三体星の近くに宇宙船を飛ばしていて
そこから星を一撃で破壊せしめる攻撃、光粒フォトイドを撃っている。つまり上位文明は宇宙のどこにいるのか分からず、地球のすぐそばにもいるかもしれない。
明日、世界が終わっても不思議ではないという事だ。

三体文明の監視メカである智子ソフォン羅輯ルオジーによって築かれた抑止紀元の後、表向きは人類に技術供与を行う三体文明の窓口役として智子(ともこ)という美女アンドロイドに姿を変え
ハリウッドが考える間違った日本人スタイルで地球の活動を行っていたが、
母星の崩壊により、宇宙船で何とか逃げ延びた三体人と共にその星系を去るため目的のなくなった地球を智子自身も引き上げるという話を執剣者である程心と羅じぃに告げた。

智子の地球で活動する姿。多分こう


座標は晒されている訳ではないが、破壊された三体星と情報のやり取りがあった地球もいつ上位文明に位置を知られてもおかしくない。
地球を手伝える事は何もないとしつつも、そんな三体文明にルオじぃが行った一つの質問にだけ彼女は答えた。
面壁者、執剣者として三体文明と戦い抜いた羅輯ルオジーに敬意を評してどんな質問でも必ず真実を答えるという。



暗黒森林攻撃のため座標を送信するように、全宇宙に対して『地球は安全な星だ』と伝える送信をする事は可能か?

智子は「可能です。」とだけ答えた。


雲天明ユン・ティエンミン


宇宙安全宣言の話は全地球に公開され全ての人間が宣言の出し方について考えたが、ロクな物は出なかった。
この安全宣言は人類が無害そうな原始人生活に戻るとか、森に木を沢山植えるとかそんな見た目を整える行いで解決する問題ではない。

上位文明はいちいち地球を査定になど来ない。そもそも位置を知られる事は論外で、知的生命がいると分かれば暗黒森林攻撃でドカンだ。


これに対する解決方法はやはり三体人に聞く他はない事が判明するが、ここに来て人類に天佑が訪れる。脳だけになって宇宙に射出された雲天明ユン・ティエンミンが無事(?)三体艦隊に捕まっており、程心と話したいと智子経由で連絡を送ってきたのだ。
三体側の詳細な情報が聞き出せる相手は今やこの天明ティエンミンだけである。




会談場所に指定されたのは太陽と地球のラグランジュ点(ポイント)だが、これは二星の間で引力が吊り合い安定する場所で重要会談が行われるのが三体人のしきたりなのだという。
本当か?カオス理論につねにブン殴られてる三体星にラグランジュ点なんかねぇだろうによ。

宇宙航空学を学び、星を贈られ、三体文明と戦う組織に所属していた程心。
二世紀後の未来に送られてなお一度も来た事がなかった宇宙を会談場所に指定され程心は初めてその階梯軌道エレベータを登った。



二人の間で三体側の重要機密に関わるようなやり取りがされれば即ドカンの装置を着けられた宇宙艇に乗り込み程心は会談場所へ向かう。
当然帯びている密命は三体人が持っている宇宙安全宣言の秘密を天明から聞き出す事だ。
指定の会談場所に到着した程心の前に一体の智子ソフォンが低次元展開し、逃げ延びた三体艦隊からと思われる映像を映し出す。

三世紀前に別れたままの姿で麦畑の中から現れた雲天明ユン・ティエンミンはかつての厭世的な表情が消えており、程心チェンシンに穏やかに語りかけてくるのだった。


雲天明は程心の事を今でも大切に思ってくれているのか?憎悪したりしていないか?洗脳されている可能性はないか?
本当に地球の現状を知っていて、助け舟のように三体人が持つ秘密をそれとなく教えようとしてくれているのか?


……それは次回の「三体Ⅲ 死神永生ししんえいせい(下)」感想記でまたお話する事としましょう。
宇宙艇の爆破スイッチ、押すなよ!!!絶対押すなよ!!!!!




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