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「なんだか、自分の人生、無駄にしてるような気がして」
 真人はそう言った。潮風がふき、私は、口の中まで海でいっぱいだった。

「久しぶり」
 東京に上京した真人が、帰ってきた。突然の訪問に、私は、思わず固まった。切れ長の目は、2年前と変わらない。少しだけ日に焼けた肌が、白いTシャツのせいか、際立って見えた。

「ちょっと、出かけない?」
 私は、頷くのが精一杯で、玄関にあったボロボロのサンダルに足を通した。坂道を下ると、一面に砂浜が見える。穏やかな波の音は、何も話さない二人の沈黙をないものにするようで、ちょうどよかった。
 砂浜に足を踏み入れる。サクサク、と音がした。真人は、どこかその音を懐かしんでいるように見えた。

「仕事、どう?」
「え、まぁ、うん」
 看護学校を卒業し、この町、唯一の総合病院で働いている。いつもありがとうと、町の人たちから感謝されるこの仕事に、少なからず誇りはあった。
「真人は?」
 この町から真人の通っていた大学は片道1時間はかかる。真人はそれでも、この町にとどまっていた。それなのに、東京に就職を決めたことは、何か別の意味があると思っていた。
「うん、それなりに。でも」
「でも?」
「なんだか、自分の人生、無駄にしてるような気がして」

 真人は、遠い目をする。その瞳の奥には、抱えきれない寂しさで一杯のように見えた。

 東京に上京すると聞いた頃、父子家庭の真人の家から父親がいなくなった。お酒好きで、あまりいい噂を聞かなかった父親を、真人は懸命に支えていた。

 真人の腕時計の針は、あの日から止まったままだ。

 ーねぇ、あの日、19時25分に何があったの?

 私には、まだ、聞けそうにない。


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