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彼女の瞳はキレイだ

 曲がったことが嫌いで、まっすぐな彼女はいつも一人だった。教室の片隅に、一人ぼっちの彼女は、僕らとは違う世界線にいるように見えた。
 声をかけることができない僕は臆病者で、クラスの空気と共に流れていく方を選んだ。
 ふと、彼女と目が合う瞬間、僕はどこか苦しくなって、笑い方を忘れてしまう。彼女のまっすぐな瞳は、そんな僕を見透かしているかのようで、思わず目を逸らした。彼女はそんな僕を見下して、また一人、窓の外を見つめていた。
 
 しばらくして、彼女は教室から消えた。隣町に転校したとか、留学したとか、色んな人がいろんなことを言った。僕は、空いた彼女の席を見る度に、また、胸の奥がチクりと痛んだ。
 
 このまま僕は、自分を偽って生きていく。彼女とは違う世界線にいる僕は、まるで空気そのものだ。

 強く、まっすぐな瞳は、僕にはない。彼女の瞳は綺麗だ。

「いじめなんてなかった」
 誰もがそう言うだろう。僕だってそうだ。このクラスは、ただいつも通り回っていく。いなくなった彼女だけが、真実を知っている。

 彼女が消えてから1週間が経った放課後、先生は何事もなかったかのように彼女の机を片付けようとしていた。
「どうした?」
「いや……、そこ、一回だけ座っていいっすか?」
 先生は怪訝な顔をしたが、終わったら2組に持っていけ、と言って教室を出ていった。

 窓際の彼女の席に腰を下ろす。グラウンドから、サッカー部の声がした。奥に見える道路沿いには、もうイチョウが黄色く色づいている。窓から入る風は、どこか切なく僕の前髪を揺らしていった。

 彼女の瞳に映る僕は、どんな姿をしていたのだろう。
 

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