はつ恋
初恋の人が夢に出てきて
逃げよう、と言うので 逃げるしかない
一体何から?と思うけど逃げるしかない だって初恋の人だから
逃げてるうちに なんかまずいなって思うけど
まあいいかって投げやりになって
もう逃げるしかないって思ったその時
ごみ収集車の音楽が近づいてくる
そうだ 今日は燃えるごみの日で
どうしても出したいごみがあるんだ
何年もとっておいたあのがらくたを
昨日の夜 袋に投げ入れて固く固く結んだ
収集車の音楽はだんだんと近づいてくる
起きないと 起きないと
でもちょっともったいない
せっかくの切なく くだらないこの夢をもう少し
でも ごみがごみを君が君を
君は変わんないねと言いながら
本当は顏なんか思い出せない
「はじめて」が そんなに大事なのかと
問われれば言葉もない
奥の奥へしまいこんで ただそこにある、というだけの陶酔
それでも 逃げるしかない
結んだ君の手は幼子のようで
それでいて老人のようでもある
この手も然り
足は徐々に徐々に重くなり
ごみ ごみ きみ ごみ きみ ごみ……
結局 収集車は行き過ぎ
ぬかるみの身体に遠のく音楽
ああ やっぱり捨てそこねた!
我ながら わざとらしい後悔の仕方
甘ったるくて 最悪の目覚め!
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