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読了した作品の感想記事を書きます。作家が作品に込める哲学、思想、主義などを出来る限り汲み取ろうと努めています。記事をご覧になる方にとって、作品と出会う切っ掛けになれば幸いです。

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  • シェイクスピア作品感想リスト

    シェイクスピア作品の感想をまとめました。気になる作品があれば、ぜひご覧ください。

  • 名刺がわりの小説10選

    「名刺がわりの小説10選」の感想記事をまとめたページです。気になる作品を選んで読んでみてください。

最近の記事

『いさましいちびのトースター』トーマス・M・ディッシュ 感想

こんにちは。RIYOです。 今回はこちらの作品です。 第二次世界大戦争後、あまり戦禍を被らなかったアメリカでは特需景気が巻き起こり、資本主義的に世界を牽引するようになります。娯楽や歓楽が賑わう一方で、音楽や文学などの文化的発展も著しく成長しました。そのなかでも、娯楽作品として認識されていた「サイエンス・フィクション」という文学区分は、戦争という経験によって大きく進化します。化学と戦争の関連性、空想でしか有り得なかった荒廃的な世界、ファシズムの持つ恐怖など、現実体験によって刺

    • 『春にして君を離れ』アガサ・クリスティー 感想

      こんにちは。RIYOです。 今回の作品はこちらです。 1944年の英国、すでに推理小説作家として文壇に揺るがない立ち位置を築いていたアガサ・クリスティー(1890-1976)は、長年のあいだ構想を続けていた作品の執筆に取り掛かりました。この作品は謎解き小説とは一味違った雰囲気の「ロマンス小説」なるもので、ミステリーを期待する先入観を持った読者には望ましい印象を与えない可能性がありました。そのため、本作『春にして君を離れ』を含む六作のロマンス小説はメアリー・ウェストマコットと

      • 『アンナ・カレーニナ』レフ・トルストイ 感想

        こんにちは。RIYOです。 今回はこちらの作品です。 十九世紀ロシアを代表する二人の偉大な作家、フョードル・ドストエフスキーとレフ・トルストイ。内なる感情の劇的な興奮やその明暗に渡る高揚を、奥の奥まで突き詰めたドストエフスキーに対し、トルストイは当時の社会そのものを詳細に描きながら思考の流れや意識の動きを初めて読者に提示しました。トルストイは、大作『戦争と平和』の後に生み出した本作『アンナ・カレーニナ』で、主要な登場人物の心の声を通して、置かれた立場から揺れ動く思考を情景描

        • 『不思議の国のアリス/鏡の国のアリス』ルイス・キャロル 感想

          こんにちは。RIYOです。 今回はこの二作品です。 ルイス・キャロル(1832-1898)は、軍事や聖職者を多く輩出する家系に生まれ、彼自身も聖公会(Anglican Church)に所属して、幼い頃より裕福な環境で育ちます。熱心な信者でアングロ・カトリック(英国国教会を肯定する高教会派)に傾倒し、その運動の基盤となったクライスト・チャーチ(オックスフォード大学)へ通いました。持って生まれた数学者としての才能を存分に活かし、優秀な成績を修め、そのまま数学の大学教員の資格を取

        『いさましいちびのトースター』トーマス・M・ディッシュ 感想

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        • シェイクスピア作品感想リスト
          20本
        • 名刺がわりの小説10選
          10本

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          『生まれいずる悩み』有島武郎 感想

          こんにちは。RIYOです。 今回はこちらの作品です。 有島武郎(1878-1923)は、東京で大蔵官僚として成功を収めた元薩摩郷士である父のもとに生まれました。幼い頃より恵まれた環境で育ち、隅々まで教育を与えられてきましたが、常にどこか心が晴れないような心持ちで日々を過ごしていました。札幌農学校へと進学しましたが、内村鑑三に影響を受けてキリスト教の洗礼を受けると、渡米してハバフォード大学の大学院へ、さらにハーバード大学へと進んでキリスト教とともに西欧の哲学や文学に触れていき

          『生まれいずる悩み』有島武郎 感想

          『若きウェルテルの悩み』ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ 感想

          こんにちは。RIYOです。 今回はこちらの作品です。 十八世紀におけるドイツ(神聖ローマ帝国)では、西ヨーロッパでの啓蒙主義の影響を強く受けていました。従来のキリスト教に基く封建的な考え方に対して反発するように起こったもので、人間の理性を重視して合理的な幸福社会を目指そうとするものでした。哲学者イマヌエル・カントなどが提唱し、人間性の解放を促すもので、思想面でフランス革命の基礎を築いたものでもあります。民衆の精神を理想的に導くように考えられたこの啓蒙主義は、その反面で「個の

          『若きウェルテルの悩み』ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ 感想

          『しんどい月曜の朝がラクになる本』佐藤康行 紹介

          こんにちは。RIYOです。 今回は書籍のご紹介です。 現代日本の社会において、組織の中に身を投じて働く人々は、少なからず月曜日(もしくは休み明け)を迎えることに憂鬱を感じる人が大多数であると言います。休みにしたいことが多すぎる、趣味の時間をもっと長く持ちたいなど、比較的前向きな悩みで休みを求める人は「憂鬱」とは少し違う不満の感情があると思います。そうではなく、仕事の日々が訪れることに対して「気が重くなる」という人々が本書の対象です。 本書では、仕事が「しんどい」と感じる大

          『しんどい月曜の朝がラクになる本』佐藤康行 紹介

          『バガヴァッド・ギーター』聖仙ヴィヤーサ 感想

          こんにちは。RIYOです。 今回はこちらの作品です。 紀元前後に編纂された壮大な叙事詩『マハーバーラタ』は、バラタ王族に起こった同族戦争を描いたもので、世界最古の戦記とも言われています。このなかの一章を抜粋したものが本作『バガヴァッド・ギーター』です。「神の詩」という意味が込められ、神クリシュナと王子アルジュナの対話によって綴られます。稀代の武人であったアルジュナは両軍が全面的に激突する直前、なぜ親族と争わなければならないのか、なぜ同族を滅さなけれぼならないのか、同族と争う

          『バガヴァッド・ギーター』聖仙ヴィヤーサ 感想

          『マドゥモァゼル・ルウルウ』ジィップ 感想

          こんにちは。RIYOです。 今回はこちらの作品です。 十八世紀のフランスでは、ルネサンスによって興った人間解放という思想が宗教に及び、永く続いていた封建社会における王権や教皇の絶対的な権威が薄れ始めていきます。時流に後押しされるように生まれたヴォルテールやジャン=ジャック・ルソーなどの解放的な思想が直接的に世相へ影響を与え、アンシャン・レジーム(旧制度の階級社会)が行き詰まり、虐げられ続けた第三身分たちによる権利の主張を呼び起こし、フランス革命が勃発しました。この革命の初期

          『マドゥモァゼル・ルウルウ』ジィップ 感想

          『タイム・マシン』ハーバート・ジョージ・ウェルズ 感想

          こんにちは。RIYOです。 今回の作品はこちらです。 ハーバート・ジョージ・ウェルズ(1866-1946)はロンドンで商人をしていた父のもとに生まれました。しかし、立地や商材に恵まれず、父は庭師をする傍らでプロのクリケット選手として不安定な収入を得て暮らしていました。下層の中流階級に位置していた家庭は、決して裕福ではなく、ウェルズ自身も早々に呉服屋や科学者の見習いなどで働くという、厳しい生活を強いられることになりました。このような中で、彼を夢中にさせたものは、図書館に並ぶ書

          『タイム・マシン』ハーバート・ジョージ・ウェルズ 感想

          『牡丹燈籠』三遊亭圓朝 感想

          こんにちは。RIYOです。 今回の作品はこちらです。 江戸に生まれた三遊亭圓朝(1839-1900)は、祖父、父と同様に噺家の道へと進みます。七歳で高座(こうざ)、二十歳を超えてすぐに音や画を使った芝居話を披露して一躍人気を獲得します。当時の噺家(咄家とも)は、滑稽な話で笑いを誘い最後に落ちをつける「落とし噺」、大道具や小道具を用いて役者の声音を入れて芝居語りをする「芝居噺」、人と人との情を軸とした長篇の物語を語る「人情噺」などを、寄席で披露して凌ぎあっていました。寄席はそ

          『牡丹燈籠』三遊亭圓朝 感想

          『もしもし(VOX)』ニコルソン・ベイカー 感想

          こんにちは。RIYOです。 今回はこちらの作品です。 ニコルソン・ベイカー(1957-)は、アメリカのニューヨーク州北西部にあるオンタリオ湖沿いの都市ロチェスターで育ちました。イーストマン音楽学校でクラシック音楽を中心に学び、ファゴットの奏者として腕を磨いていました。蒸気機関のような印象の楽器から生み出される中音域の美しい音色に、彼は夢中になり熱心に取り組んだことでロチェスター・フィルハーモニー管弦楽団に加わるほどの腕前となりました。しかし、持ち前のストイックさから、自らが

          『もしもし(VOX)』ニコルソン・ベイカー 感想

          『カラーパープル』アリス・ウォーカー 感想

          こんにちは。RIYOです。 今回はこちらの作品です。 黒人奴隷制度を巡って南北戦争が勃発したアメリカでは、エイブラハム・リンカーンによる1863年の奴隷解放宣言以後も、主としてアメリカ南部における黒人に対するさまざまな差別が続きました。南部のアメリカ連合国(CSA)は、北部のアメリカ合衆国(USA)に打倒されたものの、実質的な奴隷制度の継続を目指します。合衆国憲法に抵触しないように文言を工夫して、黒人の人権を次々と脅かしていきます。まず1890年にミシシッピ州が黒人の選挙権

          『カラーパープル』アリス・ウォーカー 感想

          『ビヒモス』トマス・ホッブズ 感想

          こんにちは。RIYOです。 今回はこちらの作品です。 1603年にイングランドのエリザベス一世が未婚で亡くなり、ヘンリー七世の血を引くスコットランドのジェームズ六世がイングランド国王を継承して、ジェームズ一世として即位し、両国を治めることになりました。彼は王権神授説(国王の権力は神から与えられた神聖不可侵なものとする考え)に基づいて政治を進めました。エリザベス一世が確立したイギリス国教会を基盤として宗教統制を図り、それに倣った統治を行いました。しかしながら、イングランドにお

          『ビヒモス』トマス・ホッブズ 感想

          『ジェーン・エア』シャーロット・ブロンテ 感想

          こんにちは。RIYOです。 今回はこちらの作品です。 シャーロット・ブロンテ(1816-1855)の父親は、イングランド北部のヨークシャーにある小さな村ソーントンの牧師でした。母親は病弱であったうえ、多産によって身体に負荷が掛かり、シャーロットが五歳のときに亡くなりました。彼女は六人兄弟の三番目の子として生まれました。八歳の時、二人の姉と妹エミリーと共にイングランド西北部ランカシャーにあるカウアン・ブリッジという寄宿学校へ入学します。この学校の環境は劣悪で、食事は貧しく、勉

          『ジェーン・エア』シャーロット・ブロンテ 感想

          『美少年』団鬼六 感想

          こんにちは。RIYOです。 今回はこちらの作品です。 団鬼六(1931-2011)は、滋賀県で映画館を営む父親の元に生まれました。この「金城館」は幼い頃の遊び場でもあり、早くから映画に触れて感性を磨く場でもありました。しかし鬼六が十二歳のとき、父親は相場で大きな借金を抱える事になり、全てを手放して大阪の軍需工場で働くことになったため、鬼六も大阪へと移り住むことになりました。関西学院大学中等部へ進学すると勤労動員として鬼六自身も軍需工場で働くことになります。この頃から文学に関

          『美少年』団鬼六 感想