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読了した作品の感想記事を書きます。作家が作品に込める哲学、思想、主義などを出来る限り汲み取ろうと努めています。記事をご覧になる方にとって、作品と出会う切っ掛けになれば幸いです。

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  • シェイクスピア作品感想リスト

    シェイクスピア作品の感想をまとめました。気になる作品があれば、ぜひご覧ください。

  • 名刺がわりの小説10選

    「名刺がわりの小説10選」の感想記事をまとめたページです。気になる作品を選んで読んでみてください。

最近の記事

『青い眼がほしい』トニ・モリスン 感想

こんにちは。RIYOです。 今回はこちらの作品です。 1993年に黒人作家として初のノーベル文学賞をしたトニ・モリスン(1931-2019)。彼女は、文壇として光を当てられていなかったアメリカ社会の側面、白人による人種差別やそれに伴う社会への弊害、このような影響を受け入れた社会で暮らす人々の実態を強く詩的に表現した作家です。本作『青い眼がほしい』は、第一作でありながらモリスンの持つ思想や表現が凝縮された作品です。 1941年、オハイオ州ロレイン郡を舞台として描かれます。酒

    • 『偽りの告白』ピエール・ド・マリヴォー 感想

      こんにちは。RIYOです。 今回の作品はこちらです。 現代でも舞台で数多く演じられる作品を残した劇作家ピエール・ド・マリヴォー(1688-1763)は、モリエールの築き上げた古典としての喜劇に、細かな心理描写を埋め込んで新たな喜劇の基盤を構築しました。当時のフランスでは、ルイ十四世の弟であるオルレアン公フィリップ一世によるパレ・ロワイヤルでの豪奢な放蕩三昧に代表されるように、貴族たちは娯楽と遊蕩に溢れた生活に耽っていました。このような世にありながら、ランベール侯爵夫人は格式

      • 『フーコーの振り子』ウンベルト・エーコ 感想

        こんにちは。RIYOです。 今回はこちらの作品です。 1980年に発表した『薔薇の名前』で一躍イタリア文壇の頂点に到達した記号学者であるウンベルト・エーコ(1932-2016)。世に衝撃を与えたのち八年を経て、彼は本作『フーコーの振り子』を発表しました。 中世における美学の研究において、エーコは理論と実践の区別について重視しました。過去の時代に存在した「幾何学的合理性のある何が美であるべきかの解答的概念」と、「弁証法的な形相と内包」の交わりに焦点を当てていました。中世遺物

        • 『海賊船』岡本綺堂 感想

          こんにちは。RIYOです。 今回はこちらの作品です。 元は徳川の御家人であり、明治維新ののちに英国公使館で日本語書記を務めていた父親のもとで岡本綺堂(1872-1939)は生まれました。士族らしく彼は漢文や漢詩を習う一方で、父親と同じように英国公使館で働く叔父より幼い頃から英語を学びました。また、父親の人脈や歌舞伎に関心のある母親の影響で在学中より観劇に多く足を運び、彼もまた強い興味を抱くようになっていきます。あるとき、父に連れられて新富座の興行を観た折に楽屋へ向かうと、十

        『青い眼がほしい』トニ・モリスン 感想

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        • シェイクスピア作品感想リスト
          23本
        • 名刺がわりの小説10選
          10本

        記事

          『ある奴隷少女に起こった出来事』ハリエット・アン・ジェイコブズ 感想

          こんにちは。RIYOです。 今回はこちらの作品です。 1492年のクリストファー・コロンブスによるアメリカ大陸発見から始まったスペイン・ポルトガルによる新大陸の支配は、原住民アメリカン・インディアンへの激しい侵略行為から始まりました。彼らは新大陸を植民地化するため、広大な土地を奴隷化させた原住民に労働を行わせようとしましたが、誇りと命を懸けた反抗を受けたために抑圧し、原住民人口を減少させてしまいます。スペインは植民地を維持させる労働力を確保するために、今度はアフリカの黒人奴

          『ある奴隷少女に起こった出来事』ハリエット・アン・ジェイコブズ 感想

          『にんじん』ジュール・ルナール 感想

          こんにちは。RIYOです。 今回はこちらの作品です。 ジュール・ルナール(1864-1910)はフランス西部に位置するマイエンヌで地元役人の父親のもとに生まれました。この父親は一般公共事業の請負業者で、のちに彼の出生地であるブルゴーニュ地方シトリー・レ・ミーヌに移り住んで市長となりました。反聖職者の共和党員であった彼に対し、母親は金物商人の家柄の娘で、敬虔なカトリック信者でした。ルナールが生まれると一家はすぐにシトリーへと向かいます。パリのシャルルマーニュ高等学校で文学の学

          『にんじん』ジュール・ルナール 感想

          『デカブリストの妻』ニコライ・ネクラーソフ 感想

          こんにちは。RIYOです。 今回の作品はこちらです。 十六世紀より続いた皇帝(ツァーリ)による専横政治によって、ロシアでは上流貴族(ブルジョワ)による封建制と、地主貴族による農奴制が基盤となった社会が続いていました。国家は農奴たちを負担から逃がさないように罰則で土地に縛り付け、法的な土地緊縛を確立させていました。結婚の自由もなく、裁判権は領主に委ねられ、罰則は領主によって執行されるという、まさに奴隷的な処遇でした。また上流貴族(ブルジョワ)は、専横政治そのものに不満を抱き、

          『デカブリストの妻』ニコライ・ネクラーソフ 感想

          『深い河』遠藤周作 感想

          こんにちは。RIYOです。 今回はこちらの作品です。 第二次世界大戦争を経て、それまで隆盛していた日本の文学は大きく変化しました。空襲によって与えられた凄惨な経験と、戦禍によって与えられた精神への強烈な苦痛は、文学という形を通して新たな思想や哲学となり、第一次戦後派という思潮を生み出しました。その後、復興に伴い流れ込んできた西欧の文化や芸術に感化され、戦争を生き抜いた人間が新たに構築した思想や哲学を打ち出す西欧型の長編小説を量産した第二次戦後派が生まれます。このように西欧化

          『深い河』遠藤周作 感想

          『終わりよければすべてよし』ウィリアム・シェイクスピア 感想

          こんにちは。RIYOです。 今回はこちらの作品です。 この作品は1601年から1606年の間とされており、一般的にシェイクスピア作品のなかで「問題劇」と呼ばれる『トロイラスとクレシダ』及び『尺には尺を』などと共に括られています。三作どれもが、暗く苦い笑いと不愉快な人間関係を軸に描かれており、これはシェイクスピアの喜劇時代に執筆された『十二夜』や『お気に召すまま』のような幸福感が表現されている喜劇とは明確な違いが見られます。本作『終わりよければすべてよし』は喜劇でありながら、

          『終わりよければすべてよし』ウィリアム・シェイクスピア 感想

          『ヴェローナの二紳士』ウィリアム・シェイクスピア 感想

          こんにちは。RIYOです。 今回はこちらの作品です。 ヴェローナの紳士であるヴァレンタインとプローテュースは、互いに固い友情を交わし、何事も隠し事のない強い絆で結ばれていました。しかし恋愛についての考え方は正反対で、ヴァレンタインはそのようなものに関心を持つことができず、見識を広めたいという思いからミラノ公爵のもとへと旅立ちます。反してプローテュースは恋人ジュリアのもとを離れる気が起きず、ヴェローナに残ることを決めて遊学を見送りました。しかし、社会を学ばせて立派な紳士とさせ

          『ヴェローナの二紳士』ウィリアム・シェイクスピア 感想

          『タイタス・アンドロニカス』ウィリアム・シェイクスピア 感想

          こんにちは。RIYOです。 今回はこちらの作品です。 ウィリアム・シェイクスピア(1564-1616)は、劇作家として活躍する初期の1588年から1593年の間にこの劇を書いたと考えられています。『タイタス・アンドロニカス』は、彼の作品のなかで最も暴力的で血生臭い作品の一つであり、名誉の力と暴力の破壊的な性質を題材として描かれています。 執筆当時のエリザベス朝時代では、ラテン文学と称されるオウィディウス、セネカなどによる古典的な悲劇が非常に人気がありました。復讐、惨殺、残

          『タイタス・アンドロニカス』ウィリアム・シェイクスピア 感想

          『幽霊たち』ポール・オースター 感想

          こんにちは。RIYOです。 今回はこちらの作品です。 十九世紀末から二十世紀にかけて隆盛を極めたモダニズム文学は、それまでのリアリズム(写実主義)を否定するように作家の思想や意思を表現していきました。それまで文学として求められていた「あるべき流れ」を否定し、複数の対立意識を双方に存在させ、事物の曖昧性や不確定性を肯定しようとする文学運動で、ジェイムズ・ジョイスやフランツ・カフカ、ヴァージニア・ウルフやアンドレ・ジイドなどが代表作家として挙げられます。この前衛的な文学運動は世

          『幽霊たち』ポール・オースター 感想

          『いさましいちびのトースター』トーマス・M・ディッシュ 感想

          こんにちは。RIYOです。 今回はこちらの作品です。 第二次世界大戦争後、あまり戦禍を被らなかったアメリカでは特需景気が巻き起こり、資本主義的に世界を牽引するようになります。娯楽や歓楽が賑わう一方で、音楽や文学などの文化的発展も著しく成長しました。そのなかでも、娯楽作品として認識されていた「サイエンス・フィクション」という文学区分は、戦争という経験によって大きく進化します。化学と戦争の関連性、空想でしか有り得なかった荒廃的な世界、ファシズムの持つ恐怖など、現実体験によって刺

          『いさましいちびのトースター』トーマス・M・ディッシュ 感想

          『春にして君を離れ』アガサ・クリスティー 感想

          こんにちは。RIYOです。 今回の作品はこちらです。 1944年の英国、すでに推理小説作家として文壇に揺るがない立ち位置を築いていたアガサ・クリスティー(1890-1976)は、長年のあいだ構想を続けていた作品の執筆に取り掛かりました。この作品は謎解き小説とは一味違った雰囲気の「ロマンス小説」なるもので、ミステリーを期待する先入観を持った読者には望ましい印象を与えない可能性がありました。そのため、本作『春にして君を離れ』を含む六作のロマンス小説はメアリー・ウェストマコットと

          『春にして君を離れ』アガサ・クリスティー 感想

          『アンナ・カレーニナ』レフ・トルストイ 感想

          こんにちは。RIYOです。 今回はこちらの作品です。 十九世紀ロシアを代表する二人の偉大な作家、フョードル・ドストエフスキーとレフ・トルストイ。内なる感情の劇的な興奮やその明暗に渡る高揚を、奥の奥まで突き詰めたドストエフスキーに対し、トルストイは当時の社会そのものを詳細に描きながら思考の流れや意識の動きを初めて読者に提示しました。トルストイは、大作『戦争と平和』の後に生み出した本作『アンナ・カレーニナ』で、主要な登場人物の心の声を通して、置かれた立場から揺れ動く思考を情景描

          『アンナ・カレーニナ』レフ・トルストイ 感想

          『不思議の国のアリス/鏡の国のアリス』ルイス・キャロル 感想

          こんにちは。RIYOです。 今回はこの二作品です。 ルイス・キャロル(1832-1898)は、軍事や聖職者を多く輩出する家系に生まれ、彼自身も聖公会(Anglican Church)に所属して、幼い頃より裕福な環境で育ちます。熱心な信者でアングロ・カトリック(英国国教会を肯定する高教会派)に傾倒し、その運動の基盤となったクライスト・チャーチ(オックスフォード大学)へ通いました。持って生まれた数学者としての才能を存分に活かし、優秀な成績を修め、そのまま数学の大学教員の資格を取

          『不思議の国のアリス/鏡の国のアリス』ルイス・キャロル 感想