Ritsuko Kawai
ビジュアルメモリーズ 第9話「ホッケおいしいイクラおいしい」
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ビジュアルメモリーズ 第9話「ホッケおいしいイクラおいしい」

Ritsuko Kawai

Kと別れて再び独りぼっちになった私は、札幌から電車で30分ほどの観光名所、小樽へ向かった。ゲーム内では「春野琴梨」ルートで3日目に初デートの際にアンロックされるエリアで、ロシア人ヒロイン「ターニャ・リピンスキー」の攻略では毎日足を運ぶことになる。

ガラスの心に焔を入れて

今回の聖地巡礼で私がもっとも楽しみにしていた場所。それがターニャの職場として作中にも登場する小樽運河工藝館だ。残念ながら2011年に閉店してしまったが、当時はゲームで描かれたまま。

工房からは熱気が溢れ、真っ白に輝くガラス細工に職人の魂が吹き込まれていた。私はここでサンドブラストによる製作体験を予約していた。サンドブラストというのは、ガラスの表面に研磨剤を吹き付けて模様を描く加工技術のことだ。私は一輪の薔薇を描いた。

ターニャファンなら絶対に外せないのが、主人公と彼女の約束の場所とも言える場所、喫茶エンゼルだ。ここも現在は駅前の地下に移転して影も形もないが、当時はまだビジュアルメモリの情報どおり、そこにあった。

私はゲーム内で彼らがそうしたように、喫茶エンゼルでロシアンティーを注文。紅茶にイチゴジャムを入れて飲んだ。これで実績解除だ。個人的に小樽は地球上でもっとも好きな場所の一つで、『北へ。』とは関係なくおすすめのスポットがたくさんある。

次に訪れたのは、アイスクリームパーラー美園。ここは「川原鮎」ルートのデートスポットの一つで、あんみつパフェだったかが美味しい。同じく鮎ルートで小樽オルゴール堂も外せない。

ほかにも三角市場に旭展望台など、『北へ。』に登場した観光スポットはほとんど網羅した。少し中心部から離れるが、おたる水族館も鉄板だ。ゲーム内では琴梨ルートの序盤でおにいちゃんプレイできる。私は独りぼっちで行った挙句、定休日で入れなかったが、最高のデートスポットではないだろうか。中でもお気に入りなのが、小樽運河に添って続く街並みそのものだ。

その後、この聖地巡礼とは別に何度か小樽を訪れたが、夏の終わりに運河を染める真っ赤な夕日は、ターニャが作ろうとしたガラス細工そのものだった。ちなみに『北へ。』とは関係ないが、小樽といえば「最終兵器彼女」に登場する地獄坂もある。

黙々と寿司を食う少女

再び札幌に戻って、スープカレーの老舗店、マジックスパイス。下北沢や大阪、名古屋にも展開しているが、札幌に本店がある。ゲーム内では「桜町由子」ルートのバイクデートで訪れ、激辛カレーで悶絶できる。同じく由子さんつながりなら、大衆中華 宝来も。作中では大盛りチャーハンデートでフードファイトできるが、実際には大盛りは提供していない。

ほかにも、琴梨ルートの定番で紅茶の店アッサム、葉野香ルートおよび冬編の共通デートスポットのビートルバム、薫さんルートでほろ酔いの彼女が見られるイタリアンのママ・サブロッソ。残念ながら、これらは現在は閉店してしまった。

そして北海道といえばお寿司。ゲーム内でヒロイン「川原鮎」の実家という設定のお寿司屋さんは実在する。それがすすきのラーメン横丁の隣にある、寿し乃澤登。当時、子供がたった一人で入店してきたものだから、お店の人はさぞ驚いたかもしれない。ちゃんとしたお寿司屋さんでは、メニューに金額は書かれていない。ネタはすべて時価だからだ。

私はとりあえず読めない漢字で書かれた魚を片っ端から注文した。中でも忘れられないのが、『北へ。』でも主人公が口にする幻のサケ、鮭児だ。卵巣・精巣が未成熟な脂の乗った若いサケのことで、言わずと知れた高級食材。一貫で数千円飛んでいくが、子供の私にも味の違いは歴然だった。人生で一度は食べた方がいいと断言できる。

止まった砂時計

そうして聖地巡礼の1週間はあっという間に過ぎていった。もちろん『北へ。』シリーズの聖地は北海道全土に存在するが、私が訪れたのはホームグラウンドの札幌と、フェリーで最初に降り立った小樽。そして旅の最終日に夜行列車で向かった函館。ゲーム内では冬編のメインスポットとしてヒロインたちと訪れる場所だ。ふれあいイカ広場やハリストス正教会、五稜郭など、定番スポットは数え切れないほどある。

旅の最後の夜、私は函館山の頂上から、人類の営みが闇夜にばらまいた宝石を見た。その夜景は筆舌に尽くしがたい。インスタントカメラなんかに収まるわけがなかった。キャンドルライトだけに照らされた薄暗い展望レストランで、サケとイクラの親子丼に舌鼓を打ちながら、私の大人ごっこは完結した。もしここにKと来れたら、どんなにロマンチックだっただろう。

まだまだ語りたいことは山ほどあるが、すでにボリュームオーバーなので聖地巡礼の思い出話はここまで。いつの日か、憧れの女性「椎名薫」のように、コンバーティブルのスポーツカーを運転して、今度は北海道全土に広がるすべての聖地を網羅したい。その時こそ、Kと別れた際に止まった私の中の時計が、再び動き出すのかもしれない。

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Ritsuko Kawai
ライター・ジャーナリスト。カナダで青春時代を過ごし、現地の大学で応用数学を専攻。帰国後は塾講師やホステスなど様々な職業を経て、ゲームメディアの編集者を経験。その後、独立して業界やジャンルを問わずフリーランスとして活動。趣味は料理とPCゲーム。ストラテジーゲームとコーヒーが大好き。