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ビジュアルメモリーズ 第5話「セックスレス体と恐怖の大王」

Ritsuko Kawai

忘れもしない1998年11月27日。その日、おもちゃのハローマックで事前予約していた私は、湯川専務の顔写真がプリントされたドリームキャストの箱を胸いっぱいに抱えて、満面の笑みを浮かべていた。そして、お父様の2か月分のお小遣いが吹き飛んだ。

ローンチタイトルのラインナップは、セガが執念で間に合わせた待望の『バーチャファイター3tb』のほか、『ゴジラ・ジェネレーションズ』『ペンペントライアイスロン』、そして『July』だ。

当時、周りの子どもたちが最初のゲームにゴジラやペンペンを選ぶ中、私だけが『July』を手に取っていた。店頭で流れていたプロモーションビデオの「データ重視ではなくハート重視。考えるより感じるアドベンチャーです」というキャッチフレーズは、いまでも頭から離れない。その魔力に引き込まれたのだ。

『July』は、タイトルが示すとおり1999年7月の日本を舞台に、世界の命運を左右する奇妙なひと夏を描いたテキストアドベンチャーだ。主人公は、6年前のロンドン・バス爆破テロ事件で妹を失った大学生の高村誠と、幼い頃に両親を殺され人体実験の対象として長い間拉致されていた復讐鬼ヨシュア。

何の接点もなかった二人の運命が、巨大企業NAX製薬の陰謀に翻弄されるまま、驚愕の真実の前に交差する。その鍵を握るのが、生まれつき生殖能力を持たない「セックスレス体」と呼ばれる人間の存在だ。彼らは後世に遺伝子を残せない代わりに、各々が常人離れした何らかの特殊能力を秘めている。

ヨシュアもその一人で、素手で車を破壊できるほどの怪力を持ち、痛みを感じることがない。ほかにも他人の心が読めたり、身体から自在に放電できたりと、多様な能力者が登場する。いま思えば私自身、当時からセックスレス体という存在を他人事として捉えることはできなかったのかもしれない。

ストーリーは1日が1章分に相当。全18章で構成されている。また、ザッピングというシステムを採用しており、任意のポイントで二人の主人公を切り替えて物語を進めていく。プレイヤーの選択次第で多少の分岐はあるが、シナリオの大筋は一本。ゲーム途中の予期せぬ死亡を除けば、グッドエンドとバッドエンドのどちらかに収束する。

何よりもキャラクターデザインが印象的で、顔面から言葉にできない強烈なパワーを発している人物がやたらと多い。およそ150人の登場人物には個性的なプロフィールが設定されており、人物図鑑でポケモンのように集められる要素もある。

実はこのゲーム、冒頭でアメリカがイラクに対して宣戦布告する描写がある。間接的とはいえ、ノストラダムスの大予言をテーマに掲げた本作が、奇しくも2003年に勃発したイラク戦争を予言していたのだ。

ちなみに「ドリームキャストだからこそ実現できたスケール感と臨場感」を謳い文句にしているが、それは作中に何度か挿入されるムービーパートだけである。しかし、本作には新時代を切り開くドリームキャストの門出に相応しい強いメッセージが込められている。

かりそめの生涯を歩く意味、宗教が人にもたらす福音と紛紜、愛情と憎悪の認識が霞む特異点の存在。私は幼心に人類の永遠のテーマと向き合ったのだ。『July』の人物図鑑とすべてのエンディングを制覇した時、ソニックのぬいぐるみを抱きしめていたセガ娘は少しだけ大人になった。

そして来たるクリスマス。私はなけなしのお小遣いを全部はたいて待望の『ソニックアドベンチャー』と、いまはなきNECホームエレクトロニクスの遺作『セヴンスクロス』を購入した。かくして初期タイトルの帯に付いていた応募券を3枚集めたことで、念願だった湯川専務の携帯ストラップを手に入れたのだった。

前者について改めて語ることはないが、後者を知る者は少ないのではないだろうか。“地球によく似た”謎の惑星でミジンコからスタートして、自ら遺伝子情報を書き変えながら食物連鎖の頂点を目指すという内容だが、この作品の真価はエンディングで初めて明かされる。『セヴンスクロス』について語り始めると長くなるので、また別の機会にしたい。

次回は『北へ。 White Illumination』や『ブルー スティンガー』『ELEMENTAL GIMMICK GEAR』といった多くの名作がリリースされた1999年の外部記憶にアクセスする。

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