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深夜の街が好きだった

深夜の街は不思議だ。
繁華街ではガヤガヤと酔っぱらいの騒ぎ声が聞こえてくるのに、少し離れるだけで街はしんと静まり返っている。

元々結婚前は仕事終わりに必ずと言っていいほど、飲みに行っていた。
行きつけの店を何軒も梯子したり、常連との話に花が咲いたりして、気付けばシンデレラタイムはとうに過ぎている毎日。
私は、疲れた体に程よくお酒がまわり、ふわりとしたいい気持ちで歩く深夜の街が好きだった。

終電を過ぎた時間になると人の気配も少なくなり、どこかから聞こえる声がすごく遠い世界のものに聞こえる。
まるでこの街にいるのが自分だけのような錯覚に陥る。
昼間の据から解放されるのだ。
会社での自分、友達といるときの自分、家での自分、一人でいる過ごすときの自分、そのどれでもない何故か少し特別な自分になった気がするのだ。
そんな少しの高揚感に包んでくれる深夜の街が好きだった。

子供ができてからは、飲みに行くこともなくなり、必然的に深夜の街とも離れてしまった。
今の生活に不満があるわけではないが、子供や夫が寝たあと、一人リビングでなんとなく時間を過ごしていると、ふと深夜の街を恋しく思うのだ。
あのなんとも言えない、喧騒と静けさの混じった街を。

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