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ナチスの結婚政策

日本ではあまり知られていないかもしれませんが、ナチス政権下の1933年から家族・労働市場政策の一環として、新婚夫婦に「結婚融資」が行われていました。

 これは正式に結婚した夫婦に1000ライヒスマルク(以下RM)を無利子で貸し付け、返済は月々1%、しかも子供をひとり出産すれば25%返済義務がなくなる、つまり4人産めば帳消しになるという「太っ腹な政策」でした。当時の平均月収が158RMでしたから、1000RMは物入りな新婚夫婦にとってありがたい大金です。

 ただしこの融資には条件があり、購入できるものはドイツ製の調度品に限られ、衣類などには認められませんでした。おもしろいことに家庭内で演奏する目的であれば、楽器購入は許されていたそうです。

 他にもこの融資を受けるための条件がありました。

1.結婚前まで仕事をしていた女性は、ナチスの「女性は結婚後は家庭に入るべし」という保守的イデオロギーにのっとって、結婚と同時に仕事を辞めて家庭に入らなければなりませんでした。また、女性に仕事を辞めさせることで男性失業者を減少させることも目的のひとつでした。

 しかし、1937年になると女性就労禁止は緩和され、女性も労働を許されるようになります。再軍備のため、女性の労働力が必要となったからです。ただし、この場合の返済は月々1%から3%に引き上げられました。

2.遺伝的疾患のない健康な夫婦に限られました。ドイツ民族は優秀で健康な子供を産まなければなりませんから、遺伝的疾患や不治の病を患う者は「国の共同体の利益にならない」と判断され、融資を受ける権利が与えられませんでした。そのため結婚する際には医師の診断書が必要でした。

3.公民権を持たない者、つまりユダヤ人は融資を受けられませんでした。

4.社会的不適合者と判断された者も除外されました。これに前科のある者、そして共産党員が含まれます。

 ナチス政府は「産めよ増やせよ」を奨励していましたから、女性が専業主婦になって育児に専念し、健康なドイツ民族を増やし、将来の兵力を増強させることを目的としていたのです。

 ちなみに55歳までの独身者の所得税を増税し、この結婚融資の支出を補っていたことを付け加えておきます。


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