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夫の風邪症状が1週間以上続き、保健所に電話した話

これは、有益な情報や医学的根拠があるものではなく、なにを批判するでもなく、2020年5月14日現在の個人的な体験と感想をつづった日記です。

私たちの家族構成は夫、私、生後7ヶ月の娘。
住んでいるのは累計感染者数が100弱の地方都市だ。

4月末のある日、夫がなんだか体がだるいと言い始めた。夫も私も3月下旬からスーパーでの買い物や郵便局などのちょっとした用事、近所の散歩しか出かけていなかった。私たちが行っていた感染予防策は、消毒アルコールは手に入らなかったので、こまめな手洗い、配送の段ボールなどはノンアルコールの除菌シートで拭き取り、外出時のマスクだった。

地域の感染者数は少なく、感染の要因となるような行動は全く思い当たらなかったけれど、新型コロナウイルスの可能性を考えずにはいられなかった。初期症状として全身倦怠感はありがちだし、夫は普段から風邪をひくことがほとんどなく、ましてや暖かくなった4月末に他のウイルス感染による風邪も考えにくかった。

念のため、その日から夫には基本的に自分の部屋だけで生活してもらった。食事は一緒にとり、子供の世話は私の手があかない時に少しだけ。家の中でのマスクはなし、トイレは普段通りに使用し、お風呂は最後に入ってもらった。2日目には喉が痛いと言い始め、3日目には咳が出はじめた。鼻水もあったがそこまでひどくなかった。4日目から37℃前半の微熱が出てだるさも続いた。下痢や嘔吐はなかった。咳と微熱が気持ち悪かったが、何度も報道されていた37.5℃以上の発熱ではなかったし、万が一診断がついても治療があるわけではないと言い聞かせ、自宅療養を続けた。

この、症状が徐々にひどくなっていく時期が一番辛かった。いつもの風邪より咳がひどくなっていくので肺炎を心配したし、新型コロナウイルス感染なら肺炎から重症化する例が多いとのことでとにかく不安だった。症状出現の2日前が最も感染力が高いという文献もあった。友人の医師からは、新型コロナウイルスのPCR検査が陽性になった人の家族を検査すると、日中の接点が少なくほとんど無症状ともいえる人であっても陽性になることがあったことや、症状が軽微でもCTでしっかり肺炎像がある症例があると聞いていたから、もし夫が新型コロナウイルス感染だったら家庭内感染を防げるわけもないな…という静かな諦めすらあった。

夫の調子が悪くなって3日後、私にも全身倦怠感が出現した。いざ「まさか私も?」となると、心配になるのは娘のことで、夫が悪いわけではないのに諸悪の根元のように思えてイライラしてしまった。体調が悪い夫を気遣ってあげられないこともまた、ストレスだった。ただただ良くなることを祈り、急激な悪化を見逃さないよう注意深く過ごすうすら暗い日々。夜中に隣の部屋から聞こえてくる夫の長く続く咳は、さらに私を心細くさせた。

私自身の全身倦怠感は3日ほどで良くなり、他の症状は出なかった。娘は鼻水がやや多かったが、ずっと機嫌よく過ごしてくれた。これは救いだった。

問題はやはり夫だった。

50歳男性。6年前に禁煙。既往歴、基礎疾患なし。明らかな感染者との接触なし。風邪症状(全身倦怠感、喉の痛み、鼻水、咳)が1週間以上、37.0℃前後の微熱が4日以上続き、咳は増悪傾向で、痰は粘稠。味覚や嗅覚障害はなし。呼吸困難感はないが、わずかに胸の違和感が出現。

夫と相談し、いよいよ保健所の新型コロナウイルス感染相談窓口に電話することにした。全身倦怠感出現から8日目のことだった。

保健所の電話はすぐに繋がった。ニュースでは繋がらないこともあると言っていたので、感染者の比較的少ない田舎はこんな感じなのかもしれない。

女性の職員さんだった。
名前や年齢などは聞かれず、とりあえず「どんな症状ですか?」と聞かれた。上記のようなことを夫が話すと「職場や旅行などで感染者との接触の可能性はありますか?」と。ありません、というと、「熱はありますか?」と聞くので微熱のことを話すと「それは発熱とは言えません。」とバッサリ言われた。う、うん。わかってはいるんだけど…。
他には、同居の家族はいるかとか食欲はあるかとか嗅覚障害や呼吸困難感はあるかなどを聞かれ、家族構成と胸の違和感だけあることを伝えると、もう一度「熱はありますか?」「嗅覚障害はありますか?」「呼吸困難感はありますか?」と聞かれた(よっぽど重要視していることが伝わってきた)。ありませんと答えるとなんと「それは新型コロナウイルス感染ではありません。咳が長引く風邪はありますから」と言われたのだった。

「娘が小さく、胸の違和感から肺炎が心配です。今の状態でPCR検査やレントゲン検査だけでも受けることはできますか?」と聞いてみてもらったが、当たり前に答えはNOだった。「どうしても病院へ行きたければ、保健所に電話し新型コロナウイルス感染ではないと言われた、と伝えて受診してください」「自宅で様子をみて、熱が高くなったりもっとひどくなったりしたらまた電話してください」と言われ、通話は終了した。

丁寧に対応してくださったし、重症感のない我が家のケースにそう言う気持ちは理解できたが、断定するのは違うよなーとだけ思った。

電話を切った私たちはしばらくの間、呆然としてしまった。おばさんの謎の診断と引き続き様子をみる選択肢だけがポツンと残された。

仕方がないから、さらにひどくなったら(特に呼吸状態が)病院に行くという決意を固め、自宅内での夫の隔離をさらに厳重にし、薬は飲ませず、とにかく寝てもらった。私はこまめに夫の部屋をのぞくことにして、わずかな変化を見逃さないように気を配った。

そして保健所に電話をしてから4日目(症状出現から12日目)の朝、やっとちょっと身体が楽になってきたかもしれないと夫が言ったのだった。長い長い12日間だった。もちろんすぐにスッキリ良くなったわけではない。2週間以上経つ今も咳は続いているけれど、ひどい風邪と同じような治癒の経過をたどっているように思う。悪くならないというのは、本当に、同居人の身にも心にも優しい。おかげさまで、私も娘も元気に過ごしている。

5月8日にPCR検査の可否について「37.5℃以上の発熱が4日以上続く」という目安を外すことになったと報道があった。今であれば、夫は検査を受けられたのかもしれない。目安の項目変更に際し、加藤厚生労働大臣が「誤解」という言葉を含んだ発言をして物議を醸した。日本語って本当に曖昧だとしか言いようがない。確かに、あくまでも目安であって基準や必須条件とはいっていない。偉い人からすれば、現場の裁量をある程度残していたという言い分なのかもしれない。ものすごーく好意的にみれば、それを理解できないわけではない。しかし一つの保健所のいち職員からすれば、例外を作るのは大変なことだ。わかりやすい数字で説明するしかない。相談者も必死なのだ。PCR検査に偽陽性も偽陰性もあることも、重症でなければ自然治癒を期待し療養するしかないことも重々わかってはいたはずの私たちでさえ、やっぱり検査をしてほしかった。分かれば、何か手を打てるような気がした。

いま日本中で、世界中で、新型コロナウイルス感染対策のために、昼夜を問わず尽力してくださっている方たちがいる。だからこそ、誤解と言う言葉で責任転嫁するのではなく、専門家たちがより力を発揮できる誤解のない発言をしてもらいたかったなと思う。

夫は新型コロナウイルス感染だったのかもしれないし、違ったのかもしれない。私や娘についても?だ。今回私が対峙したのは、感染症に対する不安や恐怖(夫の体はなんらかの病原体と戦っただろうけれど)だったような気がする。たたり、疫病、流行り病、伝染病と名前を変えながら繰り返されてきた人類と感染症の歴史は、記憶になくても遺伝子に刻まれているみたいだ。明けない夜はないということも。

事態がより良い方向に進むことを祈るばかり。
たくさんの方々に感謝を送ります。
みなさま、どうぞご自愛くださいませ。

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