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無限金魚【#シロクマ文芸部】

 おはようございます。樹立夏です。
小牧幸助さまの、下記企画に参加させていただきます。
毎回言葉のチョイスが素晴らしくて、頭の体操になります。
大好きな企画です。ありがとうございます。

それでは、本編をどうぞ!

🐟🐟🐟

 咳をしても金魚。くしゃみをしても金魚だ。だったら欠伸は? ため息は? だめだ、全部、金魚だ。僕の口からは、とめどなく金魚があふれる。ぴちぴちと跳ねる、本物の金魚が。赤いやつ、黒いやつ、斑点模様のやつ。和金、琉金、出目金まで。

「ユウイチ、出店やろう。金魚すくいの」

 恋人のカレンは、僕の口から金魚が出てくることに、慣れてしまったらしい。早速、金魚すくい用の資材を検索している。金魚の数は、すでに百を超えている。そろそろ売りさばかないと、家全体が金魚に乗っ取られそうだ。ちょうど神社の夏祭りがあった。僕とカレンは、金魚すくいの店を出した。

「さあ! 金魚、金魚だよ! 綺麗な、綺麗な、金魚だよ!」

 僕の口から出てきた金魚は、動きがとろい。あっという間にお客に掬われてしまう。店は大盛況だ。それでいい。金魚の補充は、いつでもできる。濡れ手で粟だ。

 50人目の客が、金魚を掬って帰っていった。補充をしようと、店の裏に引っ込んだとき、異変に気付いた。金魚が、口から出てこない。

「カレン、金魚の供給が、止まる!」
「えっ! これからの時間帯が、稼ぎ時なのに!」

 いやいや、ふつうは喜ぶだろう。僕の「金魚病」が治ったのだから。とにかく、その日一日で、金魚は捌けた。僕の平和な日常が戻ってきた。

……と、思っていた。

一か月後、僕らの町は、パニックに陥った。

 僕たちが売りさばいた金魚の口から、止めどなく小さな金魚があふれてくる現象が起こった。SNSは大炎上。映像を見て気分を悪くした人が続出し、報道規制までかかった。増え続ける金魚たちを、川に流す人が絶えない。川は、町はずれの大きな湖につながっている。その湖は、早々に金魚でいっぱいになった。

 しかし、ある日。
 消えたのだ。金魚が。湖から。全部丸ごと。忽然と。

 誰もみな気味悪がって、その湖に近づくものはいなくなった。僕はどうしてもこの目で確かめたかった。金魚たちが、どこへ行ったのかを。カレンを誘ったが、即、断られ、僕は一人で湖に向かった。水面を網で掬う。金魚がいる気配はない。

一体、どこへ?

 その時、水面が震えた。湖を全部ひっくり返せそうなくらい、大きな大きな金魚が、水面から飛び出し、空へと駆け上がった。


 巨大な金魚は、空に消えた。

#シロクマ文芸部









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