最悪(16)
○森のタタラ場・中
昼間から博打と酒盛りに興じる長老達。
ウラ、琵琶を弾いている。
同じところで何度もつまる。
長老1「お頭。少しは上手くなって貰わんと」
長老2「こっちの頭が痛うなりますわい」
ウラ「我慢せい。目がかすんでもできる手遊びはこれくらいやけの」
長老2「あとは遊んで死ぬるだけですかいの」
と、長老3が飛び込んで来る。
長老3「お頭!」
○同・外
穴倉から出て来る長老達。
砂袋が沢山乗せられた大八車と、その横で百姓姿でへたりこんでいる修理。
ウラ「なんじゃそれは」
修理「父が残した蓄えだ。まだまだあるぞ」
ウラ「詫びのつもりか」
長老2「侮るな」
長老1「鬼は己が力で何とでも生きてゆける」
ウラ「どこまでも情けない男じゃの」
長老3「こんなもの!」
長老3、槍で砂袋を突く。
中から黒い砂が流れ出る。
長老達全員がどよめく。
修理「こんなものですまなんだな」
長老3、慌てて袋の穴をふさぐ。
ウラ「砂鉄か」
修理「蔵の中にはあるのはこれだけだった。父は税も賄賂も全て村の、いや代官の役目の為に使いきったらしい」
修理、立ち上がり長老達を見据える。
修理「タタラ衆長老連、並びにその長ウラの所払いを解く。これより黒金村に帰村し製鉄と後進の育成に当たれ。これは代官の命である」
だが長老達、こん棒や槍を構え修理の命をはねつける。
ウラ「これは長老連の総意じゃ」
ウラ、長老達と共に穴倉に戻る。
修理、よろよろと踵を返す。
○黒金村・川辺
土手で蝶々を歌っているサトと童。
その後ろで英語の歌を歌い通る百姓達。
百姓達のダミ声に顔をしかめるサト。
○同・村内1
百姓達、英語の歌を歌いながら選挙のビラを撒いて浮き足立つ。
その傍を、大八車を引く修理が通る。
百姓達、修理に気づかない。
○森のタタラ場・外(夕)
修理、一人で砂袋を下ろす。
遠巻きに修理を見つめる長老達。
修理、車を引いてまた戻ってゆく。
○高殿・中(夕)
火と砂を混ぜている若きタタラ衆達。
と、天尽と商人がぞろぞろ入って来る。
おずおずと近づくタタラ衆1
タタラ衆1「こりゃあ天尽さん。今日はどういったご用件で」
天尽「いえまあ。我々に構わず続けて下さい」
タタラ衆1「あの、その人らは?」
タタラ衆達、商人らを見る。
タタラ衆1「その、ここは神聖な場所ですけ」
手下1「誰に口聞いとんじゃ」
手下2「社長は構うなと言うてらっしゃる」
手下3「ええけ仕事に戻れや」
亀作、目を背けて炉の火を見続ける。
天尽と商人、ひそひそと話している。
○森のタタラ場・外(夜)
砂袋を下ろしている修理。
遠巻きに見ている長老達。
修理、遂に力尽き倒れる。
長老の一人が修理に駆け寄る。
長老1「ばかたれが。少し休め」
修理「代官の名において命ずる。これで鉄を……鉄を作ってくれ……」
もう一人が修理に変わって荷を下ろす。
長老達、次々と修理を手伝う。
修理、朦朧とその光景を見つめる。
○同・中(夜)
ウラ、岩肌に設えた神棚を見上げる。
穴倉には誰もいない。
ウラ、神様に向かって柏手を打つ。
○森のタタラ場・外(夜)
隅で休んでいる修理に、歩み寄るウラ。
ウラ「ついてこい。代官」
(つづく)
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