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手に収まるほどの飛行機

昼下がり、ふと、窓の外を眺めていると、丁度飛行機が飛んでいるのが見えた。

真っ青な空に、白く細く伸びる飛行機雲。まるで写真の一枚のようだと私は思った。

今日は水曜日だが授業を入れていないため、1日休みの日だった。大学生は人生の夏休みと言われるわけだ。

外で声がしたので顔だけ窓から出して上から眺めると、数人の学生が自転車でこのアパートの前を通り過ぎていった。

今日は昼から古本屋に行って面白そうな本を探そうと考えていたのだけれど、思ったより起きるのが遅くなってしまい、なんだか面倒臭くなってしまって今に至る。とはいえ部屋の中で引きこもっているのも精神衛生上良くない気がして、こうして外の景色を眺めているわけである。

何の気なしに、右腕を伸ばし、遠くに見える飛行機を掴む素振りをした。もちろん、その飛行機は掴めるわけはないし、ただなんとなくやっただけなのだが、不可解なことが起きていた。

その飛行機が、消えていたのだ。

私はギョッとして手の中を見た。すると、手のひらサイズの「小さい飛行機」が、まさに手のひらに乗っているのではないか。

「これは…」

とその「飛行機」を見つめていると、またそれがゆっくり飛び立った。私は慌ててその飛行機を今度は両手で閉じ込めるように覆った。指に、カツン、と何か硬いものが当たる感覚がした。指の隙間から覗くと確かにそれはいて、赤い光を発しており、こちらを攻撃しようとしているようにも見えた。

私は焦った。

得体の知れないものの得体の知れない攻撃だ。もしかしたら致命傷を与えられるかもしれない。

こんな時はどうするか…。

一瞬の判断でとった行動は、その閉じ込めている手をはなし、両手を上に上げこちらに攻撃の意図はないことを示すことだった。これは一か八かだった。この手段はお互いに理性のある同士でないと成立しないものだからだ。そのまま自分が攻撃されて終わる、なんてことも十分に想定できた。しかしその飛行機は自分の目線の高さを浮遊しながら、こちらの様子を伺っていた。

「あの…」

と私が口を開くとその飛行機はそのまま上昇し、大きく目の前を飛んだ。飛んだ後には白い煙--まるで飛行機雲のような--が残り、大きなハート型を描いた。どうやら相手に敵意はなく、むしろ私の行動に感謝しているように思え、私は一安心した。その飛行機はそのまま開いている窓から出て行き、そのまま姿を消した。

宇宙人だったのだろうか、と私は思った。

フェルミのパラドックス、という言葉を聞いたことがある。地球以外にも文明は存在しているのに、いまだに姿を現さないし通信もできないのは何故か、というものだ。実はもう、自分達が気付いていないだけで周りには宇宙人はいるのではないか。大きさも、今回のように小さいものがいても不思議ではない。もしかして、通信がつながっていないのも、ただ面倒臭いだけだったりして。

部屋に残されたハート型の飛行機雲もややもしないうちに薄くなって消えた。すっかり消えて見えなくなってから写真でも撮れば良かったと悔やんだがもう後の祭りである。

私はその飛行機が出ていった窓に目をやった。窓の外には、雲ひとつない青空が広がっていた。

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