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よくある語尾上げ・助詞上げ話法

 某ゲーム会社の新作発表会をオンラインで見ていて気になることがあった。ゲームについてプレゼンで喋っている人たちが一様に「語尾上げ」「助詞上げ」話法だったのである。

「来年の1月 リリース ↑ 決まっ  
『どきどきどんどこRPG』  テストプレイ動画  
ご参加いただいた皆様 だけに これからご覧頂きたい 思い ます
 それで 、映像  どうぞ!」
※ソフト名やセリフは変えています。どきどきどんどこRPG。

「語尾上げ話法」「助詞上げ話法」の「上げ」は発話するときの声の音程のことだ。言葉の語尾に当たる部分や、助詞(てにをは)にあたる太字部が、他の箇所と比べて音程が高くなっていることが特徴。語尾上げと助詞上げ、それぞれ検索するといくつかヒットしたので、この言い方はそれなり一般的な単語のようだ。

 そして、これがとにかく聞きづらい。プレゼンターはゲームタイトルごとのゲームプロデューザーやディレクターであったため、タイトルが変わるごとにプレゼンターも色んな方が代わる代わる登壇したのだが、全員判で押したように語尾上げ+助詞上げ話法。皆すべからく同じ喋り方なので、事前に示し合わせているのではとすら思った。あるいは社風の疑いもある(※注1)。

 プレゼンをするときによく言われること。
「抑揚が大事です」
 ただし、抑揚は付ければいいというものじゃない。特に語尾や助詞を強調しても、そこには大抵何もない。

「来年の1月 リリース ↑ 決まっ  
『どきどきどんどこRPG』  テストプレイ動画  
ご参加いただいた皆様 だけに これからご覧頂きたい 思い ます
 それで 、映像  どうぞ!」

 これだと、強調されるのが「の、を、だけに、と、ます、は、を」になる。極論、ここだけ聞き取れたとてなんの情報なのか手がかりひとつない。

「来年の1月 にリリース が 決まっ た
『どきどきどんどこRPG のテストプレイ動画↑ を 
ご参加いただいた皆様だけ↑ にこれからご覧頂きたいと思います
 それでは、映像をどうぞ!」

 一例だがこうすれば伝えたい情報が強調される。
「1月、リリース、どきどきどんどこRPG、テストプレイ動画、皆様だけ」
ある程度正解の的はあるものの、強調箇所のチョイスは発話者の個人的感覚によって幅が出ていいところなので、好きに選ぶのがいいと私は思う。

 強調箇所が無意味だと大事な箇所を視聴者に落とされやすくなる。また、幼く・未熟に聞こえやすい。つまり幼く聞こえさせたいとき以外は特にメリットない(いわゆる卒業式などの学校行事群読話法でもあるので、幼く聞こえるのも群読を想起させるからだと思う。その点で言えば、簡単に溌剌さが出せるというメリットもあるのか。それでもなお、大人が採用する場合デメリットのほうが大きいと思う)

 語尾上げ・助詞上げともに──特に助詞上げは── 経験上、無意識の方も多いようで、意識するだけで一ヶ月くらいでサラッと直ることも。簡単に直るのに直れば格段に聞きやすくなるので、オススメです。
 私は芝居づくりをしているのだが、アナウンサーやナレーション、あるいは声優の訓練を受けた経験のある人と芝居をすると語尾上げ・助詞上げがほとんど見られなくて惚れ惚れする。意識して訓練しないとできない特殊技能なんだなと痛感する瞬間でもある。あとは、その手の訓練されてるか不明だが、電車発着アナウンスでたまにめちゃくちゃうまい人がいるので、思い出したら聞いてみてほしい。情報重要度に応じて整頓された音程高低のアナウンスに遭遇するとテンション爆上がりだ。

 一方、視聴してる人の興味を維持するには、どう喋るかより誰が喋るかが大切なこともあるだろう。冒頭のゲーム会社の新作発表会についても、プロデューサーやディレクターが喋ってる箇所をすべてアナウンサーの方にお任せしたら、きっと今より情報はすっと入ってくる。
 けど、ユーザが求めているのって単に整理整頓された情報だけではない。そんな単純な道理じゃない。

 私はそのゲーム会社が好きだったから見ていたわけで、やっぱり有名なディレクターが登壇してくれるとそれだけで嬉しかったりする。その人の作品が好きであれば、やっぱり本人の言葉でこだわりポイントとか大変だった作業とか聞いてみたい。ゲームの魅力も、作った当事者しか語り得ないニュアンスがあったりして。
 そんな風に当事者固有の熱量や発話者のプロップスが、技術を凌駕することもある、あるのだ。

 ただ、さらに「ただ」を付け加えるなら、私は演劇を仕立てているなので「熱量があれば語尾上げ・助詞上げなんてどーでもいーんだ、本気でやれば技術を凌駕できるのだ」なんて自分ごととしては死んでも言わない。っていうかなんで二者択一なのさ。両方やってちょーだいよ。技術を蔑ろにしないと得られない熱量とかあるの? ねーよそんなもん。

 言い直します、ねーよ↑ そんなもん。

(終)

1:あるいは社風の疑いもある
調べたところ、助詞上げは関西方面の方に多いイントネーションらしいです。関西ルーツの会社のようだったのでマジで社風(というか地域性)かもしれません。


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