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故高橋幸宏氏のコメント動画に見る YMOによるイノベーションの私的解析

年末年始には坂本龍一氏が、ガンの進行に伴いフルタイムのコンサートは体力的に困難ということで、曲ごとに撮影されたライブが行われていた。これまでの坂本氏のイメージはあまり感情を表さず「教授」といった隙のないイメージであったが、Merry Christmas, Mr. Lawrenceの映像を見るとこれまでにないようなピアノや楽曲を愛おしむような表情が印象的であった。また去る1月11日に唯一無二な機械のように正確に刻まれるリズムと平坦ながら最高に魅力的なボーカリストであった高橋幸宏氏が亡くなられ、一つの時代が急激に変化していくことを感じる。

YMOは間違いなくperfumeやボーカロイドといった音楽に影響を与え、日本だけではなく世界におけるエポックメイキングであったことは疑いのないことでしょう。今となってはありがたいことに、私は中学1年のころにそのコンサートを目撃することができた。その頃からプロモーションの戦略であったのだろうが、無機質で特に現代で例えるならばプログラムで隙間なく作りこまれた音楽とファッションといったイメージであった。

しかし、昨日youtubeでYMOの初期から散解までの一連を映像とともに高橋幸宏氏がコメントしていくという動画が追悼とともにアップされていた。それまで疑問に思っていた、
「リズムマシーンがあればドラムはいらないのではないか?どこまでがデジタルでどこからがアナログだろう?」
といったことや、
「皆ヘッドフォンをつけているが、あれにはどういった意味があって、どのような効果があるのだろう?」
と当然の疑問はいつしか無意識の中に置き去られたままであった。

しかし、その動画を見てみると今の技術で言うと、ほとんどがアナログであることがなんとなくわかる。当たり前に考えればMicrosoft Windows 95がリリースされ家庭用パソコンが普及したのが1995年であり、YMOの結成が1978年なのだから当然であろう。動画の中でもYMOが活動を行う中でシンセドラムをメーカーと高橋氏が改良を行っていたようだし、メンバーが使用するシンセサイザーも当時日本では冨田勲氏や喜多郎氏がNHKの番組の楽曲に使用していたくらいで、それまでのロックではジャズをベースにしたピアノからドアーズの「ハートに火をつけて」のイントロで奏でられるような電子オルガンしかなかったのであろうから。

基本的にはシンセサイザーでも表現しきれないような音や表現を事前にあの箪笥のような大きな当時のコンピューターに事前にプログラムし、その自動演奏のスピードにドラムが合わせ、その他の楽器が演奏されていたようである。逆に言うと自動演奏のリズムに合わせて的確に演奏ができる技術を持っているアーティストが条件だったようだ。人民服をモチーフにしたファッションや今で言うプロジェクションマッピングを彷彿とさせるような光を使った演出、特に私の印象に残っているのはコンピューターによって描かれたようなロゴや字体も、ある意味アナログなイマジネーションの集積によるイノベーションだったのであろう。

確かに結成当初YMOは「グルーブ感の禁止」等の方針が示されていたようであるが、画面上の矢野顕子氏の様子を見ていても当初の演奏は高橋氏が「なんで怒ってんの」という様子であるが、元来アドリブとグルーブ感を信条とされる矢野氏は活動後半の演奏はグルーブ感バリバリであり、そこが海外で人気を博したようである。私が考えていたよりもYMOはそれぞれの個性のぶつかり合いによるアナログな芸術的イノベーションの集積だったのではないかと感じた。


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