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読書メモ37「つみびと」

私は、琴音で、蓮音だ。
私は子ども達を置き去りにした。

読み始めて辛くて進まなかった。
途中で感想を書いた。

読み終わってからまた書いた。

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最近読んでいる本「Sinners」を読み終えました。確かにこの本は私の心を痛めましたが、同時に私を救ってくれました。
先週、私はこう書きました。

「この数年間、私は薄い刃の上に立っているように感じていました。1ミリでも動けば真っ二つに切り裂かれるような気がしました。
その刃の上を歩き終えた今、老後の将来を心配させる人々から離れてリラックスする時間を取りたいと思っています。」

もし私が切られたら、本の世界に落ち込んでいたでしょう。私にとってはそれがぴったりです。
私の子供たちは私が立っている限界に気づいていなかったと思います。そうであることを願います。

でも、彼らはすでにそれを知っていたのではないかと思います。なぜなら、私は毎晩悪夢を見ていたからです。私はうめき声をあげて泣き、子供たちの名前を呼んでいました、と翌朝彼らは言いました。

読み終えたとき、私は泣きました。本の終わりにある春日武彦医師と著者の山田詠美の対話でさえ泣きました。

この世界の見えないすべての層。
自分と他の層の間の隔たりを破ることは簡単ではありません。自由に層を行き来できる人はほとんどいません。自分がその一人になれると期待しないでください。そうすると、がっかりして事態が悪化するだけです。
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中央公論社が特設サイトを作る気持ちも分かるほどのパワフルな小説だと思った。
取り扱う内容がセンセーショナルだとかではなく、文学としての力を私は久しぶりに感じたのだ。

山田詠美の新しい本は「ジェントルマン」以来かもしれない。
昔から持っていたものを読み返すことはたまにしていた。
小学生の時に、よく行っていた本屋で河出書房文庫の
「ベッドタイムアイズ」を読んで雷に打たれた。
ずいぶんマセた子どもだと振り返ると思う。
でも、血の滴るような新鮮さがあった。
古臭く説教臭い児童文学を読まされがちな私には特に。
その本はずっと大切に持っていた。
つい最近、母が私の本をすべて捨てたと知るまでは。
私には山田詠美の文章がとてつもなく豊潤だと感じる。
豊潤さがどんどん増しているようだ。
この本は私にとってStanningであった。

私が歩いてきた「1ミリでも動いたら真っ二つ」になってしまう道の先にあるのが、「つみびと」で描かれる世界だ。
幼い歌舞伎町の女王気取りだった昔に観察した世界に、
それらは存在したから。
児童相談所でも、養護施設でも、たくさん聞こえたから。
そしてそのあとに住んだ地方都市でもまた。

「つみびと」の世界は本当にそこら中にうんざりするほどあるのだ。
ギリギリで何も起きていないだけ。
実際その刃物の上には、誰もが思うよりもはるかに多い人数が乗っている。

人は、簡単に「そうでない方」に陥ることがある。
そうしない人は、それはそれでいい。
だからといって、自分とは違う人間を非難する権利を持つと思うのは
間違いだと思うのだ。
それを嘲笑することを、内心から出して表現をする権利は
あまり認められているとは思っていない、私は。

「貧乏だから」「学がないから」
そうかもしれない。
自分が助けを求めてもいい立場だと分からない人たちがいることを
分からない人たちがいることも知ってる。
全てを知っている顔してるよね、そういう人。

助けを求める先であった親が助けてくれなかったとき、
子どもは何を学ぶでしょうね。
助けてもらう価値が、自分にはないのではないかと考えると
思ったことはないのかな。
手を出せば誰かがその手を確実に掴んでくれた世界で生きてきた人には
分からない世界はきっとあるのに。
私が、誰かが確実に手をつかんでくれる世界が分からないように。

怒りが蓮音を生きさせる。
私はその点では蓮音だった。
汚い男の手で汚された自分を壊したかった私は琴音だ。
こんなに必死に生きているかわいい子どもである私を
軽んじる社会のすべてに対して私は怒っていた。
女で、子どもで、ひとりぼっちだった。
怒りは、私のガソリンだった。

オン・ジ・エッジ。
この言葉は私のある時期を正しく表している。
裸足で、その刃の上に立っていたのだ。
足の裏にその刃の感触を感じられるほどにリアルに。
何とか無事にわたり切った今、怒りが消えた。
怒りが消えた後、私にはガソリンがなく、
前に進めていない。

置いてきた私の娘は蓮音になったのだろうか。
それが嫌だから家族を持たないのだろうか。
彼女は傷付いているように見える。

だけども私は琴音のように彼女にかける言葉を持たない。
ギリギリで私は川の向こうまで泳ぎ切れた。

私には人の手が掛かっている!そのことを改めて思うたびに、琴音の胸はいっぱいなる。もがき苦しむ気力も体力も尽き果てた瞬間から、かけがえのないものが、自分の許にするすると流れ込んで来てくれたのだ。まだ七転八倒する余力が残っていたら、その大切さに気付けなかったかもしれない。暗黒の真っ只中にあってもなお輝いていた出会いを、実はずい分と見逃して来たような気もする。狂乱の渦に巻き込まれて気付かない内に、自分を生きやすく手助けしてくれる人々に会っていたのかもしれない。

つみびと | 山田詠美

そこらじゅうに転がっている人の心の中でおきることを、つまびらかに、美しい文体で書かかれているこの本を、私は人に読んでほしいと切に願う。

読後の感想を一言で言うならば、「ずたぼろ」。
おしまい


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