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さくら降る日の回想/小説

「私、生徒会なんてやるつもりなかったんだよ」

風が緩やかに吹く。
桜の花びらが彼女のスカートにはらりと落ちる。

知ってるよ、と答える。

「最初はね、ほんと入学したばっかりの頃は生徒会とか面白そうだなとは思ってたよ。でもさ、部活が楽しくなっちゃって。私は部活をちゃんとやりたいって思ったんだよね。だから生徒会なんてやってる暇ないって」

思い出すように少し上を見上げながら語る。
私は生徒会がやりたくて始めたけど、
彼女は違うと知ったのは
一緒に活動し始めてすぐのことだった。

先生から推薦状渡されたら断れなくてさ、
吹部だけ頑張ればいいやって
思ってたんだけどね、と。
困ったように笑ってた。

「でも、今はやってよかったって思ってる。
生徒会やってなかったら、
絶対私途中で潰れてた」

2年の頃は学年のリーダーとして、
最後の年は部長として。
責任と期待を背負いながら、
厳しい部活のトップとして走りつづけていた。

「私は頼るのが苦手なの。
自分はもっと頑張らなきゃって思っちゃう。
生徒会やってなかったら、
先輩たちと比べて自分を責めて
抱え込んでたんだろうなって。

だけど、生徒会やってたら
週に一回は部活行けないじゃない?
その日は誰かにお任せしなきゃいけない。
そのために、部長の仕事を
みんなに教えといたの。

面倒な仕事押し付けて申し訳ないなって
思ってたんだけどね、
実際は真逆だった。
すごく喜ばれたの。
部長に仕事任せてもらえたって。

初めて知った。
頼るって人を喜ばせることでもある。」

「確かに、生徒会で私に頼るようになったの
2年目からだもんね」

「そうね、その節は大変お世話になりました」

私たちの代で2年間生徒会を続けたのは3人。
私と彼女と、男子一人。
私は全体の計画、
彼女は実行、
そして彼はなにかと暗い雰囲気の漂う生徒会室を明るくするムードメーカー。

ちょうど良いバランスだったんだけど、
やっぱり仕事のほとんどは
彼女に回ってしまった。

最初は自分で全部やろうとしていたんだけど、段々と「この飾り付け手伝ってくれると助かるんだけどなあ」なんて言って頼ってくれるようになった。

「私だって嬉しかったんだよ、頼ってもらえて。この原稿会長にしか頼めないって、新入生用のパンフレット任せてもらったじゃない?あの時ちょうど会長なのに威厳ないとか言われて、やっぱり向いてないのかなって思ってたの。でも任せてもらえて、あぁ私はここにいてもいいんだなって。」
「そっか」

新しい日々が迫っている。
きっと新しく出会う人にすぐに頼るなんて難しい。
だけど少しずつでいいから、周りを頼って関係性を紡いでいきたい。

私たちは頼ることの素晴らしさを知っているから。

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