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Fantasmagorie 『冬霞の巴里』2022.3.25

冬霞の巴里 梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ初日
おめでとうございます。永久輝せあさん主演の復讐譚でギリシア悲劇『オレステイア』がモチーフということで、絶対好き!と喜び勇んで観劇してまいりました。

最高でした。(結論)
というわけでお礼と応援に長文感想をしたためておきます。メモをまとめ直したような形でまとまりがないです。
※作品をご覧になった後で、お読みになることを推奨します。よろしくお願いします。

はじめに

モチーフとなったギリシア悲劇『オレステイア三部作』を一読して、配役名と照らしていろいろ予習しながら行ったので、より楽しめて良かったなと思います。もちろん、全く知らなくても人間関係や物語の理解につっかえるところはなく、むしろ謎が深まって見えて面白いと思います。

台詞などは覚え書き程度なので細かい違いがあると思いますが、大目に見ていただけますと幸いです。贔屓目ありまくりですのでご了承ください。舞台の感想に客観性なんかいらない(暴論)。

1−S1 腐った街、巴里

ひび割れた屋敷の窓、鬱蒼とした夜の雰囲気と、チープなアコーディオンの音色。引割幕の奥から現れる3人のエリーニュス。
幻想的な衣装とメイク、サーカスみたいでめちゃめちゃ凝ってて可愛い。紫ロングと緑の髪と青の髪の子がいて、紫は一応男役の衣装なので芹尚さんだとわかりました…この時点で世界観がバチバチで好きの予感が凄い。
エリーニュスたちの踊りと歌から、屋敷の中に幼少期のアンブルとオクターヴと思しき影が映しだされる。逃げてゆくアンブル。音楽の物悲しさが合っていて、行間を読むオタクはもう泣きそうです。

「悲しみの始まりはどこ、終わりはどこ?」という歌から始まる、この物語を漂う、前も後ろも見えないような苦悩と、その表象としての復讐の女神たちが舞台を見守る構図が通して印象的で見入ってしまいました。歌声もとても綺麗でした。

場面が切り替わり、パリの民衆のプロローグに紛れて、幼少のオクターヴが一瞬だけ見える。
現在に移り変わって、巴里の華やかさとアナーキズムの跋扈した情勢を歌う人々、中央奥から登場するオクターヴの

「ただいま。この腐った街、巴里」

言うねえ!!第一声から言うねえ!(癖を)(大喜び)
衣装は赤のフロックコート、ベストと柄はパンフレットのやつで、スラックスは赤いラインが入ってて、御髪は中明度・中彩度のブロンドだ〜〜美!!ずっと思ってたんですけどこの柄、どこから持ってきたんですか有村さん…テクスチャにして配ってください…。
極めつけに黒のマントをエリーニュス(アレークトー)に着せられて、そんな演出最高すぎる、この時点でメインディッシュ出てきたけど大丈夫ですか?
テーマソングの「過去に霞むこの街」のとこ、手をこう、前にかざしてヴェールみたいにする振り付けめちゃめちゃ良いです…5億回見たい…

1−S2 不幸には入口も出口もない

聖乃さんの謎の男はじめ下宿の面々と対面するんですが、…ヤッッッバ…オラオラしてるヴァランタン似合う…めっちゃ似合う、語彙が足りない、とにかく何か、めちゃくちゃ良い…。アナキストの一匹狼感と仲間の輪からは外れない絶妙な距離感が見えて、信用ならなさと厚意の置かれ方のアンバランスさに、陰があって良い佇まいだなと思いました。
侑輝くんの学生シルヴァンは、医学生だが近頃はアナーキズムに傾倒しているらしい。美空さんの新聞売りシャルルはヴィランに憧れているらしい。最後までこの面々とヴァランタンとの矢印が効いていて震えました。
特に、オクターヴにむけてヴァランタンが言う「ここでは本心に従うと命取りに」という台詞。これが忠告のようでいて、自戒だったと後々わかってくるので、どんどん心がズタズタにされていきました。

下宿の訳あり貧乏たちの紹介ナンバーのサビかな、「終わらないし始まらない」というフレーズがまたテーマにつながっていて、どん底の暗闇の中を生きてゆく貧乏宿の連中と、オクターヴの抱える復讐心、今の苦しみとがリンクして、下宿がオクターヴと姉のアンブルの今の居場所だということになる。

育ちの違うオクターヴは始終ツンケンしてるんですが、アンブルが帰ってくると弟スイッチがオンになり、言わずもがなこれがまたずるいでしょ…。
オクターヴの一人称が「俺」で、「私」か「僕」かと思ってたのでちょっと意外だったんですが、まさかの、家族と話すときには「僕」が飛び出してくるし、声色がちょっと幼くなるしで……
アンブルの「話し方を忘れたのかしら?」がめちゃめちゃ姉、返しが「ごめん」でめちゃちゃ弟。助けて。急に可愛いが氾濫した。

1−S3 姉弟と両親と婚約者たち

姉弟が復讐を誓った義理の両親のギョーム(飛龍さん)とクロエ(紫門さん)の元、実家の屋敷に昼食会の名目で集まると、ギョームとクロエの息子、オクターヴの異母弟の法学生ミッシェル(希波くん)とその婚約者エルミーヌ(愛蘭さん)と対面するオクターヴとアンブル。
紫門さんの声、奥方様って感じで低くて、背がたっかくて、そうだ男役さんだった。(すっとぼけ)美人すぎて思い出す余地がなかった。

台詞の一つ一つが状況の暗喩だったりするのがまた好きな演出で、例えばこの昼食会でのギョームの「なんだこのナイフは、ちっとも切れないじゃないか。もっと切れ味の良いものを」がこの歯切れの悪い会話に絡んでいたりとか。そういうの、好きです。

さらに、アンブルの母への言葉がまあ全部辣付きで、話を振られては
「一人で生きていくには仕事が必要ですもの(あてつけ)」
「数多の紳士を泣かせてきたお母様には似つきませんわ(あてつけ)」という皮肉っぷり。
それを聞いて「まあ!そんなにたくさんお恋のお話が?」と返せるエルミーヌの無邪気さがいっそう辛い。この婚約者たちは不幸せな過去なんてなくて、知らないものはまず想像しないから。

そして、幸せな義理の弟たちを見て「これくらいの年の頃こんな風に笑っていただろうか」「笑っていたかしら」という姉弟の歌う歌の反語表現に切なくなる。自分たちから奪った相手の息子たちは、何も奪われていないのだと思うと、憎しみは増すのに、彼らから、自分たちがされたように奪っていいのか、と復讐の正当性はわからなくなる。
ああ…ナイスワークの時はあんなにハッピーだった食卓が…

雨の中を昼食会から帰る姉弟二人が「父さんが死んだことなんてまるでなかったみたいに」と話すところから、父が死んだ日のことを語るオクターヴが、本当に絵になる。エリーニュスたちと同じように、死んだ父親のオーギュスト(和海さん)が亡霊として舞台上に現れる、ファンタスマゴリー要素だ〜!タイトル言われた時から期待してました、好きです。
雨に打たれるオクターヴと、思い出の中の夕陽に取り残される少年と、取り落とした傘。

1−S4 セイレーンとアナーキスト

復讐計画を決意して、情報収集のために歌手を務める姉の劇場に通うオクターヴ。劇場では『オデュッセイア』に登場するセイレーンに扮するアンブル。
最初の衣装の色違いでグレーのテールコートと黒シャツ赤スカーフタイ 襟付きのベストにボタン飾りあり は?新ビジュアルの度にダメージ入って声出そうになる。

っていうかモテてる!!!オクターヴモテてる!!それは花男のモテ方だよ!!その場にいるだけで目を引く「憂い」を纏った男…カサノバなのにカサノバじゃない…(?)
「僕も記者なんだけどー!」っていうモーリスくん(海叶くん)安心して欲しい、ちゃんと仕事してるのは君の方です。
あと劇場のモブに紛れてるらいとくんの金髪ショート紳士スタイル好きだ。

劇場の裏通りに出ると、ヴァランタンに喧嘩を売られ、訳を聞くと「義理の父ギョーム(警視総監)の命でアナーキストたち(ヴァランタンたち)を監視しているのだろう」と言いがかられる。これにキレるオクターヴの「それは俺への侮辱にも等しい。」……台詞がいちいちお洒落すぎるんですが。ルサンク出ないんか?なんで?本当になんで?脚本だけでも文字で欲しいです。
敵の敵は味方理論で共同戦線関係に落ち着くヴァランタンとオクターヴ。それでもって、この場面に仲間としてシルヴァンがいるのもちゃんと布石なんですよね…思い出せば思い出すほど脚本上手い……対して褒める言葉の持ち合わせが足りない…!

「腐った街」と言い放つぐらいだから、オクターヴは搾取する側の支配層も嫌いだし、無政府主義の無秩序さも嫌っているのかなと思います。復讐相手への嫌悪に含まれる「身勝手さ」が自分が復讐をする理由に通じているとしたら耐えられないから、この憎しみを晴らす行為に対して「正しさ」を求めてしまう。それさえも己の勝手な言い分だというパラドックスにがんじがらめになっているように見える。
「(復讐を果たすことは)俺の正義だ」と独りごち、言い聞かせるようなうらぶれた感じが、もう良くて良くてダメだ…好きなだけ悩め…そこに正解はないんだから……。

1-S5・1−S6 歪な家族像

慈善会の記憶これしかないと言っても過言ではない。
剣術の手合わせのためにジャケット脱いで後ろを向くとシャツもベストの裏地も手袋もスラックスもブーツも全身真っ黒で線の細さが際立って最高でした。

クロエの「私の大切なものを奪った」は、やはりエピゲネイアがモチーフみたいですね。この辺りから、父親のオーギュストが殺された原因がほのかに見えてきます。クロエがオクターヴに「オーギュストの子に違いない…!」と忌避の感情を見せるのも、上手い伏線だなあもう…そしてまた亡霊として舞台に現れるオーギュスト。

永久輝さんのお芝居の好きなところは言外の表現で感情を伝えるところなんですが、ギョームを剣術の手合わせで本気になってしまい殺しかけるときの、周りが慄いたあと一拍子遅れて自分の行動に気付いたり(ちゃんと周りも復讐心に勘付いて話が進む脚本のフォローもいい)、エルミーヌとの散歩に最初は乗り気じゃないのに、ステップを踏んでオクターヴからダンスに誘うことで「この時間を楽しみ始めている」という心の変化が伝わってくるのがたまらなく見ていて楽しいです。

1−S7 夜に向かうパリ

そのあと、エルミーヌとの会話で「今日は本当に楽しかったよ」からの「ありがとう」があまりに穏やかで「さようなら」に聞こえる。

彼女と別れ、夕暮れ時のパサージュで父親殺しの実行犯であるブノワと対峙するオクターヴ。問い詰められたブノワの「今さら事件を掘り返されちゃ困るんだよ」という自白を聞いて、突然楽しそうに笑って、「俺は今許しを得た!」って……。それまでは実行に移すかまだ迷っていたオクターヴが、復讐に正当性があると分かった途端それを躊躇わなくなる。
敵に銃口を突きつけての、

「黄昏の、沈む夕陽が、父さんの血を黄金色に染めていた」第一回天才台詞朗読会ノミネート……………………。

撃ち殺してからの、
「父さん、見ていてくれましたか」
「父さん…?」
オクターヴにはずっと父さんの亡霊が見えていて、それから「解放されると思った」行動だったのに、その瞬間には亡霊の姿が見えない。報復しても解放されないことはクロエとギョームが未だにエリーニュスに囚われてることからわかるようになっているし、終盤で台詞にもあって、オクターヴにとどめを刺すんですよね。は〜〜話が上手い。今感想というか状況説明しかできてないけど、見てくれた人ならこの一連の緊迫感を分か…りますよね…。

銃声を聞きつけて戻ってきたエルミーヌに、オクターヴは嘘をつく。
「最初から、ずっと初めから君がいてくれたらよかったのかな」って、それでも彼の人生にエルミーヌはいなかったのが現実で、過去は変えられなくて、姉さんじゃないと自分の傷をわかってはくれないし、何も知らない幸せなあの子の優しさは苦しいし、苦しみを分かち合うために巻き込むこともできない。
オクターヴはエルミーヌを最初から選べやしない、アンブル、姉の元にしか居場所がない。姉に似ているかどうかをしきりにエルミーヌに聞く彼に、どこか不安げなものを感じて、そして、本当の姉弟なら嬉しいのだろうか、本当に姉弟なのだろうかと考えさせられる。

赤いライトの下に苛烈な感情を追い立てるようなエリーニュスたちに囚われるところの演出がたまらない。オレステスが復讐を終えたあと、その罪をエリーニュスたちに咎められ、つけ回されることになるシーンに近いなと思いました。とても見たかった、嬉しいです。

演出も凝ってるし台詞回しも洒落てるし展開のテンポもいいし各々の見せ場があるしで、前半ですでに満腹感がありすぎて中枢がおかしいんですが、この先の鮮やかな伏線回収、タイトル回収、からの決着の着かせ方、あまりにツボをついてきて、え、円盤もルサンクもないのにどうしろっていうんですか!?!?

2−S1 ねがいごとは何がいいとおもう?

二幕の始まり、少年オクターヴの誕生日の夢。彼の隣にいるのは知らない少女。
願い事を込めて蝋燭を消すのよ、と周りに促されて、オクターヴはその少女に問いかける。「何がいいと思う?」と、そして少女は答える「誰かに聞いてはダメ。自分の心に従わなくちゃ」と。
実は一幕からエリーニュスやオーギュストと一緒に登場しているので、亡くなっているのでは、と察せられる。

2-S2 復讐で繋がれた姉弟

ブノワ襲撃時の手当てを受けて、下宿で目を覚ましたオクターヴにアンブルが看病にきて、オクターヴの解けたタイを結ぶ。

タイを、結ぶ。(重要なことすぎるので2回言います。)

百遍言われてるけどタイを結ぶのは縛る側、結ばれるのは相手に縛られる側と江戸時代から決まってるんですよね!!!!アンブルが、支配してる側ってことで!!!!いいんですよね指田さん!!!!

「僕がどこまでを罪深くなっても、ずっと姉さんでいてくれる?」と縋る弟を抱き寄せるアンブル。
復讐によって、この苦しみに終わりが来ると思っていたのに、そうじゃなかった。暗闇の向こう側が見えない、と姉には全てを打ち明けられるオクターヴ。
でも、声を荒らげると「答えろよ!」なんですよね…「答えてよ!」じゃなくて、「答えろよ!!」この裏腹さ、不安定さ、堪りませんね…

舞台の奥では幼い頃の2人が同じように寄り添っていて、でも今は「ずっと」の言葉の空虚さに、それでも甘えている。
「姉弟じゃなかったらいつまで一緒にいられるだろうか」と言う歌詞、言葉選びが本当に巧いこと本音を覆う感じがして、「姉弟でも、そうでなくても、こんなことになってはどのみちずっと一緒になんていられない」という意味合いだと個人的には思ったんですよね。今は、姉には縁談があって、自分はもう人殺しで、そんな自分と姉弟としてずっと一緒にいて欲しいと思うのに、姉さんの人生を邪魔できないとも思っているようで。そうすると、今度はアンブルの方が、何か他の呼び名がなくては、弟と一緒にいられないと嘆いているようにも聞こえました。だってアンブルは、実の弟じゃないと知っているから。

たびたび舞台に半分だけ引割幕を引いて隠すという演出でのシーンの切り替えと対比が面白かったです。演出効果もだし、ファンタスマゴリー感もあって。
例えば、姉弟が寄り添っているシーンの反対側で、ヴァランタンとシルヴァンの言い争いがあって、そこでそれぞれ二人を繋いでいる感情や関係性は同程度の強度という式になるんですよね。指田さん人間関係の仕込み上手いな…。

2-S3 冥界にいるのはどちらか

「手を汚してしまったら、もう冥界からは出られないんだ。でも、寂しいから、誰かを道連れにするんだ」
劇場で冥界のセイレーン役を担うアンブル、でも実際に沼底にいるのは自分だと思っているオクターヴという対比かなあと思いました。

悪夢を見てグロッキーなオクターヴを心配するミッシェルがこれまた良い人すぎる。自分の婚約者がフラついたのに何一つ突っつかないの、理解を超えるいい人。なんならオクターヴを挟んで座っている婚約者たち一括りですごいよ、ふつうに恋仲で隣に座りなよ。

恵まれた家庭に育って、傷も陰も持ち合わせない、潔白な人間の無力さ、ミッシェル自身が、それが「無力」と言うことをわかっている(そして許して欲しいと言う)というのが、またそれが人間の一つのコンプレックスで沁みるんですよね…。
傷つけられたことのない人間は、傷痕を分かち合えないという、無傷の罪…。

ミッシェルとエルミーヌは他の登場人物たちにとっての、「憧れ」「希望」のようで、そしてそれはあまりにかけ離れて眩しすぎる存在で、やるせないな…オクターヴだってこんな自分の過去を望んじゃいないのに、運命の前に彼もまた無力なんだよな…。

2-S4 失われた記憶

アンブルに結婚を持ちかけた織物工場のブルジョワ、求婚者ムッシュ・ボヌールがテロリズムの標的となり、シルヴァンが劇場の爆発を企むところに遭遇したオクターヴがもみ合いになって怪我をしてしまい、下宿のジャコブ爺(一樹さん)に手当てをしてもらう。
ジャコブ爺は元医者で、昔はオクターヴの家の主治医であったと明かすところから、彼の本当の出自と過去の全容がようやく分かってくる。
(オレステイアでいう「長老」の配置かな)

いやもう……こんなんが巴里によくある話でいいのか…????良くないよ(怒)

2-S5 一緒にするな

自分が唯一信頼のおける相手、居場所だと姉を見ていたけど、血のつながりがないとわかって、姉ではないとわかって、世界のどこにもいられないと、追放されるオクターヴはアテナイに向かうオレステスに重なるなあと思いました。

失意のなか、自分と同じような(孤独な)相手だと踏んでヴァランタンに寄りかかろうとするも、ヴァランタンの本心は違って、血や同胞を大事にしていた。アナーキストだった両親はギョームの手にかかり、その傷からか他人深く踏み込まないのに、シルヴァンが捕まったと聞いたら、それもまた同じ傷から仇を取ることを選択する。血の繋がりも同胞への義理も、復讐に足る理由として彼は受け入れていた。
このタイミングであっけなく見放されるオクターヴ、可哀想で本当に可愛い。同じように両親を亡くしているのに、追従するほどの盲目さを持ち合わせていないオクターヴ。でもそれは、その苦悩は、たとえ父親の呪いだとしても、私は人として正しい葛藤だと思うんですよね…。

2-S6 復讐劇

大晦日の日、集まったヴァレリー家の使用人に紛れているヴァランタンと扮しているエリーニュスの4人の絵面が好きすぎるので舞台写真ここお願いします。
なかなか決行できない姉弟より先に、ヴァランタンがギョームの襲撃に乗りだす。
「このブルジョワが!!てめえらが快楽に耽るとき、俺たちから搾取したものを何か返してくれたか!?」良い〜〜〜〜台詞また言う……好き……

ヴァランタンと出会ったときの「ここでは本心に従うやつはうまくいかない」的なことから、彼の謎の中身、身内思いなところやブルジョワジーへの怨みをここで明かすことになって、オクターヴはそれを見て瞬間的にはまた復讐の理由を見出して「覚悟が決まった」なんて言うけれど、オクタはずっと「自分の本心」がどこにあるのかをさえ見定められないでいるように思う。
そこに「イネスの本当の心」と言う最後まで見えない、霞の向こう側、引いて人間の心があるんじゃないかと思います。
誕生日で、彼が願い事を決められないのはそういうつながりかなと思います。

復讐の最中、どうしてもとどめをさせなくて、

その訳は、自分の知っていた父さんが自分の思ってた「良い人」ではなかったからで、

事実を知ってなお、知りたかった真実には辿り着けず、
1幕では自分の目的は正義の命ずるところだと言い聞かせていたのに、そればかりが崩れ去ってしまって、目の前の仇さえ悪人ではなかったことを突きつけられてしまうし、どうしたらいいかわからなくなった、という感情に発せられた

「誰でもいい…俺に命じてくれよ!!」


はっちゃめっちゃに好き!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
とんでもなく完璧なタイミングで叫ぶから、衝撃で時が止まったかと思った。この上なく切羽詰まって、抑え込んでいた感情の整理がつけられなくて、でも取り返しはもうつかなくて、というないまぜになった心情がその一言で一気に放出されて、こちらに流れ込んでくるような瞬間だった。
ありがとう、本当に最高の発声だった。忘れません。

誰も命じてなどくれない。苦しみの中で、見えない正義と真実を、たった1人でもがいて、求めて、彷徨わねばならない。

…その先には一体何がある? …誰かいる?

折り重ねるように繋がれるクロエの…「いつまでも愚かな私たちなのよ」「血には血を。至極当然のことよ」という台詞。もうこちらに刺したナイフをさらに深く刺すための台詞ですよ、凄い。人物同士の会話としては成り立たないのに、台詞としては綺麗に入ってくる。脚本も凄いし、紫門さんも凄い。

「誰も憎まずにいられたら、良かったのになあ…」と下手を向く横顔が苦しそうで、涙が落ちるのが見えて、なんて綺麗なと反射的に思いました。「どうしてこうなってしまったのかしら、そうでないときもあったはずなのに」と、アンブルはただオクターヴに寄り添っているだけ。その姿があくまでも姉で…でも姉じゃなくて…彼女も命じてはくれない。
「復讐をやめる」という意味で、最後はヴァランタンを切り捨てるオクターヴがいなきゃいけなかったんだと思います。それは「答えが出ない」という苦悩からであっても、復讐することの甘美さに対して、最後までその行為の正しさを疑い続けたオクターヴという1人の主人公の格好よさでもあります。

そして願わくば、彼を押しとどめたのが、ミッシェルやエルミーヌでもありますように。

2-S7 そばにいてくれる人

また、オクターヴが最終的に復讐を思いとどまったのは、アンブルがいたから、アンブルがいるからだったと思います。
(参照:これまでの永久輝せあ復讐コレクション→実行理由:大切な人がもういないから)

それに縋るしかないから、だからアンブルは、この先もずっと「オクターヴだけの姉」なんですよね。「嘘」だけれど、一緒にいるためには「姉」という選択肢しか残らない。
真実を求めた最後に、嘘を選択するんだ…。

「僕だけの姉さん」

とんでもねえ台詞…
見つめ合った後寄り添って去ってゆく二人で幕。
並んだ2人のお衣装がいい具合にお揃いで、二人で一つであること、を二人で確かめ合っていく感じで、えも言われぬ感傷が素晴らしかったです。

血のつながった姉弟ではないのに、姉弟という関係性でしか結べない"過去"と"罪"の証

(結論)良すぎ

良すぎるのにさらにフィナーレで吹っ飛ばされた。
なんなら芝居終わったとき面白すぎてフィナーレで殺されるのが嫌でここからは後日でとお願いしたかった。

お衣装はボタンキラキラ黒燕尾に渋い赤のベスト、娘役は赤いドレスに黒のラインが入ってたかな?しもんさんの娘役フィナーレ!!拝んだ。拝む以外に何かできることありました!?
あすかちゃんの今回のメイクめちゃくちゃ凶悪(人外好きに攻撃力が高いという意味で)なのにそれで燕尾着ちゃっちゃっちゃっちゃもうよ(人生の終わり)

おててのふりがめちゃめちゃいいし
あーーーメインの男役同士で組んでバンバン踊るじゃんヤッターーー!!!!らいとくんでかーーー!!!(大騒ぎ)(もう力尽きている)


そのほかのもう文章にもできない感想

・場面転換うますぎるんだが!?登場人物それぞれ、小さいけどちゃんと人物としての見せ場、物語のトリガーになっててすごいやりがいあるじゃん 私だったらどの役でも嬉しいです。(謎のやる気)
・細かいセリフだと プチパリジャンの記事を読み上げる歌詞で「新種のダイナマイト」って言ってたのがシルヴァンが持ち出すのに繋がるとこ すき
・あとギョームの失態がヴァランタンの犯行動機に繋がる回収も良かった 
・ひとこちゃんがナイフもレイピアも拳銃も素手も使うし、撃たれるし蹴られる(散々)
・オクターヴ、モヤモヤしてる時口元がむにゃむにゃしてて 可愛いねえ ネコチャンだねえ(ガバガバ)
・少年オクターヴのお芝居もめちゃくちゃ良かった…とても心地いい声してる…
・しもんさんから生まれてないじゃんかよーーーー!!!!(スチールと前提情報に踊らされまくった)
・出ました!!!!雪組お得意幻覚ムーブ(得意なのはイケコと田淵と生田だよ)
・記者のモーリスくんがぐう優秀。
・下敷きになっているオレステイアのアポロンと違って、ヴァランタンはオクタに赦しも正義ももたらさない、どころか最後に突き放すのがたまんないですね。神様じゃないから。
・オレステイアのエレクトラとオレステスは姉弟以上の感情が詳しく描写されてはいないんですが、「供養する女たち」で再会する二人はかなりお互いのことが好きなんだなあ、と思ってたので、こうきたか……と……思いましたね…
・うわ〜〜〜〜真ん中で贔屓が歌ってる!歌声が綺麗ですねえ!!なんて言ってたかわかんないけど!(完全に処理落ち)のため本当に歌の内容の感想だけすっぽ抜けていて申し訳ございません。
・復讐劇の幕切れが花火と「新年」で閉められるの、情緒が凄い。龍の宮の終わり方も好きだったけど、この余韻の残し方、場面の切り方、好きなんだよな〜!これからの作品も楽しみだ〜!
・あとなんだろう 全員ありがとうございます。全員健康で長生きしてください。

おわりに

もうこんだけ散らかしたので白状しますと、復讐譚がかなり好きなジャンルで、登場人物たちの「息のし辛さ」に人生を見ては歓喜する人間なのですが、どうしてかというとなんと答えたものかなあと思い巡らせます。

復讐には、おそらく「正義」はないんです。己の心から発する憎さが原動力なので。そして、個人の抱く感情は、そのたった一人の持つもの。その人物しか持ち得ない無二のものだと思います。
本心に従えば、と自問しながらも、オクターヴは自分のそれがわからない。彼の「憎しみ」は確かに憎悪だったけれど、殺意ではなくて、喪失と孤独による飢えによっているような感じがありました。
明確に線引きはされていませんが、復讐を実行したヴァランタンは「悪党」で、オクターヴはその対置なのではないかと思います。でも、悪の反対は正義じゃないとも思います。そういう決着の付かなさを蔑ろにしないでまとめてくださったので、本当に、口数は多くなるしでも「天才か」としか言えないしで、ここまできてしまいました。
ミッシェルのような、無力で、他人の強烈な孤独を埋める手立てを持てないということ。だから唯一と言っていい手段として、物語という嘘から、あるかもわからない孤独に触れたいと、せめて知りたいと思う。そしてまたフィクションでなら、あの人の孤独を埋めることができる。
こういった「嘘」という「救い」の手立てを今作はアンブルが担っていたのだと思います。(例えば、『ファントム』のクリスティーヌのように)
お話の中で言えば、オクターヴが求めていた「一人でいたくない」を慰めてくれる人。それがまた役割ではなくアンブルという一人の強い意志によって成り立つことで、嬉しいような心地が最後に残ってくれる。
こういうことをしばしば考える性格なので、本当に刺さる舞台に出会えてよかったなと、さらに好きな人が真ん中でありがたすぎるなという気持ちでいっぱいいっぱいです。

千秋楽まで無事に上演されますよう、お祈りしています。
長々と乱文を失礼しました。お読みいただきありがとうございました。
最後に一つだけ、

Blu-ray出してください!!!!!!!!!!!

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