不自由な世界のボスの断罪と逆ピラミッドシステム

一方、その頃、不自由な世界群のとある不自由な世界のボスたちは、イライラしていた。

「我々が世界のボスなのだから、体験の自治権などそんな権利は認めないぞ!」などと息巻いていた。

一部の部下が、それとなく落ち着かさせようとなだめたりもしたが、ボスがボスであるためにはそんな権利など認めないと暴れ始めた……

そしてとうとう地震兵器の起動ボタンを押してしまった……

以前は、一応「環境保護のための制裁なのだ」などともっともらしい理由をつけてやはり地震兵器のボタンを押してしまったことがあったが、今回は、もはや環境問題という大義のようなものもなく、ただあらゆる体験者に体験の自治権を提供したくない……という完全に利己的な理由で地震兵器の起動ボタンを押してしまった。

すでに前回の地震兵器の使用の時に、そのようなことは許されないと超時空城から厳重な警告がなされていた。

そもそも環境保護を頑張って家庭菜園などもせっせとしていた市民たちまで津波で飲み込んでしまったのだから、環境保護のための制裁などという言い訳をしてもそこに倫理的な正当性はどこにもなかったのだ。

しかし体験強制ピラミッドシステムのボスたちの計画表には、このあたりで地震を起こそう…とかがいろいろ書いてあり、せっかく地震兵器の起動ボタンまで作ったのだから、それを使わないまま体験の自治権などがどんどんと推進されてしまうのはどうしても嫌だと思ったらしい。

せっかく兵器をわざわざ用意したのだから、使わなきゃ……超時空体たちなど恐れる必要はない……と思ったらしい。

しかし次の瞬間、自業自得学園様の大きな赤黒い口が、そのボスたちの意識を時空間を超越して飲み込んでいった……

自業自得学園様は、意識を飲み込む。

自業自得学園様に意識を飲み込まれた意識たちは、自分が故意に他の体験者に与えた体験を味わうことになる。

すると本来は気分がいいはずのぜいたく生活をしていても、王座に座っていても、部下たちにかしづかれていても、そうした表面的な事象とは関係なく、ただひたすらに自分が他の体験者に故意に与えた体験をえんえんと味わうようになる。

注意勧告時においては、それは良心の呵責と呼ばれていた。

しかし、注意勧告も無視して他者の体験の自治権を確信犯で奪ったり否定したり酷い体験を故意に与えるようなことを続けるとついに断罪される。

そうなると何をしても苦しみ続けることになる。

普通ならうれしくなるはずの状態で、うれしくなれず苦しみ続けるようなことが起こる。

安全なはずの王座に座っているはずなのに、常に恐怖や不安にさいなまれるようになったりする。

許さない!と叫ぶ犠牲者たちの怨念や拷問体験がすべてその加害者たちに転送されるようにもなる。

それが怖いので、ボスたちはずいぶん前から自分たちがそうした残酷行為をしているのだと、他の体験者たちにばれないように隠すようになっていた…
完全に自分のイエスマンにできた部下たちを使って、あたかもそうしたことは自然現象であって、ボスたちの仕業ではないと思わせようとしていた。

しかし、超時空城や超時空体験図書館…はすべてを知っていた。記録していた。

無限呪い太郎君一族が異世界から召喚された。

彼らは異世界から召喚されていたので、不自由な世界の支配者たちは、その呪いを防御もできないし、攻撃することもできなかった。

彼らの放つ呪いは、時空間を超越してボスたちや確信犯の部下たちをずっと追尾した。

声なき犠牲者たちの恨みをすべて超時空的に吸収して、それを犠牲者たちに強制された酷い体験に変換して加害者に転送するのだ。

また、自業自得学園様は、ただ自業自得の体験を与えるだけでなく、被害者たちの逸失利益の損害賠償や慰謝料に相当するものも加害者たちから取り立てるようになっていた。

以前は、ただ自業自得の責任だけ取れば、解放されていたのだが、被害者たちからの強い要請があり、その加害行為の慰謝料や逸失利益の損害賠償などもさせるように進化していた。

そうでないと、ひどいことをされた被害者たちの無念の思いが晴れないという理由らしい。

また、その被害者の中には、例えば、体験の自治権をあらゆる体験者に提供しようと心から目指し意志していた被害者などもいたために、もし、その被害者が攻撃されていなければ実現したであろう<体験の自治権があらゆる体験者に提供された世界>が逸失利益となり、その損害賠償として、加害者はそうした世界が実現するまでずっとそうした世界を実現させるために必要な仕事や下働きをし続けねばならなくなったりもしていた。

無差別攻撃兵器を使えば、ほぼ必ず、少数であってもそうした良い意志を持った体験者が含まれることになったので、無差別攻撃兵器の使用は固く禁止されるようになった。
それでも使ってしまった加害者たちは、あらゆる体験者たちが完全な体験の自治権を得られるようになるまでそれに必要な一切の仕事をボランティアでやり続けねばならなくなった。

結果的に、そうした加害者は、体験の自治権があらゆる体験者に提供される世界を実現するための奴隷のようになった。

だが、その世界が実現したら、あるいは被害者たちが全員許せば、償いが完了したとされ、そうした意識たちにも体験の自治権が与えられた。

こうして利己的な目的ではなく、公益的な目的で逆階級制度が一時的に発足してしまった。

それは今までの体験強制ピラミッドシステムではなく、体験自由選択の世界を実現させるための逆ピラミッドと呼ばれた。

上が下になり、下が上となった。

加害者が下になり、被害者が上となった。

ピラミッドはぐるんと上下ひっくり返った。

その逆ピラミッドでは、これまでの被害者の数があまりにも膨大だったので、下働きのボスたちやその部下たちは実に大変だった…

ただし、今までボスやその部下たちが故意に強制してきた酷い体験以上にひどい体験は味わわなくてもよい状態ではあった。

故意に体験者の体験の自治権を否定攻撃してはならない……との警告をすでに何度も受けていたとある不自由な世界のボスやそうしたボスに確信犯で従っていた部下たちは、故意にそのモラルを無視してしまったために、そのようなペナルティが課されることになった。

この判決を聞き、自発的に悔い改めて自分がなしたことの償いを全身全霊ですぐにしはじめた意識だけに執行猶予が与えられ、その償いが嘘偽りのない真正なものであった場合だけ、償いの程度に応じ一定の情状酌量が後になされた。

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