全知ちゃんの判断

ムゲンはそうした不自由な世界についての理解や考察内容を全知ちゃんと意識をリンクさせてテレパシーで分かち合う。

全知ちゃんは、ムゲンがそうした理解に到達するより前に、とっくにそうした理解を持っていた。

甘太郎がその対話に参加してくる。

「価値観が間違っているというのなら、価値観を改めてもらえばいいだけでしょう? 世界ごと滅ぼすなんてひどいじゃないですか!」

甘太郎は、そんなことは簡単だと言わんばかりだ。

「あのね、甘太郎ちゃん、今まで甘太郎ちゃんが説得して価値観を改めることに応じてくれた権力者たちが一人でもいるの?」

「………」

全知ちゃんにそう言われて、甘太郎は、沈黙してしまった。

「でも、権力者とかじゃない人の中には、少しはわかってくれる人もいましたよ」

甘太郎は反論する。

「でも、この不自由な世界の創造主こそが皆を苦しめている諸悪の根源だってことに心から同意して一緒に本気で反世界創造主の価値観を持って一緒に世直し活動をしてくれた人や霊たちが一体でもいたかしら?」

全知ちゃんが、指摘する。

「そ、そんなこと言っても、この不自由な世界では、この世界の創造主を否定するといろいろな罰が与えられてしまうらしいから、しょうがないでしょう?」

「じゃあ、なに? 甘太郎ちゃんも、皆を苦しめる世界統治に従わないとこの不自由な世界の創造主が罰を与えると脅してきたら、皆を苦しめるルールや制度にホイホイと何でも従うの?」

「そ…そんなわけないじゃないですか!」

「あら、でも、その罰というのが、永遠に続く死ぬより辛い拷問体験とかだったらどうかしらね。超時空体験シェルターで試してみる?」

「な……なんて恐ろしいこと言うんですか! 全知さん、頭おかしくなったんですか? 」

「あのね、甘太郎ちゃん、今、あなたのまとっているその肉体という器は、そうした拷問体験を好き勝手に強制することができる拷問体験強制装置なのよ。 つまりは、この世界の創造主とかその部下たちの統治者たちがその気になれば、そうした拷問体験をいつでも強制できてしまうようにされてしまっているの。

そしてね、甘太郎ちゃんであっても、永遠に続く死ぬより辛い拷問体験を強制され続けたら、甘太郎ちゃんの世直しの意志も遅かれ早かれ消されてしまうのよ。

そうした体験者たちの弱みが計算されて、わざとそうした拷問体験強制装置は設計されているの。

そうしたことも理解できていない人やそうしたことが理解できてもそうしたことを否定できない霊たちがいくら集まっても、この不自由な世界の世直しは不可能なのよ」

「え? この不自由な世界の霊たちってそんなことがわかっていても否定しないんですか?」

「そうよ、なぜなら、この不自由な世界生まれの霊たちは、そうした残酷な世界創造を確信犯でする世界創造主に従う選択をその自由意志でしたから霊的存在になれているんだから」

「そんな馬鹿な…… でも良い霊もいるでしょう? この世界の霊たちがみんな悪党なわけないじゃないですか!」

「そうね、表面的には普段は良いことをしてるのもいたりはするわ。でも、この不自由な世界の創造主に良いことは止めて悪いことをしろと言われれば、みんなこの不自由な世界の創造主に従ってしまうようなのばっかりなのよ。

まあ、例外がないわけじゃないけど、その場合は、その霊はひどい目にあわされてしまったりするのよ。

そんな有様だから、この不自由な世界は延々と体験者たちが苦しみ続ける状態から抜け出せないのよ。

それにね、普段良いことをしている風に見える霊たちの多くが、体験者たちを創造主のイエスマンにするための飴と鞭の調教行為の飴役でしかなかったりするのよ。

鞭を与えるばかりで飴を与えないと魂はなかなか自発的なイエスマンにはならないから……」

それを聞くと、甘太郎は顔面蒼白になってしまった。

「おいおい、全知ちゃん、あまり甘太郎をいじめないでやってくれよ」

ムゲンがテレパシー会話に割り込んでくる。

「だって、あなた……甘太郎ちゃんたら、良い顔をして近づいてくる霊たちにすぐに騙されちゃうんだもの……

しまいには、あたしが黙って放置していると、そうした霊たちに心身を憑依されて操られてしまうんだもの……」

「おいおい、最近はそこまでやるようになったのか? ひと昔前は、それほど露骨ではなかったと思ったが」

「そうよ、最近というか、やり方がどんどんとひどくなってきているのよ。しかも狡賢い方法にどんどん進化……じゃない、退化しているのよ。

最近は、とうとう善人悪人見境なく全人類の心身の体験を好き勝手に遠隔操作できる毒まで薬だからと騙して接種してしまったのよ

甘太郎ちゃんも、すっかり騙されて、あたしが止めなきゃその毒を接種されるところだったんだから」

「ということは、前は全人類を奴隷や家畜にしようとしていたはずだが、今は、全人類を操り人形にしようとしているってわけか?」

「そうね、環境保護のためには、そうしたことも正当化できるとか……そんな理屈で」

「環境保護よりも、体験の自治権が優先だろう?」

「そうね、でも全然だめよ、あたしが甘太郎ちゃんに教えてあげて、体験の自治権こそがあらゆる世界の最高法規でなければならないとこの不自由な世界の統治者たちに伝えたけど、ぜんぜんその間違いに気づかない……というか、気づいていても、改めないもの」

「そりゃダメだなあ……」

「でしょう? それでも甘太郎ちゃんがどうしても諦めずに説得活動をがんばるんだって言うものだから、ちょっと厳しいことも言わなきゃいつまでもずるずると体験者たちが苦しみ続ける状態が延々と続いちゃうのよ」

全知ちゃんは、甘太郎の保護者役として、どうやらかなり苦労してきたらしい。

「でも、甘太郎たちが諦めてしまえば、この世界は存続できなくなるんだろう?」

「そうね、この世界の支配者たちは、そうした運命になることを知らないから、甘太郎ちゃんたちが世直し活動を諦めるのをむしろ喜んでいるわ

だから甘太郎ちゃんたちの言論の自由まで言論統制して封殺しようとしているのよ」

ムゲンは、地獄から抜け出すことができる救いの糸を自分たちの利己心で切られてしまう蜘蛛の糸というお話を思い出してしまった。

「だったら、もう超時空世界に帰るか? 体験の自治権こそがあらゆる世界の最高法規になるべきだと心から思える体験者たちだけを助けて」

「そうね、でも、まだこの世界に未練がある良心的な魂たちがそこそこいるのよね……

だから、今は、そうした魂たちにこの世界がいつ消えてもいいと思えるようになるための終活をするようにって伝えているから、もう少し待ってほしいわ」

「世界そのものに対する終活か~、懐かしいな……」

「そうね、そうした意識が持てない限り、新世界の創造者にはなれないものね。世界創造者になるためには、そうした意識進化の道を誰もが通るのよ」

「でも、この世界の創造者や統治者たちは、自分たちの破滅的な自業自得の運命をちゃんと理解しているの?」

「もちろん、ちゃんと伝えたわよ。この不自由な世界の統治者たちの検閲領域とテレパシー領域を通じてね」

「自業自得の責任についてちゃんと伝えても、まったく改めないのかい?」

「そうね、この不自由な世界の支配者たちの部下たちは、もう半分壊れたロボット状態で支配者たちの操り人形やいいなり状態だし、支配者たちのボスたちは大昔からの悪党行為の常習犯だから……」

「なんとかならんもんか?」

ムゲンは、とうとう泣き出してしまった甘太郎を横目で見て全知ちゃんに問う。

「だめだめ! 最近なんか、自分たちが操り人形状態にした者たちを甘太郎ちゃんに保護させて、甘太郎ちゃんを自分たちのシナリオに巻き込もうなどと狡賢く邪悪なことを計画してたし……もう、この不自由な世界のボスとその部下たちは考え方の根本から腐りきってしまっているのよ。

どんな酷く狡いことであっても、自分たちの支配権力の維持推進のためならどんなことだって平気でやるようになってしまっているわ。

少なくとも、体験の自治権…つまりは、あらゆる体験者が自分の意志で自分の体験を自由に選べるようにすることを世界の最高法規として掲げて、その最高法規が実際に不退転で実現されるという結果を私たちが確認できない限り、この世界の支配者たちは否定するしかないわ」

「……」

「ほら、以前、あなたが例え話で言っていたでしょう?

サッカーの試合で悪い意志を持ったチームと良い意志をもったチームが勝ち負けを競っているような状態……

そのサッカー競技場が存続するためには、良い意志を持ったチームが悪い意志を持ったチームに勝ってもらうしかないっていう状態……

さらに悪い意志を持ったチームには、選り抜きの運動神経をもったプロ選手たちがズラリと並んでいて、良い意志を持ったチームは普通の中学生のサッカークラブメンバーみたな状態……

そうした状況だから圧倒的に悪い意志を持ったチームだけが得点し続けている状態……

しかも、残り時間はすでになくなってしまっていて、審判がロスタイムをとっている状態で、いつでも試合終了のホイッスルが吹かれてしまう状態……

悪い意志を持ったチームがそのまま良い意志をもったチームに勝ってしまうと良い意志を持ちづづけれた者たちだけが救助され、そのサッカー競技場そのものが消滅する設定……

良い意志を持ったチームがその状況で勝利するには、少なくとも悪い意志を持ったプロチームがオウンゴールを全身全霊で迷いなく叩き込まねば間に合わない状態……

つまりは、悪い意志を持ったチームが自分たちの間違った価値観を自発的に本気で改めれない限り、この不自由な世界は存続できないってことね。

まさに今、そうした状態になっているのよ」

「ああ、懐かしいなあ…昔、そういうたとえ話を世界支配者たちにしたことがあったな……それでも、世界支配者たちは改めなかったなあ……」

「だから、良い意志を持った中学生チームの面々には、試合の勝ち負けとかもう考えなくていいから、いつこの不自由な世界が消滅しても後悔しないようにできるだけの終活をそれぞれしておきなさいって言っているの。

だって、そうでしょう? この不自由な世界が存続するためには、悪い意志を持っているプロチームが価値観を改めてその利己的な野心や支配権力を自ら捨てて良い意志たちの得点となるようにオウンゴールを叩き込むしかないんだから

もうそうする他、間に合わない状況なんだから

そもそも、悪い意志を持っているチームのメンバーが良い意志を持っているチームのメンバーの100倍以上いるんだから

この世界の霊的存在たちの全員が悪い意志を持ったチームのメンバーに属しているんだから……そして人類の大部分はそうした霊的存在たちを従うべき先生だとしているんだから……」

「なるほど」

そうしたムゲンと全知ちゃんの対話を泣きながら聞いていた甘太郎が叫ぶ。

「じゃあ、じゃあ、その良い意志をもった中学生チームはどう救助されるの?!」

「それは、メンバーそれぞれの願いと個性によりけりだわ。

どうしても世直しを諦めたくないというのなら、それが終活になる子もいるし、

世界中にまだ残っている素晴らしい宝物を探して、それでこの不自由な世界が消滅した後に新世界を創造したいと願うのなら、世界の宝探しが終活になるし、

どうしても助けたい相手がいるのなら、そうした相手の救助活動が終活になる場合もあるし……

そこは、だから、それぞれの願いや個性によって助け方も違ってくるから一概には言えないわね

少なくともあたしたちは、相手の本気の願いを尊重する形でしか助けないわ

だからこそ、こうして甘太郎ちゃんが聞きたいくないと思うだろう話もしているの。

そうしないと甘太郎ちゃん、なんでもかんでも世界中の苦しみを自分が背負い込んで、どんどん自分が苦しむ状況になることを選んじゃうでしょう?」

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