女性プレイヤーにのしかかる重圧。たぬかながラスベガスで号泣した理由
本特集企画「決戦前夜～眠れない夜の裏話～」では、アスリートやスポーツ指導者などの「決戦前夜」に迫ります。第6回のゲストは、CYCLOPS athlete gamingに所属するプロeスポーツプレイヤーのたぬかなさんです。
日本を代表し世界で戦うプロ選手としてのしかかる重圧、そしてネット上での誹謗中傷。第一線で活躍するたぬかなさんに、eスポーツ業界が抱える課題について伺いました。
発展途上国にeスポーツが与える夢
海外の大会に行くことが多いのですが、その中で国ごとに選手の特徴が違うという点を楽しめます。各国の選手が自国の上手い人の真似をする傾向があり、国ごとに特色があります。例えば、日本は理論型、アメリカは感覚派が多く、韓国はガチガチの防御型で世界最強と言われています。ただ、すごく良いプレイヤーが多くいる一方、兵役に招集されてプレイヤーから離れてしまうこともあるんです。いつも「もったいないな」と思いますね。
パキスタンの選手は、とても反応速度が速いという特徴があります。最近アッシュという選手が話題になりました。
ビザの関係でパキスタンから海外に出ることが難しい中、アッシュはなんとかビザを取って日本に来れたんですよ。その訪日時に出場した大会でいきなり優勝したんです。インタビューで「みんなパキスタンから出ることはできていないけど、俺よりも強い選手がまだまだいる」と言っていて、とても話題になりました。
紛争の影響で屋外で遊ぶことが難しいようで、昼夜問わず仕事の時間以外はゲームをしていることが理由のようです。
アッシュはその功績が認められて、レッドブルのチームに加入しました。パキスタンの平均年収は日本円で約10万円もないほどらしいのですが、彼はそれを大きく越える多額の年俸や賞金を手にすることができたんです。普通の男の子が今や大富豪になり、母国に夢を与える存在となっています。そういう意味でも、発展途上国においてeスポーツは注目される業界になってきたなと感じます。
ラスベガスでの“号泣”
世界中から1万人以上の選手がラスベガスに集結して行われる『EVO』という大会があります。私がプロとして初めて参加した年は、緊張から全く眠れず、成績がすごく悪かったんです。
プロとして成績が残せなかったことに対して、すごく非難されました。
誹謗中傷する人は、対戦相手や内容は全然見ずに最終順位だけでコメントをする。ある意味、結果が全てです。
翌年の同じ大会でも「プロとして負けられない」という緊張から、眠ることができませんでした。ただ、初年度に負けた悔しさゆえにかなりの練習量で臨んで、参加者2500人のうちトップ64まで勝ち進むことができました。戦いの序盤で相手に攻撃された時は、「また負ける」と思ったのですが、最後は勝つことができました。
その時は「これでもう非難されない」という安堵で号泣していました。
その後、アメリカで行われた別の大会で3位になった時に、プロとしての自信を持つことができました。初めて女性が表彰台に上がったということでニュースにも取り上げてもらいましたし、これによってSNSのフォロワーや取材の数も増えました。プロとして最低限の結果を残すことができたのかな、と思っています。
eスポーツ業界が抱える大きな課題
私が大会に出始めたときは、ネット上の誹謗中傷は今より活発でした。何を言われても当たり前、という時代でしたね。最近は社会的に問題となって、世間の目も厳しくなりつつありますが、当時は恐ろしかったです。
特に、女性プレイヤーは人数が少ないので比較されやすいんです。実力や順位だけでなく、ゲームと関係のない容姿まで言及されることもあります。最近は、たくさんのかわいい女の子がインフルエンサーとして活動しています。そんな中、一般の女の子がカメラの前でeスポーツプレイヤーとして真剣に戦っている中、普段の生活では浴びることのないような誹謗中傷を受けるのは本当に辛いことです。
ゲームのジャンルや年齢層によっても違いはありますが、格闘ゲームはゲームセンターのアーケードから始まっているジャンルなので、ヤジを飛ばすことが当たり前という風潮も関係していると思います。プロでも誹謗中傷を受けたことが原因で、体調を崩して休養している選手がいるくらいです。
実力があるにも関わらず、このような理由から「プロになりたくない」、「顔を出したくない」という選手は多くいます。女性eスポーツプレイヤーの育成にも取り組みたいのですが、まずは誹謗中傷などを抑えていく基盤をつくる必要があるかな、と。
そうでないと、選手が心を痛めて辞めてしまうだけなので。果たして今の格闘ゲーム業界を目指したい女の子がいるかどうか、と言われるとなかなか多くないのかなと。それは悲しいですし、そういった問題が無くなるように声を上げて世の中が変わってほしいと思います。
そして、女性eスポーツプレイヤーにとって良い世界になることを願っています。
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