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壁の中

「どうですか?このアパートは築2年でこの前は、大家さん荷物置き場として使っていたので、実質あなたが最初になれますよ。」
不動産屋の常套なんじゃないかと疑ってしまうが、確かに人が住んだ気配はない。

私は大学に合格して来年から一人暮らしを始めるためアパートを探している最中だ。
「ここいいじゃない」
ママもこの部屋は気に入ったようだ。

「ここは二階に大家さんが単身で住まわれていて、単身の50代の女性なんですが、一人で住むのも不安だしそれなら同じように不安な女性達と住みたいとおっしゃって女性専用の入居アパートなんで珍しい物件なんです。」

ワンフロアだけど確かに至るところに女性が住むことを前提にしたような造りになっている。
大きめのクローゼット、バストイレ別、対面キッチン、そして玄関の大きい全身が映る姿見鏡。

「そして防音もしっかりしていて、隣の音はほとんど聞こえませんし、一階だから足音や夜洗濯機を回しても大丈夫です。」

一階なのは少し気になるけど、ベランダは少し地面から高くなっていて部屋やベランダが直接外から見えない工夫がされていたりベランダ側に入るのも一旦、外のロックを開けてから入らないと侵入できないようになっている。

『上に大家さんがいるのは少し気にはなるけど親もこれなら安心か』
ママはもうここに決めるつもりでいるのが後ろから見ていてもわかる。
大家さんもその後来て、とても良い雰囲気の人で、学生なんだから好きなようにしていいからと言ってもらえて、私もここに住むことを決めた。

1年半後…

一人暮らしが当たり前になって、このアパートの生活も慣れた。
大家さんは、とてもいい人で時々おかずを頂いたり、貰い物食べきれないからといただけたり、ちょっとした庭があるのだけどいつも綺麗にしていて家庭菜園で取れたものを「ご自由にどうぞ」なんてエントランスにおいてあるのでとても嬉しい。
1階は3ユニットなので私以外に2人の女性が暮らしているが、一人はOLの方でいつも帰りが遅い、もう一人はあまり見かける事はないがどうも在宅で何かをしているようだ。私も大学生活が忙しく、合間でアルバイトも始めたからいつも帰りは21時を過ぎてしまう。

ある日、インスタントラーメンを食べようと思ってケトルにお湯を沸かしている間にスマホを見ていたが、疲れていたのだろう寝落ちしてしまった事があった。
おそらく、お湯が湧いてしばらくした時だろう。。。

ドンッ!!

地震かと思って飛び起きた事があった。
そんな事が実は何回かあった。
1回は友達が遊びに来て、ちょっと騒がしかったかもしれないとき…
あとは突然雨が降り出した時も…

幽霊でもいるのかと不安になって友達に話した事もあるけど「考えすぎだって~」と軽く流されてしまっていたし、私もそう思うようにしていた。
でも、なんか気味悪い。隣の人?
私は一番奥の角部屋に住んでいるので、他の人が出入りをしてもほとんど気づかないぐらい音がしない。隣の部屋は、家にずっと居る彼女だけど、聞き耳を立てても隣の音はほとんどしないから窓でも開けていない限りは気づくことはないと思うんだけど…

私も、そんなに頻繁に起きることではなかったし、しばらく何も無かったので忘れていた頃、あんな事になるとは…

ある朝、大家さんに声をかけられた。
「聡美ちゃん、おはよう」
「あ、敏子さんおはようございます。」
私達は、大家さんの事を本人からそうして欲しいと言われた事もあって普段は敏子さんと呼んでいる。
「今日は、やっと残暑も和らいで涼しくなりそうね。」
「はい。今年は暑かったですもんね。」
「そういえば、服かわいいけれど、グリーンのチュニック可愛いのになんで着ないの?今日着ないともったいないわよ~」
笑顔で話かけてきたけど、私は血の気が引く感覚を覚えた。
「あ…ありがとうございます。今度、着ますね。時間、間に合わなくなっちゃうので行きますね。行ってきます。」
その場では、できる限り悟られないように笑顔で答え、急いでその場から立ち去った。振り返らず急ぎ足で駅に向かったが、何故か背中に視線をずっと感じていた。

すべてがつながった…私は視られている。

その日から、つねに視られているかもという感覚が部屋の中どこでも感じていた。まるで監視カメラでも付いているのかと思うぐらい。

実は、敏子さんに言われた服は、この間ママから誕生日プレゼントでもらったばかりで一度も外に着て行くことはなかった。部屋でも、まだ早いかなと思いその時に着ただけでクローゼットにしまっておいたものだ。

前に敏子さんに言われた言葉が蘇る。
『聡美ちゃん、まるで私の娘のようでとても気になるの。』

まさかね…
そう思いながら天井を見つめたが、なんか目があるような気持ちになってすぐに目をそらしてしまった。

それ以降、気になることはあったが何も起きないので、友達もみんな考え過ぎだと言ってくれてた。
私もそう思っていたのだけど…

1ヶ月が過ぎたある日。

夜中、突然クローゼットの横の壁からドンドンドン…と大きな叩く音が聞こえた。
私は恐怖のあまり声を上げてしばらく壁を見つめていたが何か聞こえる…
壁から小さい声で「たすけて…」と…

恐怖で気を失いそうだったが、110番に連絡して警察に来てもらい壁をしらべてもらった。
隣の人にも声をかけて許可をもらって警察の人が壁を壊した瞬間。

崩れた壁から笑ったまま亡くなっている敏子さんが現れた…。

後日、警察の人が調べたところ部屋と部屋の間に隙間があってハシゴで1階の隙間に降りる事ができて壁とそして姿見の辺りに移動することが出来るようになっていて姿見は玄関横だったが、構造上部屋を見渡せるようになっていてそこから敏子さんは各部屋を覗けるようになっていた。
偶然降りた時に持病の心臓発作が起きてしまったらしくそのまま息絶えたと報告を受けた。さらに敏子さんは、建て替える前、下宿を営んでいたらしいが、その時住んでいた女性が行方不明になっており、後日庭から白骨化した女性の遺体が見つかったそうだ。

もしかしたら、私は…

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