レトロ昭和法

「先ほど国会にて、満場一致で無事にレトロ昭和法が可決されました。この法律は、即日施行されます。みなさんは、近くの設置ステーションにて適正を受けてください。
そして、明日から日本は鎖国されることになり、情報制限がかかることになりました。皆さん、気をつけてください。
国会議事堂の周辺では、この法案に反対をするIT関連の支持者たちがプラカードを持って反対運動を繰り広げていましたが、先ほど法案が施行され…」
アレクサが定期スケジュールでネットラジオのニュースを読み上げていた。
なんのこっちゃ訳わからなん法律が始まったらしい。
政治には興味がないので、いつもの通り聞き流して特に注目する事はなかった。

俺はフリーランスで今は仕事をしていて、ほとんど外に出る事をしていない。
完全な社会人引きこもり状態。
買い物もほぼネットで済ませているので、外に出なくてもほぼ問題がない。
外に出るのは、ゴミ捨ての時に近くのゴミステーションに行く時ぐらいかもしれない。
全く運動もしないと流石に体に不調をきたすので、エアロバイクで簡単な運動もしている。管理は全部クラウドでデータを管理していて、体重計も全てトータル管理ができる優れものだ。
仕事は、最近SlackからDiscodeに乗り換えて快適なやりとりができているし、友だちとは最近流行りのメタバースで遊んでる。
今日は、ちょっと疲れが溜まってきていたのか急激な眠気に襲われてしまい寝ることにした。

「ん?今何時だ?アレクサ」
…。何も反応がない。
「あれ?アレクサ…壊れたかな?」
仕方なく起き上がって時計を見る。
11時を過ぎていた。
「やっべっ。今日はランチミーティングが12:30からあったんだった」
アレクサが動かないので、テレビをつけてみることにしたんだけど、テレビも映らない。

スマホも圏外になっている。ネットも当然繋がらない。
友達と連絡と思ってもどうしたらいいのかわからない。
とりあえず外に出てみるかと思い、着替えて外に出てみた。
外の光景はそんなに何も変わらない???いや何かが違う。何だろう?
看板があれ?モニターじゃなくて絵に変わってる。
電話?あれ赤いやつは電話か?

「あれって電話ですか?」
近くにいた人に聞いてみる。
「あぁ、そうだよ。何言ってるの君。頭大丈夫?」
「あ、ありがとうございます。」
慌ててその場から逃げる。
『コンビニ…コンビニ』
僕はコンビニを探して歩き回ったが、昨日までここにあったコンビニがなんかスーパーに変わってる。店の中に入ってみる。
なんか見た事ないような光景が広がっていた。

やっと赤い電話機の前に立ったが掛け方がわからない。
10円って書いてあるからこれは昔使った事ある緑の公衆電話と同じだろう。
10円入れて電話しようとしたが、電話番号がわからなかった。
結局、諦めて家に帰った。

色々考えた結果、行き着いた結論は昨日、アレクサがなんか言っていた "レトロ昭和法"ってやつか。
とりあえず、情報を収集しないといけないけどネットは当然使えないので考えて、もう一度外に出て探して駅だったらと思って近くの駅の中にある売店で新聞を購入。
幸いお金は使えた。少しだけだけど現金持っていてよかったよ。

部屋に戻って新聞の一面を読む。

"レトロ昭和法"
日本を鎖国し、一切のIT関連の技術を日本は捨てアナログの生活を行なう。
日本は自給自足を行い、昔の良き日本を取り戻し日本の再復興を行う。
そのため、日本国民は法案施行後、設置ステーションで情報適性を受けこの世界で生活していくための知識と余計な情報の削除書き換えを行う。
一週間以内に設置ステーションで情報適性を受けないものは反逆者として日本政府より処罰の対象になります。

何だこりゃ…

とりあえず理解に苦しむ事が起きているのは事実だが、外に出ることにした。
周りをよく見てみると、みんな普通に生活している。
『連絡はどうやってるんだ?友達と待ちわせるのはどうしているんだ?』
駅前に行くと、何人もの人が立っている。スマホを見ている訳じゃない。
それなのに待ち合わせて出かけているようだ。
『え?事前に約束してまちあせてるの?』
リアルタイムでやり取りをするのが当たり前だし、時間だって正確じゃなくてもやり取りできるから不便じゃないけど、これで遅れたらずっと連絡も取れなくて待つことになるのか?
待っている間は?周りを見ると、本を読んだり、ぼーっとしている人が多い。
当たり前のようにスマホを見て、動画を見たり、SNSしたりしている訳じゃない。
信じられない。
コンビニもない…
トイレに行きたくなったらどうするのだろう?

当たり前に生活している周りの人がどうしても受け入れられない。
信じられなくてただ立ち尽くしていたら、遠くから警察の人間らしき人が近づいてくる。

「ちょっと君、情報適性を受けていないね。こっちに来たまえ」
強引に連れていかれそうになったので、慌てて逃げた。
『なんで、こんな不便な世の中になっちゃ待ってるんだ』
とにかく僕は逃げた。こんな時代を受け入れたくない。

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