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モノローグでモノクロームな世界

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2020年3月の記事一覧

WhiteNOise # 15

WhiteNOise # 15

 影を亡くした男は、自身の存在の希薄さを知った。
月光が彼を照らすと、躰が透けていく。

それ故に、気が付いたのだ彼は自ら語った。
それならばと、彼は、生きながらに自分の魂を浄化させる術を獲得した。

 瞳はもういらない。
もう醜い物は見たくないんだ。
そう話す彼の瞳は、夜の海岸線と月光しか映らない。
やがて、彼は記憶のなかの彼の顔も、網膜に残っていた彼女の顔も忘れていった。

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第九部 第二章
三、
 真飛の話が中断するのを見計らったように、飲み物のおかわりを持ってきてくれた女性が再び部屋の奥へと姿を消すまでの間、部屋は静寂に包まれた。
ケイは、消えていく後ろ姿を見守りながら、ずっと気になっていたことを、真飛に尋ねた。
「あの女性、リトリにそっくりですね。彼女もやはり、機械なんですか?」
「あぁ、あれもまた、私が創りだした機械だ。もっとも、ポッドで君が会ったリトリ程に精巧

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モノローグでモノクロームな世界

モノローグでモノクロームな世界

第九部 第二章
二、
 「マドカは幼い頃、父親に連れられてサカイへとやって来た。
そして、あの子は、サカイで棄てられた。

 文字を読む事すらできなかった小さなあの子に生きていく術を教えたのは、サカイの人々や君の父親だ。
この世界の事。
この社会の事。
TheBeeの事。
ナインヘルツの事。
ワームの事。
そして、君の事も。
 ミハラにとって、マドカは実の娘のような存在でもあり、それと同時に、

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モノローグでモノクロームな世界

モノローグでモノクロームな世界

第九部
第二章 一、

 白い家具を基調としたこじんまりとした部屋。
それが神代真飛の隠れ家だった。
白い机、白い椅子、白い本棚、白いベッド。
ダームシティの中は、色で溢れているにも関わらず、まるでこの部屋だけ取り残されたように色が無い。
 リトリによく似た女性は、真飛とケイの前に温かいお茶を注いだカップを置くと、静かに二人の前から立ち去っていった。
 温度のある食べ物を口にしたのは、いつ振りだ

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WhiteNOise #14

WhiteNOise #14

君たちに手品を見せてあげよう。

そう言い手品師は、マントを翻した。

彼の手の上にあったのは、小さな金魚鉢。

そして揺らぐ水面の下にいたのは、夜の海岸線を歩く

影を亡くした男と片目を失った手品師だった。

モノローグでモノクロームな世界

モノローグでモノクロームな世界

第九部 第一章
三、
 「この世界は狂っていたんですね。」

終着駅のホームで彼を待っていたのは、神代真飛本人だった。
数か月前にケイの仕事場で会った時と全く変わらない彼の様子を見ながら、彼はふとツツジは元気だろうかと考えた。いつも底抜けに明るかった彼の脆い一面を知ったのも、あの時真飛と会っていなかったならば無かったことだろう。
 ツツジもケイ同様に、毎日、浴びるようにTheBeeの共鳴音を聞き、

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