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「語られるのを嫌う彼らのはなし。」

ほんとうはね、
何も見たくない、
そんな夜だって、何度もある。
付着しすぎた感情の
最深部までまさぐって、疲れて。
開けすぎた心の扉を
必死に閉めようとして、痺れて。
そんなことをして
いつも
真夜中になって。
いつの頃からか
遊び場だった闇の中は
怖い場所に思えた。
行き過ぎると、
その
闇の向こうの崖みたいな、
ドブみたいな、
黒い穴みたいな、
何もかもを引きずり出して攫って
呆気なく
落としてしまう。
みたいな。
そんな闇が
あの夜にはあった。
あなたはあの闇を、
本当の闇を
知らない。
あるだけ集めて
ひとつひとつの顔もわからず
並べるだけで満足して
自分の持ち物と勘違いしている。
素晴らしいと思い込んでいる。
そして簡単に、忘れていく。
そんなことの方が
僕はよっぽど
こわい。
名前を呼んで、鼓動が交わる。
触れる先から、小さな温度を。
血が滲んでも
あの夜を忘れられない。
だから、
多くはいらない。
ある時、僕はこの記憶たちと、
どこまで行くのだろうと想像して、
あてのない旅路に出て。
何もない宇宙の砂漠まで辿り着いて、
誰もいない旅路のしじまに、
虚無を感じてしまった。
そこがどんなに
美しくても、
もう、
伝えたい
あなたたちはいない。
全てを知ってしまったら、
その矛盾に
涙でもするだろうか。
今はまだわからないが、
確かにここにある、誰のものでもない。
深い
深いそこに立ち、
爪先の小石に、光が降りて
水面へと繋がる。
これまでの何よりも美しい
旅の果て、
僕はきっと、
もう、
人の形をしていないだろう。