見出し画像

ツインレイ小説第二部より抜粋⑥

朝目が覚めて触れてみると、私はもう濡れている。

夢で抱かれた記憶がない時も、そうだった。

夜のうちに、彼がきてくれていたのだろう、と思うと、私はもう会いたくて、枕を抱きしめて顔を埋める。

心の中で名前を呼ぶと、今朝はすぐに、愛してる、って伝わってきた。私は音もなく涙を流す。

一度だけ、リアルで私たちは、抱きしめ合ったことがある。

ほんの少しの時間。何の色気もない。唇を寄せ合うこともない。

ただ、そーっとお互いの輪郭を確かめるかのように、私たちは近付いて、腕を回して、お互いの腕の中に包まれた。

私は、彼の背中をそっとさする。疲れが取れますように、って思いながら。

次の瞬間、彼は、腕に力を込めた。

ほんの数秒の、こと。

ほんの数秒の、思い出。

でも、あの瞬間を思い出せば、私は一生生きていける、ってそんなふうに思えるほどの。


彼は、その時のことを言う。

君が腕の中にいた瞬間が、一番幸せな瞬間だった、って。

ずっとずっと、腕の中に抱いていたい、って。

ひとつになっていたい、って。

私もおんなじ気持ちだよ、って言って私は泣く。


暑いのか、隣の夫が寝苦しそうに寝返りをうつ。

私は涙を手で拭ってそっと起き出す。

キッチンで、夜寝る前に研いでいたお米の水を取り替えてから炊飯器にセットする。

リビングのカーテンと窓を開けて、今日も暑くなりそうな空を見上げる。

一日が、始まる。









この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?