『正しい道』(小説)
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『正しい道』
なぜかいつも正しい場所にたどり着く。私はそういう子どもだった。
何を選んでも、どこで迷っても、最後には正しい道を選んでいる。
それは、大人になった今でも変わっていない。
小学生の頃、グループ学習の班行動で置いて行かれたことがある。
夏の日差しが強い日だった。
公園のトイレで手を洗うついでにハンカチを濡らして外に出たら、そこにはもう誰もいなかった。
私は彼らをたいして探そうともせず、班行動で配られた地図を広げて目的地に向かった。
集合場所では彼らが先生に叱られて泣きべそをかいていた。
私は彼らと先生の前で頭を下げた。
「ボーっとしていたらはぐれました」と。
事実、そう思っていた。
わざと置いて行かれたなんて考えもしなかった。
その後、彼らは私の人生において最高の友となった。
父親が分からない子どもを産むと決めた私の最大の協力者になってくれた。
「頼むから、おろしてくれ」
床に額をこすりつける愛しい人。
彼のうなじにそっと触れた。
温かく、少し湿っていた、彼の感触。
少し顔を上げた彼の頭を優しく抱いた。
ずっと触れていたかった。
これから先も、ずっと。
「ありがとう。さようなら」
そんなありきたりな言葉で終わらせた恥ずべき関係は、その後しばらく私の胸に後悔の痛みを与え続けた。
それでも、預金通帳に時折現れるその名前を指でそっと撫でるたび、胸に温かくて、少しだけ湿り気を帯びた光がともった。
娘はよく道に迷う子どもだった。
一瞬でも目を離すと姿を消して友人たちを慌てさせた。
それでも、私はいつも彼女のもとに、迷うことなくたどり着いた。
「生んだことを後悔させてやりたい」
そんな理由で、娘は様々な事件を起こした。
万引き、いじめ、傷害、自殺未遂。
そのたび、私はすぐに駆け付けた。
娘に刺されたわき腹の傷あとを見ると、彼女は今も泣きそうな顔をする。
「ママはすぐ迷子になるから」
そう言って娘の手を握る孫に、小遣いを握らせる。娘が露骨に顔をしかめた。
「ママが迷子にならないように」
手を握ってあげると笑う孫の笑顔は、ハッとするほど、あの人に似ている。
孫は娘の夫、彼の父親に似ているらしいが、私は会ったことがない。
最後まで私の出産を反対していた私の母。
我が家の本棚には、母が作った娘のアルバムの隣に、私が作った孫のアルバムが並んでいる。
私は正しい道を歩んでいる。
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