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ノート

黒い革張りのノートが鞄に入っている。何用でも無いただのノートだ。忘れたくないことを書くときもあれば何でも無いメモをするときもある。2cm位の厚さで少し重いが、どこへ行くにも鞄に入れて出かけるのが癖になっている。このノートは1代目では無い。今までも何冊かこんなノートがあったが、最後まで使い切ったことが無い。

「じゃあ明日行く?」

隣を歩く彼が言う。思考にのまれて目の前の会話を疎かにしてしまうこと

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天使

深夜の麻布十番を1人で歩く。目的は無い。旅先で暇を持て余しただけだ。今回の旅自体には目的がある。人に会う事だ。それは明日の夜だから、今日は何をしたって良い。見知らぬ土地の夜の空気を吸ってみたかったし、少し誰かと話したかった。

坂を上ると道の両脇には飲食店が並んでいた。店はもう閉まっている所が多い。六本木辺りまで行けばもう少し賑やかなのかな。土地勘が無いから良く分からない。階段状になった広場に腰掛

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ボニーアンドクライド

「なんで」

そんな事、本当は聞かないで欲しい。泣きそうな顔をしている。抱きしめてごめんね嘘だよと言えたらどんなに良いだろう。

「ごめんね」

謝罪では無くて理由を教えてくれと彼は言う。理由は彼では無い男とセックスをしたからだ。ずるい考えだが、それだけなら言いさえしなければある程度の期間は関係を続けていけたと思う。

でもわたしは思ったのだ。彼では無い男とセックスをしているときに、ふと、彼からも

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朝の光

目が覚める。
目を閉じた意識の中でそう思った。何かを考える前に薄く開いた目で携帯を探す。8:54。アラームが鳴るまでまだ1時間以上ある。

もう少し眠っていたい。ベッドの中で腕を伸ばすと柔らかいものに当たった。彼がまだ居る。もう出ている時間なのに。寝坊かも知れないと、反射的に体を起こす。

「もう9時だよ、大丈夫?」

もぞもぞと体を動かして聞き取れない言葉を発する。その様子で寝坊では無いのだと察

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連鶴

姉が居る。5つ年上だが酷く若作りだ。おかげでたまたま一緒に歩いているところを見た知人には彼女かとはやし立てられることもしばしばで、非常に迷惑している。先日もそうだった。仕事終わりに姉と会う約束をしていた。仲が悪いわけではないが、1年ぶりくらいに会う。親戚の結婚式に出られないならご祝儀くらい出しなさいと無理矢理に、姉にそれを託す日を決められた。そもそも普段から連絡も取ってもいない親戚の結婚式など出席

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プライオリティ

好きなものを聞かれた。あなたのことを知りたいから好きなものや趣味を教えて欲しい、と。この感情そのものはとても美しいと思う。相手のことをもっと知りたい、その先で時間を共有したい、という感情だろう。

自己開示は怖い。求めるのも求められるのも。それはきっと拒絶されるのではという恐怖から来ている。その恐怖を乗り越えなければ繋がりが深まらないのだと友人に説教をされたけれど、わたしはその質問をしてきた人と繋

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海とクラゲ

赤い星を見つけた。あの人に教えて貰った歌の中に星が出てきたからふと見上げた空に、きらきらと揺れていた。
足を止めて見上げていると、車のクラクションが鳴った。今立っているのは歩道だから、わたしじゃないはず。気にとめずそのまま見上げ続ける。

「おい、引くぞ!」

はっとして目をやると、にやついた男がこちらを見ている。たっちゃんだ。

「またぼけーっとして。拉致されちまうぞ」

たっちゃんはあまり清潔

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おわり

ふたりで行こうと柔らかい約束をした。わたしの好きな場所に。その約束はもう果たされることは無い。

寂しくはあるけれど仕方の無いことだ。彼はわたしのこの薄情さに満足できなかったのだろう。わたしは彼の踏み切れない臆病さを愛しきれなかった。

お互い燃えるような情熱を持って接することを望んでいたわけでは無いと思うけれど、もっと寄り添っていたかった。それをしなかったのはわたしだと、思われていると分かってい

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夜明け前

眉間にしわを寄せて威嚇しながら人を遠ざけようとする彼を、知りたいと思った。

彼はひとりが好きで、寡黙だ。意図的かどうかは知らないけれど、伸びた髪で目を隠している。わたしは彼の目を見るのが好きだ。嘘のつけない、不器用で生きづらさを隠せない瞳を見ていると許される気がした。わたしの日々に散りばめた虚偽を。

初めて知人に紹介された時の彼は関係を築くつもりなど毛頭無いようで、やはりあまり喋らなかった。わ

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ブラインド

とてつもなく好きな男が結婚した。
人間としては特段、気に入っているわけでは無くて友人でも無くて、ただ単に顔が。

本当になぜなのか分からないくらいクリティカルヒットで、目が合うと心臓が発作を起こしたように息が苦しくなる。

わたしのその様子を見てせせら笑いからかいにわざと近づいてくる様な、嫌な男。

全く悲しくはないし、寂しくもない。

ただ、顔が好きな男。

正直、わたしの方が先に結婚すると思っ

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ホテル

煙草の煙を吐き出しながら考える。

彼は、なぜひとりの夜を怖がっていたのだろう。

明確に怖いという言葉を聞いた訳ではないけれど夜ごと違う相手を探していた。毎晩性的な関係を持つわけではないけれど、時間を共有できる相手を。

終電を逃したがっていて朝まで一緒に居たがっていた。だからといって甘い言葉を吐いたりはしなかった。

だって関係を築きたい訳では無いから。

わたしは彼に好かれたくてすり寄って、

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満員電車

わたしはロックンロールが大好きだ。
そして、満員電車が苦手。
なので毎朝人に聞いたこの方法で乗り切っている。

満員の電車に乗るときに
【ロックンロールが飛び込みます!!!!】
と心の中で叫ぶ。
再生音声はもちろんガサガサのあの声。

そのまま遮音性バツグンのイヤホンで音楽を聴くとなお良し。好きなものを近くに感じていると心に余裕が出来たりするのかも知れない。いや、むしろ余裕がなくなって丁度良いのか

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友達になりたかったみたい

「あ、あの、、」

控えめに声を掛けるのは黒髪ストレートのロングの女性。掛けられているのは金髪のベリーショート。女性だ。

「…はい」

振り向いたは良いけれど不審がっている。このご時世、道で声を掛けてくるのは怪しいキャッチかなんかと決まっている。

「あ、あの、き、、急で申し訳ないんですけどっ、、」

随分緊張している。汗をかいて、頬や耳が真っ赤になっている。金髪の女は事情も何も知らないがなんだ

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