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1986年発売ローランドのドラムマシンTR-505を操作してみた

私の大好きな洋楽の一つにホイットニー・ヒューストンの「すてきなSomebody/I Wanna Dance With Somebody」があります。

この華やかで楽しいポップソングは1987年全米シングルチャート1位を記録した超名曲であることは説明するまでもありません。

この曲を聴いて、ホイットニーの歌声の素晴らしさに感動すると同時に、曲のイントロから常に鳴り響いている“ドラムの打ち込み音”が気になった方も多いのではないでしょうか。

なんとも言えない独特な音…!

その音こそ、洋楽ポップス史に精通している方ならご存知、電子楽器メーカーのローランドによって1980年から1982年にかけて製造されていたドラムマシン「TR-808」(通称・ヤオヤ)の音なのです。

このドラムマシン「TR-808」は1980年代を中心に広く楽曲制作で使用されてきた歴史があり、いかにも「80’sらしいサウンド」を担ってきた重要な“楽器”といえます。

「そんなTR-808を実際に触ってみたい!」と思ったのですが、中古などの現在販売されているもののほとんどが非常に高価で、残念ながら手に入れることができませんでした。

そのため、今回はドラム講師Aさんのご協力により、Aさんが所有している1986年に発売されたモデル「TR-505」を使って、ドラムマシンを操作してみました。Aさんありがとうございました。

本記事ではTR-505を用いて、機器の概要、使用感、音の紹介をしていきます。また比較してTR-808がなぜ魅力的な音なのかという点も考えていきます。

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TR-505概要

TR-505というモデルについてTR-808との違いを踏まえ、基本情報を記します。

正式名称:The Roland TR-505 Rhythm Composer

製造:ローランド株式会社

ローランドは日本の電子楽器、電子機器、ソフトウェアなどを製造するメーカーです。ちなみに、1972年創業のため今年(2022年)で50周年です。

通称:ドラムマシン、MIDIシーケンサー

ドラムマシン(別名リズムマシン)とは電子楽器の一つで、パーカッションサウンド、ドラムビート、およびパターンを作成することができます。そのため、TR-808やTR-505はどちらもドラムマシンに該当します。また、TR-808のモデルは、機器に始めから搭載(プリセット)されているドラムの演奏パターンを使用するのではなく、使い手によって自分の好きなパターンをプログラミングすることが可能となった最初のドラムマシンだったそうです。

シーケンサーとは、予めプログラミングされた曲を自動演奏(=シーケンス)する装置(もしくはソフトウェア)のことで、一番身近な例だとiPhone等のiOSやMacで使用可能なアプリ「ガレージバンド」も、予め自分でプログラミングした楽曲を自動演奏させることができる「シーケンスソフト」に該当します。TR-808やTR-505はどちらもこの機能を有しているということになります。

MIDIとは、「Musical Instrument Digital Interface」の略で、電子楽器の演奏データを機器の間で転送したり共有したりするための規格を指します。例を一つ挙げると、ドラムマシンにこのMIDIが付いていれば、同じくMIDI付きのシンセサイザーに接続することができます。そうすると、予めドラムマシンでプログラミングしていたトラック(曲)をシンセサイザーに搭載されている音色に変換して自動再生(シーケンス)することができます。今となっては当然のことのようにも思えますが、当時は画期的な機能だったようです。実はTR-808にこのMIDIは搭載されていませんが、TR-808の次のモデルとして1983年に発売されたTR-909からこの機能が備わるようになったそうです。そのため、TR-505もMIDIが付いたシーケンサー「MIDIシーケンサー」と呼ばれます。

サンプルされた音:全16種(Low Conga/Hi Conga/Timbale/Low Cowbell/Hi Cowbell/Hand Clap/Ride Cymbale/Bass dram/Snare dram/Low Tom/Mid Tom/Hi Tom/Rimshot/Closed Hi-hat/Open Hi-hat)

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TR-505に搭載されている16種類のドラムの音は、スタジオで実物の楽器を叩き、それをサンプラー(録音機)で録ったものです。

一方で、TR-808はバスドラム、スネアドラム、タム、コンガ、クラベス、ハンドクラップ、カウベル、シンバル、ハイハット等のドラムおよびパーカッションを模倣した(=録音ではなく人工的に作った※)音色のため、本物のパーカッションには似ていないところが特徴なのだそうです。

※TR-808の“人工的に作った音”は、アナログ・シンセサイザーのSYSTEM700を使って音を作り、そのサウンドをTR-808のアナログ回路で再現することで生まれたそうです。ローランドはそのアナログ回路のパーツの一部として「一般的には規格部外品として弾かれたトランジスタ」を購入し使用した結果、TR-808特有のサウンドになったそうです。(詳しくはTR-808 40周年記念特設サイトをご覧ください

まさに、“本物には似ていない音色”という点こそが、TR-808というドラムマシンの魅力を考える重要なポイントになりそうです。


TR-505操作方法/使用感

では早速、TR-505を操作していきます。

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基本的な操作は、楽器の名前の付いたボタンを一つひとつ指で押して演奏していきます。しかし、同時に演奏できない音色があります。例えばローコンガとハイコンガ、ロータムとミッドタムとハイタム、ローカウベルとハイカウベル、クラッシュシンバルとライドシンバル、クローズドハイハットとオープンハイハット…のように、同じ種類の楽器は同時に鳴らすことができません。その上で、さらに同時に8種類の音までしか鳴らすことができない仕様(=8ボイス・ポリフォニー)になっています。

また、自身でドラムパターンをプログラミングする際は、「STEP WRITE」「TAP WRITE」を選ぶことができます。「STEP WRITE」は譜面に音符を記入していくかのように、必要なポジションに音符を配置する方法です。「TAP WRITE」はリアルタイムでメトロノームを鳴らして、必要なタイミングでドラムのボタンをタップする方法です。今回は次項の実践編にて「TAP WRITE」の方法で、実際にドラムパターンを作成しました。

そして、このボタンの押し心地はやや固い印象です。そのため特に高速のリズムをタップするのが難しく感じます。

さらに、通常の打楽器であれば、楽器を叩く力加減で音量やアクセントを調整することができますよね。(=ベロシティと言います)しかし、このTR-505のボタンを強くタップしようが、弱くタップしようが音量やアクセントに差は生まれません。

そのため、際立たせたい音色がある場合は、該当の楽器の音量を上げる設定にする必要があります。しかし、一つのトラック(曲)の中で強くしたいところと弱くしたいところを自由に選ぶことはできません。際立たせたい音色がある場合は、一曲を通してその音色を常に強い設定にするしかないのです。これは技術の発展がまだまだ途上な段階のモデルだからなのでしょう。


実践!TR-505でTR-808の名曲を打ち込んでみた

では、TR-505を使って実際に“打ち込み”をしていきます。

今回は冒頭でお話した私の大好きなTR-808の名曲、ホイットニー・ヒューストンの「すてきなSomebody/I Wanna Dance With Somebody」を打ち込んでいきます。

「すてきなSomebody」の冒頭8小節を打ち込みの対象にし、Aさんにリズムパターンを解析していただいた結果、8小節すべてが違うパターンであるとのことでした。

パターンは1小節ごとしか作ることができません。8つのパターンを一つひとつ手打ちで作成する必要があり、少々骨の折れる作業が強いられます。

実際にTR-505を操作し、「すてきなSomebody」のドラムパターンを作成した様子を動画にまとめました。こちらの動画は各楽器の音色紹介、打ち込みの様子、「すてきなSomebody」のトラックプレイの順番で構成されています。是非ご覧ください。

(※後で確認したところ、本家の「すてきなSomebody」と若干異なるリズムパターンがありました。予めご了承ください。)

いかがでしたでしょうか。

本家の「すてきなSomebody」とこちらの動画の音色を聴き比べると、特にハイカウベルの音色の違いがはっきりとお分かりいただけるのではないでしょうか。


今回の温故知新

今回は、本来TR-808を使用して演奏すべきホイットニー・ヒューストンの「すてきなSomebody」の冒頭8小節を、TR-505で再現してみました。その結果TR-808とTR-505の音色の違いを確認することができました。

前述の通り、TR-505は本物の楽器をサンプリングした音を搭載しているのに対し、TR-808は本物に似せようと人工的に作られた音を搭載しています。

それを踏まえ、今回の検証ではTR-505の音色を知り、リズムパターンを作成することで、TR-808が目指していた本物の楽器の音色がどんな音だったのかを確認することができました。

そして、TR-808の魅力とはまさに本物の楽器とはかけ離れた、ユニークな音色にあるのだと認識することができたと思います。

また、TR-505を操作することで、ドラムマシンの基本的な操作方法を学び、使用感を体験しました。1980年代当時、ドラムマシンを使った楽曲制作がどのように行われたのかという詳細な操作についても理解することができました。

いつか本物のTR-808を実際に操作し、使用感を試してみたり、搭載されている音色がどのように実際のドラムやパーカッションと異なるのかについても検証することができたらと考えています。

今回も最後までお読みいただきありがとうございました。


参考資料

・ローランド50周年記念特設サイト

・TR-808 40周年記念特設サイト

・その他TR-505、TR-808等の情報は英語版のWikipediaにて補いました。(2022年7月参照)


ホイットニー・ヒューストンに関する記事もあります。併せてご覧ください。



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