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【本のご紹介】幸田正典 「魚にも自分がわかる-動物認知研究の最先端」

幸田正典 「魚にも自分がわかる-動物認知研究の最先端」 (ちくま新書 2021年)

 私が魚好きであることを差し引いても、これはめちゃめちゃ面白かった。まじでお勧めです。

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 動物は自分自身をどのように認識するのか。その命題に迫るひとつの問いとして、「動物は鏡に映った自分を、自分自身だと認識できるか(いわゆる鏡像自己認知)」と設問することができます。いくつかの動物種は、それができるのです。しかし全般的に、自己認知はより高次の認知機能、すなわち人間の専売特許であると考えられていました。

 ところが実は、サイズの小さな脳しか持たない魚類の一部(ここではホンソメワケベラ)が、鏡像を自分だと認識でき、自身の姿を鏡に映し出すニーズを理解し(メタ認知!)、しかも個体認識の手がかりは顔であった…と、驚異の事実が次々と明らかに!

 鏡像自己認知の設問に迫る実験モデルの工夫からも、筆者らの魚たちへの愛と深い理解が感じられ、とても好感がもてます。

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 その昔、精神科病院にお勤めしていた時に、患者様を連れて深大寺にお参りに行ったことがあります。深大寺の南側門前には池があって、たくさんの鯉が暮らしているのですが、魚たちは餌付けされており、人の気配がすると近寄ってくるのです。ただ、私が池に近づいても、鯉たちはスン、としているのですが、若い女性の患者様がパン、パン!と手を叩くと、数十匹の魚たちが波を立てて集結し、折り重なって口を開けてえさをねだり始めるのです(笑)。鯉たちは長年の経験と学習で、餌をくれそうな人とそうでない人とを見分ける術を得ていたのかもしれません。魚類の潜在能力、恐るべし…。

(おわり)

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