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【シリーズ・摂食障害14】ミネソタ研究と動物モデル

【シリーズ・摂食障害14】ミネソタ研究と動物モデル
「サイコロジー・メンタルヘルス&日々のあれこれ」

※長く勤めていた精神科病院を退職し、“街の心理士”へと華麗なる転身?を果たした「りらの中のひと」が、心理学やメンタルヘルス、日々の出来事などについて感じることを綴っています。

 摂食障害の理解と対応についての連載記事の、14回目になります。過去記事は、マガジンからご覧いただけます。

 摂食障害というものは、意図してなるものではなく、生物学的な疾病なのだ、というお話を続けています。今回は、生物としての私たちが、ダイエット、すなわち飢餓状態においてどのような反応を示すのか、ふたつの研究で示したいと思います。

1.飢餓状態の後には、過食や様々な食行動異常が現れる-ミネソタ研究


 まず、摂食障害について学ぶ者(患者様を含む)は、必ず参照することになる、有名な「ミネソタ研究」についてです。

 ミネソタ研究は、第二次世界大戦後におけるホロコースト(ユダヤ人虐殺)から人々を救い出すことを念頭に、飢餓状態が人々にどのような影響を与えるのか、実際に人間を対象に行った研究です。飢餓状態(カロリー制限)での対象者の行動と、再栄養時の対象者の行動を観察したものなのですが、研究倫理上、人を対象にした侵襲度の高い研究は再現不可能なので、二度と追試ができない古典的研究として有名なものです(参考文献2を参照)。

 では、ミネソタ研究の結果はどうだったのでしょうか。まず、当然のごとく、体重低下やそれにともなう徐脈や低体温などの身体的変化がみられました。そればかりでなく、食事への関心の集中や食行動・食習慣の変化がみられ、中には隠れ食いや盗食、残飯を漁るなど、食行動の異常をきたす者も現れました。精神状態では、不安やうつ、社会的引きこもりがみられ、自殺念慮や自傷行為に発展する者も現れました。そして再栄養時には、多くの者が過食に陥り、その影響が数か月以上続いてしまうケースもみられたのです。

 ミネソタ研究は、健常人でも飢餓状態におかれると、摂食障害の症状に酷似した心身の不調に陥ることを示します。言葉を返せば、摂食障害の症状は、個人の意思とは関係なく、飢餓状態に置かれれば否応なく発症する、と考えられるのです。

2.飢餓状態での運動過多は止められず、やがて死に至る-動物モデル


 飢餓状態における生理的反応は、動物実験で確かめられています。その中でも有名な、ラットのアクティビティモデルについてご紹介します(参考文献1参照)。

 ラットに栄養制限(餌やり時間を制限)を施し、それ以外の時間にホイール(回し車)で運動できるようにしておきます。すると、食事量が減少すると逆に運動量は増加し、摂取カロリーを上回る運動を続け、最終的に餓死してしまう、というのです。神経性やせ症の患者様はしばしば過活動を呈するのですが、やせと過活動との関係がラットでも裏付けられたことになります。

 この実験において、ラットの血中レプチン量の低下が観察されるのですが、レプチンは脂肪細胞によって産生されるホルモンなので、やせの進行による体脂肪の減少が、過活動やさらなる体重減少を引き起こしている可能性が示唆されます。

 ラットのアクティビティモデルにせよミネソタ研究にせよ、摂食障害の症状(の全てではないにせよ、重要な部分)は、個人の意思によるコントロールを超えた、生理的な現象である、といえます。「摂食障害9つの真実」で、個々人の選択(choice)ではなく、生物学的な病気なのだ、としているのは、これらの知見の裏付けがあるからなのです。

参考文献
1.安藤哲也 2014 摂食障害研究の最近の動向 心身医学54(2) pp.146-153.
2.村上伸治 2015 摂食障害治療の基本的考え方 そだちの科学25 pp.14-20.

(つづく)

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