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【シリーズ・摂食障害16】どのような属性の人でもかかる可能性がある

【シリーズ・摂食障害16】どのような属性の人でもかかる可能性がある
「サイコロジー・メンタルヘルス&日々のあれこれ」

 摂食障害の理解と対応についての連載記事の、16回目になります。過去記事は、マガジンからご覧いただけます。

 AED(全米摂食障害アカデミー)が発表した「摂食障害の9つの真実」を一つひとつ検討しています。今回は、その5項目目、「性や年齢、人種・民族、体形や体重、性的指向、経済社会的な地位の違いに関わらず、全ての人々が、摂食障害と無関係ではない。(Eating disorders affect people of all genders, ages, races, ethnicities, body shapes and weights, sexual orientations, and socioeconomic statuses.)」ということについてです。

1.摂食障害は思春期の女性に好発するが、あらゆる人がかかる可能性がある


 摂食障害は、思春期の女性に好発する病気です。その理由は、第二次性徴における体内のバランスの変化、その変化の受容の難しさ、社会化の過程における対人関係のストレス、ストレスに対処する心的機制が未発達であることなど、さまざまに説明することが可能です。

 とはいえ、思春期の女性だけでなく、あらゆる人が摂食障害にかかる可能性があります。比較的少数ではありますが、男性も罹患します(私が精神科病院在職中に接した患者様にも、複数名の男性摂食障害患者様がいらっしゃいました)。成人期や初老期に発症する人もいらっしゃいます(子どもの巣立ちによる空虚感や、身体病で実際にやせてしまったことが発症のきっかけになる、など)。当事者の方々の社会的立場も様々で、働いている人、働いていない人、結婚している人、子育てをしている人など、さまざまです(摂食障害と就労、摂食障害と挙児・育児については、のちのち改めて取り上げるつもりです)。

2.摂食障害は、誤解や偏見にさらされやすい病気


 摂食障害を含む精神疾患は、その症状や生活のしづらさ、苦痛などが、目に見えにくい病気です。

 「摂食障害は思春期女子“だけの”病気だ」という誤解に基づけば、男性当事者は奇異な目で見られてしまうことでしょう。中年期以降の当事者も同様です。摂食障害と神経性やせ症を同一視してしまっていれば、神経性過食症や過食性障害など、やせていない摂食障害患当事者の苦痛は見過ごされてしまいます。摂食障害の過食嘔吐の症状を「ぜいたく病・金持ち病」(しばしば当事者自身もそのように表現する)と見ることはできず、経済的困難と摂食障害とは、直接の関係はありません。

 摂食障害を“成熟拒否”の病気※とみなす言説がもっともらしく語られていた時代もありましたが、これも医学的には根拠がありません。その延長で、「自身の女性性を受け入れられない、健全な異性愛を発展させることができない病気」(セクシャリティや性的志向に課題がある)という理解も、極端な誤解といえます。

 繰り返しになりますが、摂食障害は、あらゆる属性の人がかかりうる病気である、ということを再確認しておきたいと思います。

※摂食障害や不登校が注目され出した時期は、旧来の社会のあり方に対し自己主張・異議申し立てを始めた時期(ベトナム戦争への反戦運動など)とほぼ重なります。成熟拒否や登校拒否という言葉遣いは、若者に“拒否された”とみなした社会の反応の産物であると理解されるべきでしょう。今では「登校拒否」とはいわず、治療や指導の対象とはみなしません。「成熟拒否」についても、今日的な理解への見直しが必要といえます。

(おわり)

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