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【シリーズ・摂食障害21】早期発見と回復について

【シリーズ・摂食障害21】早期発見と回復について
「サイコロジー・メンタルヘルス&日々のあれこれ」

 摂食障害の理解と対応についての連載記事の、21回目になります。過去記事は、マガジンからご覧いただけます。

 AED(全米摂食障害アカデミー)が発表した「摂食障害の9つの真実」を一つひとつ検討しています。今回は、その9項目め(最後の項目です)、「摂食障害から完全に回復することは可能である。早期発見と早期介入が大切である。(Full recovery from an eating disorder is possible. Early detection and intervention are important.)」についてです。

1.予防や回復は可能である


 摂食障害を含む精神疾患の多く(全てではない)は、回復するのに長い期間を要し、その間、生活のしづらさが続いてしまう(そのことをとらまえて「精神障がい」という表現を用いる)ものです。治療は時に生涯続き、病期や症状と付き合っていく姿勢が求められる場合も多いのです。

 しかし、早期に病気を発見し、対応(医学的な“治療”を含む)することにより、重症化を防ぎ、慢性化を回避し、発症自体を予防し、仮に発症したとしても完全に回復することが可能です。

 特に、初発(初めて摂食障害の症状を得てしまう)の若年者の治療では、体重を回復し排出行為・代償行為(嘔吐する、摂取カロリーを消費するために過活動になるなど)を諦めさせるために、「決められた食事を完食すること」「活動を制限すること(そのため通学や体育の授業への参加を制限するなど)」を迫るといった、強い対応をする場合があります。それは何より、早期に体重を回復させ、病的な行動を手放し、完全回復を目指すための治療上の適応なのです。

2.早期発見には、関係者の理解が大切


 摂食障害を早期に発見し、予防または治すためには、精神科・心療内科以外の関係者の理解が大切になります。

 摂食障害を発症したばかりの方は、病識(病気であるという意識)が乏しく、自ら精神科・心療内科を受診することは稀です。多くは、身体的な不調を訴え身体科(内科や小児科)にかかるでしょうし、場合によっては救急科が対応することもあるでしょう。これら非・精神科医療職が摂食障害について理解し、精神科等と連携することが大切になります。非・精神科医療職に向けては、少し古いのですが、プライマリケアのためのガイドラインが作成されています(低体重の程度と、それに応じた推奨される対応などがまとめられています)。

 非・医療職の方の理解も大切です。特に、学校(養護教諭など)や、スポーツ指導者の方などの理解が深まることが望まれます。日本摂食障害協会ホームページには、スポーツ指導者向けのガイダンスが掲載されているので、活用されるとよいと思います。

3.回復するのに時間がかかる場合には


 それでも、治療を始めた患者様の一部は、症状を手放すことができず、慢性化してしまいます。「低体重からは回復したものの、過食嘔吐が残っている」「痩せ願望(や肥満恐怖)は消えたものの、体重がなかなか回復しない」といったケースです。そしてその結果として、生活のしづらさも続いてしまいます(過食嘔吐にお金を使い、経済的にひっ迫する、会食になることを怖れ、交友関係が制限される、など)。

 神奈川県で摂食障害の通所リハビリテーション施設を運営し、その利用者への調査に基づいて、鈴木、武田(2014)は、慢性化した摂食障害について、併存症などが残存しやすいとはいえ「、慢性化した摂食障害も時間をかけて少しづつ回復していく」と結論付けています。回復にむけ、諦めず取り組み続けることが大切です。

4.要所要所でのサポートが大切


 回復するのに時間がかかる、または残存症状がある、摂食障害の背景となっている要因が残されている、などといった場合、一見回復してみえても、何かのきっかけで再燃(症状が再び現れること)してしまう場合も考えられます。そのきっかけとしては、思春期に発症し、適切な治療で回復したとしても、成人してからの職業上のストレスや、妊娠・出産・子育てのストレスなどが考えられますが、一人ひとり異なる出来事・状況がストレッサーとなるものです。

 摂食障害と就労、摂食障害と妊娠・出産・子育てについては、後日記事としてまとめるつもりです。

 それが医療である必要は必ずしもないのかもしれませんが、摂食障害の症状が軽快した後も、何らかの形で継続的なサポートが得られるようにすることが大切だといえるかもしれません。私のような心理職は、この点でお役に立てる場合があります。

引用文献
鈴木健二、武田綾 2014 慢性化した摂食障害はどこまで回復するか 精神医学56(10) pp.891-899.

(つづく)

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